去年の12/1と今年の1/18、3/24の日記「ハタチといえば」の続きのようなものです。
ちょっと後味悪いかんじになりました。すみまてん★
登場人物とまとめ。
●爽→大学生。彼女を親友にとられ、不貞腐れていたときに智博と出会う。
●智博→ヤクザ。出会った当時37歳。爽を気に入って家を与えて飼うことにした。
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(※ご注意!死ネタです※)
私が彼にあったのは、1年に数回ほど。両手の指で足りるほどの回数でした。
幹部である智博さんが、忙しくて外出がままならず、様子を見てくるようにと言われたとき。食事をしているか眠れているかを尋ねて、無事を確認して帰る。それくらいの付き合いでした。
そういえば初めて彼、爽という青年を尋ねた時、私の来訪にひどく驚いていて、私が様子を見に来たというと小さく「飽きたんじゃなかったんだ」と呟いたのを覚えています。
互いに顔見知り程度。しかし今日、私は思いがけなく彼と出くわしました。
今、私が仕えていた智博という名の幹部は、ひとけの無い、墓地の奥の小さな墓に眠っています。
健康が取り柄だったはずですが、ある日突然、心臓の病気であっという間に亡くなりました。
その墓石の前でたたずむ男性こそ、彼だったのです。
「爽…くん、」
彼はゆっくりと振り返りました。初めて出会った時の子供っぽさはなくなり、すっかり男に見える彼は表情なく、再び墓石に目を戻しました。
「こんなところに居たんだな」
「・・・」
彼には、墓の場所を教えていませんでした。突然の死と、生前に幹部がいざという時のためにと教えてくれていた口座だけを教え、いろいろな引き継ぎや幹部の家族のケアに忙しくしているうちに彼は姿を消していたのですから。
どうやら自力で探したようです。
「自分でも、気持ち悪いと思ってるよ。でも、やっぱり一目見ておきたかった」
私の心を読んだように、彼は呟きました。
彼の手には、数本の花。花束とは呼べないような少ないそれを持ち上げて、彼は、
墓石を思い切り叩きました。
「・・・」
「ホント勝手だよアンタ…。人のことメチャクチャにしておいて、さっさと自分はオサラバかよ」
一瞬で散り散りになった花を握りしめている手が震えていました。
大声ではありませんでしたが、気が昂っているらしく、彼の声は所々上ずっています。
「元になんて…戻れねぇよ。あんな、あんなに強烈に俺にアンタを刻んで…ッ」
そこで一度言葉を切り、彼はうつむいて唇を噛みました。
「大金だけ置いて逝きやがって…ッ」
とうとうしゃがみこんで、爽くんは泣きだしました。その姿は、先ほど感じた大人っぽさではなく、見た目以上に幼い彼でした。
その背に手を置いては見たものの、何も言葉に出すことはできませんでした。
彼はしばらく泣いて、小さく何か呟きました。
「それでも…、好きだったんだ」
私に聞かせるつもりで呟いたのではないらしく、本当に小さな声でしたが、確かにそう彼は言ったのです。
「馬鹿みてぇー…」
鼻をすすりながら、彼は笑いました。
その後、何事もなかったように彼は立ちあがり、早足で墓地を後にしていきました。
「これからどうするつもりですか」と声をかけてみましたが、返事はありませんでした。
私は彼の姿を見えなくなるまで見送り、彼がしゃがんだときに落としたと思われるボロボロの花を二つに分けて、
もってきた自分の花に添えて、左右の花立てに指し、私もそこを去りました。
彼がその後、どういう人生を送ったのかはわかりません。墓で会うこともありませんでした。
しかし立ちあがった彼の顔を見た私は、彼がちゃんと生きているように思います。
それは、立ち去る彼の背を、誰かが優しく押していたように感じたからかもしれません。
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