顔は、親にやられた。殺すつもりだったらしい。斧でメッタ切りにされ、文字通り死に物狂いで逃げた。
山をさまよいながら、食べられそうな植物を見つけて生き延び、転々と旅をして今に至る。
その中には、モンの顔を憐れみ、または情けをかけて手を差し伸べる人間もいた。
しかしそれは、彼らの自尊心を満足させるだけの茶番。モンは何度も裏切られるうちにそれを学んだ。
信じられるものは己のみ。見つけた技術と、知識。それだけで十分だ。
旅をするうえで必要だから仲間とともにいるが、できることならばずっと一人でいたい。
ふぅ、と息を吐き出すと、無駄に大きなベッドに横たわる。
「馬鹿馬鹿しい。明日になったら、引き摺ってでもここを出るぞ」
誰にいうでもなくそう呟いて、モンは目を閉じた。
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控えめ過ぎるノックに、完全に寝入っていたモンは覚醒してもなかなか起き上がれなかった。
ようやく体を起こし、やや乱暴にドアを開ける。
「あ、あの…お食事は…?」
あの召使だ。どもり癖があるらしい。
「ああ、今行く」
ちらりと窓をみると太陽が高かった。昼食の時間なのだろう。
今朝のようにペコリと頭をさげた彼を、モンは無表情に見下ろした。
「なんで…逃げなかった?」
「え?」
ウノがモンを見上げる。どうしてか無性にイライラして、モンは奥歯を噛んだ。
「何故淫魔なんかになった。そうまでして仕えるような主人じゃ、ないだろうが」
少年たちを集めたのは紳士の父だったというが、共に逃げ延びたのなら、もっとマシな生き方があったろうとモンは思う。
こんな、小さな少年が、永遠に男の精を貪って生きていくのは、ひどすぎるのではないか。
しかし、ウノは首を横に振った。
「ご主人様を、悪く言わないでください…
あの方なりに、一生懸命考えて選択した生き方なんです」
その返事に、モンは盛大に舌を打つ。まったく本意ではなかったが一応詫びた。
「…悪かったな」
「い、いいえ。すみません」
パタパタと去っていく後ろ姿を、モンは消化しきれない気持ちで見送った。
昼食を食べた後、ようやくテトラも起きてきたので、明日にはここを発とうとモンは提案した。
「はは、嫉妬かよ?」
「そういうんじゃない…。お前らの身のためだ」
「モン、相手を見てみろ。男の精にすがって生きていくしかない憐れな生き物だ」
かわいそうだろう?とまったく情のこもっていない顔でジトリも笑う。
結局、「気が向いたら出発」というあいまいな結論で各自の部屋へ引き上げた。
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夜、ジトリとテトラが、少年たちの来訪を心待ちにしている頃、その少年たちは夕食の後片づけをしようとしていたウノを囲んでいた。
「な、なに…?」
お盆を胸に抱きしめて、ウノは取り囲む彼らを見る。
「あいつの部屋、行ってきなよ」
「え?」
「あの、モンスターみたいなグシャグシャ顔の男んとこ!」
大きな声に、反射的に肩をすくませて、しかしウノはプルプルと首を振った。
「や、やだ…僕はご主人様にしか…」
「ご主人様は、お客がいないときは俺らの相手もしなきゃなんないんだぞ!」
ひとりの言葉に、ウノはうっと詰まる。
たしかに、うまい具合に男だけの旅人が近くの村に現れないかぎり、自分たちの栄養源はあの紳士だけになってしまう。
彼は何も言わないが、5人もの相手をするのは、さすがに大変だろう。
「それにウノ、お前そろそろ食事しないとまずいだろ?」
またビクリとウノが震える。そうだ。いつもぎりぎりの精で生きているウノは男たちが来る前から食事をしていない。かれらにとって精が切れることは、死を意味する。
態度は悪いが、4人はそれなりにウノのことも考えているのだ。
「目も潤んでるし…、ほんとは欲しくてたまらないんじゃない?」
ウノはうつむいたが、少年たちには彼の喉がゴクリと動くのが見えていた。
「あ〜もう!めんどくさい奴!」
だんまりなウノにとうとうしびれを切らした一人が、がばっとウノを羽交い絞めにした。
「あっ」
お盆を落としてじたばたと抵抗するが、食事をしたばかりの彼らと、空腹状態のウノでは勝負にならない。
「ちょっとだけ精をわけてあげる。
中途半端に食事するのが、一番つらいからね」
「や、やだぁっ」
頬をがしっと挟まれて、美しい顔が近づいてきた。
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次エロいくよん★