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久しぶりの雲の上の屋敷は、やはり大きいものでした。
大男はいないようです。
この前の隙間から、ジクは忍び込みました。
キンが教えてくれた部屋へいくと、なんとそこには綺麗な宝石や、お皿、家具など、とにかくたくさんの宝物で溢れかえっていました。
「これは…すごいや」
思わずジクは唾を飲み込みます。
ちょっとだけ心が揺れたジクでしたが、とにかく今は竪琴だと気を取り直して、小さく呼んでみました。
「コト?いるのかい?」
するとはるか高い棚の上から物音が。見上げてみますと、ジクより少し幼い感じのする少年が見下ろしていました。
「だぁれ?」
怪訝そうな彼に、慌ててジクは「キンに頼まれてやってきた」と言います。
キンの名前を出した途端、コトという少年は顔を輝かせました。
「キンは無事なんだね?!」
「ああ!それで、君も是非僕の家に連れて行こうと思って来たんだ」
しかし、ジクの言葉にコトは首を横に振りました。
何故かと聞く前に、屋敷の入り口から大きな音が。大男が帰ってきたのです。
「大変!あの香り袋の後ろに隠れて!!」
ジクは懸命に走って言われたところに身を隠しました。
「なんだか人間の匂いがするな。もしかしてニワトリ野郎を攫った奴じゃねぇだろうな
だったら潰して団子にしてやる…!」
そう言って、大男は宝物部屋をうろうろとし始めました。しかし香り袋の影にいるジクはとうとう見つからずにすみました。
「気のせいか…?」
そう言って、大男は棚の上にいたコトをむんずと掴んで部屋から出て行きました。
扉が開いたままだったので、そこから覗き見てみると、食卓の上に少年を乗せて大男は命じました。
「歌え」
するとどうでしょう。コトはこの世のものとは思えない綺麗な声で歌い始めたのです。
大男もさすがにうっとりと聞き惚れています。
しかし数分くらいして、大男は何か思いついたようです。
棚の上を漁り、何かをもってきました。つまようじのような、小さく細いものです。
「ぁあんっ、いやぁ…ッ」
何をするのかと思っていたら、まだ歌っているコトを持ち上げて、彼のお尻の穴に、ちょっと舐めたそれを差し入れてしまいました。
大男には小さいものでも、コトにはとても大きなものです。大男の指につかまって、震えながらそれでも命令のため歌うことは止められません。
「んんっ、んーッ…あはぁ、んっ」
震える歌の間に、艶めかしい声が混ざります。大男がそれを動かすのです。
なんてひどいやつなんだと、ジクは思いました。
しばらくコトで遊ぶと、大男は食卓に突っ伏して寝てしまいました。
コトは苦しそうでしたが、自力で入れられたものを引っこ抜いて、子守唄のような歌を歌っています。
今のうちだとジクは思い、食卓によじ登りました。
「さあ、歌を止めて。早く逃げよう」
「止められないんだよ。大男の命令がないと。
それに僕は、」
「とにかく逃げなきゃ。そうしたら、小さく歌ってね」
困ってしまいましたが、今は逃げることが先です。
ジクは持ってきた布で困り顔のコトの体をを包むと、背負いました。
しかし、遠ざかっていく歌声に、大男が目を覚ましてしまったのです。
「見つけたぞ〜!」
大男は空気を震わせるような大きな声で、ジク達を追いかけてきました。
ジクはせっせと逃げて、どうにか豆の木のところまで辿りつきました。
「コト!この野郎、大声で歌え!!」
するとコトはジクの耳元で大きな声で歌い始めました。
頭が割れそうな高い音です。木に捕まっていて耳が塞げないジクは、唸りました。
「待ちやがれぃ!そいつは渡さねぇぞ」
大男も大きな体で木を降りてきます。
しかし思ったように上手く降りられないようで、そのうちにジクは地上に辿りつきました。
「お母さん!大きな斧を持ってきて!」
いまだに大声で歌うコトをキンに預けて、ジクは大急ぎで豆の木を切り始めました。
「くそ、!やめろー!!」
ミシミシと木が悲鳴を上げ、半分ほど切ったところで豆の木は大男もろとも倒れて行きました。
同時にぴたりと、コトの歌も止みました。
*
ズシィン!と大きな地響きとともに大男はぐったりと伸びていました。
死んでしまったのだろうかと、ジクが見に行こうとすると、それよりも先に誰かが大男に走り寄っていきます。
「ノッポ!ノッポ!!
やだッ死なないで…っ」
きょとんとするジクとキンの前で、竪琴の精霊はおいおいと大きな頬に縋って泣きます。
「も、もしかして…、コトは大男のことが…?」
恐る恐るキンが尋ねると、鼻をすすりながらコトは頷きました。
乱暴で、あまり顔もスタイルもよくなくても、毎日あんなふうに悪戯されているうちに愛しくなってしまったようなのです。
「ど、どうしようジク…」
困り果てて顔を見合わせていると、突然後ろから声をかけられました。
「お困りのようだねぇ」
「妖女のおばあさん!」
それは、ジクが初めて豆の木を登った時に大男のいる屋敷を教えてくれた魔女でした。
「約束通り、大男を懲らしめてくれたようだね
御礼に何か願い事を叶えてやろう」
成り行き上こうなってしまったわけで、大男を倒す気はまったくなかったのですが、魔女がとても嬉しそうにいうものですから、じゃあ、と言って願いことを言いました。
「あの大男を人間と同じ大きさにして、ちょっとはいい奴にしてください」
「そんなことでいいのかい?今なら、何だって手に入れることができるよ」
ジクのお願いに魔女は目をパチクリさせています。
するとジクはにっこりと笑って、キンの肩を抱き寄せました。
「僕はもう、この世で一番大切な宝物をもらったからね」
ぱぁっと、キンの顔が赤くなりました。
ジクの答えに魔女は「そうかいそうかい」と嬉しそうに笑っています。
「さぁさぁ退いとくれ」
おばあさんはすたすたと大男のもとに歩み寄ると、杖を振りながら何かを唱えました。
途端にカーっと凄まじい光があたりを覆います。ジクもキンも思わず目をつむりました。
そして次に目を開けた時、あの大男の姿はなく、かわりに少しがっしりした体形の人間がコトの横に倒れていました。
「あぁっノッポ…!」
唸りながら目を開けた元大男に、コトは彼の首に抱きついてまた泣きだしました。
*
ジクがお願いしたとおり、人間になった大男は少しはましな性格になったようです。
目を覚まして、心配してくれていたらしい人たちに御礼をいって、コトを伴って旅に出て行きました。
「豆の木もなくなっちゃったし、キンももう自由だね」
ジクが寂しそうにそうつぶやくと、キンはそっとジクに寄り添いました。
「私は、ジクの隣にいたい…。私の自由を、君がもらってくれないかな」
はっと顔をあげて、キンの顔を見つめます。
キンは恥ずかしそうにしていましたが、ちゃんと返事が欲しいというように、じっとこちらを見ていました。
「キン…、大好きだ!僕とずっと一緒にいてくれ!!」
ここで口を噤んでは男じゃない!そう思ってジクはキンの手をぎゅっと握りました。
二人の距離を詰めると、キンはすりすりと密着してきて、言いました。
「はい…!」
二人はいつまでも、幸せに暮らしましたとさ。
めでたしめでたし。
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今年中に終わることができてほっとしました!
お付き合いありがとうございました★