週末に更新できるかあやしいので、子豚を書いてゆきます!

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次の朝、ティカルが目が覚ますと、プラムの顔がすぐそばにありました。

「・・・」

ずっと抱きしめてくれていたのでしょう。プラムはティカルを足の間に座らせて眠っていました。
うっとりと、目をつぶっていても端正な顔を見つめます。

首飾りがないと子豚の姿になってしまうこと、子供の時に実は会っていたこと。ずっと黙っていたそれらを知られてしまいましたが、プラムは優しく受け止めてくれました。とても心があたたかくなって、くふりとティカルは笑みを浮かべます。

そして、何気なく首飾りを見下ろしたティカルは、はっとしました。
なんと、裸だったのです。

「ぶ、ぶひっ…!」

子豚から人間に戻ったとき、あまりにティカルは感動していたものですから、服が脱げていることにも気付かなかったのでした。
慌てふためきながら、しかしできるだけ慎重に、プラムを起こさないように、抱っこの腕から抜けだします。

一晩中こんな姿でいたのかと思うと、顔から火が出そうです。落ちていた服を拾い、彼が目を覚まさないうちにと身につけていきます。

しかしまだお尻が隠れきっていない状態で、プラムが起きてしまいました。

「…ティカル?」

それもお尻をつんとプラムに向けていたものですから、ティカルはどっと耳まで赤くなります。
起き抜けでしたが、プラムはティカルが何を考えてそんなに赤くなっているのかをわかったようです。まだ少し眠そうに、とろりと笑いました。

「ひぇ!ブヒィっ」

堪らなく恥ずかしくなったティカルは、慌てて服を引き上げ、朝の挨拶もせずに部屋を飛び出しました。



「どうしよう。プラム怒ってないかなぁ…」

お昼過ぎ、お茶の入ったカップをいじりながらティカルは呟きました。反対側に座っているのは、ファファです。

「行って、聞いてみればいいじゃないか。仲いいんだからさ」

一方ファファは眠そうに欠伸を噛み殺しながらお茶を飲みます。実は、オクの指示で一晩中反省文を書いていたそうなのです。
なんで僕がよその国の、しかも王でもない側近の命令を聞かなきゃいけないんだと、はじめは噛みついたファファでしたが、「父王に今回のことをばらしてもいいのか」と言われ、しぶしぶ従わざるを得なかったのでした。

もちろんティカル本人にも、先ほど「昨日はごめんなさい」と頭を下げて謝ったのですが、当の本人はそれよりも、今朝プラムに挨拶もせずに出て行ってしまったことが気がかりなのでした。

「で、でも、恥ずかしいよ…!」 

ファファは眠い目をしょぼしょぼさせながら、しかし昨日のこともあってティカルを放って、また反省文を書かされるのは堪らないので、頑張って話し相手になるのでした。




夜になります。ティカルは、どうにか勇気を出して、いつも日課のお酒を持ってプラムの部屋を訪れていました。

「ティカル、来たのか」

「あ、あの…、うん。今朝は、挨拶もせずに出て行ってごめんなさい」

「あぁ、それは…気にしなくていい」

しかしどうしてか、今日のプラムは昨日のような優しいおおらかな態度ではなく、何かを気にしているようです。おびえているわけではないようですが、しきりに窓をチラチラ見ています。

「どうしたの?プラム」

「いや。ティカル、すまないが今日は…」

酒はいらないと、やんわり帰そうとしたプラムでしたが、ティカルの背後に現れた人物を見て、諦めたように言葉を飲み込みました。

「こんばんわぁ」

「ブヒ?!」

二人しかいないと思っていた空間での、突然の第3者の声にティカルは飛び上がって驚きます。お酒の瓶を取り落としそうになりながら振り向くと、そこにいたのは女の人でした。

ティカルよりも背が高く、胸の大きく開いた真っ黒な服を着た、どことなく迫力のある女の人です。
どっどっと心臓を煩くしながら、ティカルはいつからそこにいたのだろうと、怖々その人を見上げました。


プラムが苦そうな顔をしながら、女性に話しかけます。

「ニータ…。どうしたんだ急に」

「昨日、カーテンを閉めていたでしょう?何をしていたの?
約束でしょう?夜は絶対カーテンを閉めないって」

二―タと呼ばれた女の人は、真っ赤な唇を三日月のようにして笑っているのですが、ティカルにはどうしてか、怒っているようにも見えました。
知らず知らずのうちにプラムのほうへ後退りしてしまいます。

「あぁ、昨日はうっかりしていたな。疲れていて、早く寝たんだ」

平然とそう返すプラム。 女の人はなおもニコニコ笑いながら「そう」と頷きました。
カーテンを閉めていたらどうして悪いのかわかりませんが、納得したらしい二―タは今度はティカルに視線を向けます。

「貴方、最近出来たプラムのお友達ね。
私は二―タ。どうぞよろしく」

そして品のあるお辞儀をしてみせるので、ティカルも慌てて正式なお辞儀を返しました。
二―タは、じっくりと頭からつま先までティカルを見て、そして鼻をじっと見つめます。

「とても強い呪いね。
私の国の管轄外だけど、わかるわ。

無事に呪いが解けるよう、お祈りしているわ」

ティカルは、鼻をぱっと隠して、何と返していいかわからないと言う顔をしました。呪いが解けるとは、つまり鼻が人間らしくなるということでしょうか。
そもそもこちらの国の人は、ティカルの鼻を呪いだとは思わなかったのに、一目でわかってしまうこの人は一体何者なのでしょう。

わからないことが多過ぎて、ティカルは困ったようにプラムを見ました。
プラムもティカルに何か言おうと口を開きかけましたが、しかし発せられたのは二―タの楽しげな声でした。

「さぁ、悪いけど今日は帰ってもらえるかしら?
これから夫婦の時間なの」

「えっ?」

「ニータ。俺たちは夫婦ではない」

夫婦という言葉に困惑するティカルに、即座に訂正するプラム。しかしニータは豊かな胸に流れる豊かな髪を、ひと房、指に絡めて笑います。

「そう遠くない未来に夫婦になるのですもの。いいじゃない」 

「・・・」

ずいっとニータがプラムに押し寄せてきます。ただ近付いただけなのに、威圧感を感じて、ティカルはプラムのそばを、その女の人に渡してしまいました。

「キスして、プラム。いつものように」

囁くように、しかしティカルに聞こえるように、ニータはプラムの頭を引き寄せます。
これ以上見てはいけないとわかっているのに、ティカルは縫い付けられたようにそこから動けませんでした。

「・・・」

同じように動かないプラムに、じれったそうに、ニータが首をくねらせます。

「愛しい人、私のお願いを聞いてくれないの?」

プラムが、とても暗い目でニータに顔を寄せました。ニータが一瞬、視線をこちらに向けて、にっこりと笑います。

「!」

二人の唇が合わさるのを見た瞬間、ようやくティカルの足は動くことを思い出したように、プラムの部屋から出ていきました。 


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甘々かと思わせつつの、この展開!