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子豚な王子様8



「あなた、何があったの?」

騒動はすぐに王妃にも伝わり、ティカルを探していた王を廊下で見つけ、走り寄りました。
王様が悔しそうに会議室での話を聞かせると、王妃は口を覆って「何て酷い…」と目に涙を浮かべました。

「あ、あの、王様、お妃さま…」

そこに女の人の声がかかります。おどおどした様子の侍女、ピテです。

「ティカル王子はこちらです…」

ピテは今では、ティカルの身の回りの世話のほかに、城の掃除なども受け持っていたため、昔のようにずっと一緒ではありませんでした。しかし偶然、目にも止まらぬ速さで走っていく子豚を見つけ、何かあったに違いないと、慌てて跡を追ったのです。

ピテが案内したのは、ティカルが子豚の姿のときに使っていた、城の奥の部屋でした。

「ティカル?入るわよ?」

王妃がそっと入っていきます。ティカルは、部屋のすみっこで、プルプルと震えていました。短い脚で今にも倒れそうになりながら。

「ティカル、ほら首飾りだ。かけるよ?」

王様が跪いてゆっくりと、それをかけてあげます。すると瞬く間に、ティカルは人間の姿にもどり、わなわなと口を震わせて、泣き始めました。火がついたような、激しい泣き方でした。

「ふ、ひぅっ…ブヒっ、うわぁあ〜んッ」

「・・・ティカル、大丈夫だ。お前を豚の姿に戻すなんて、絶対にしないよ」

「あぁ、あぁ〜んッ、ブヒュッ、ふぇっ、ふぁあ〜ん!」

人間でいえば、もうティカルは大人の仲間入りをしている年です。しかし大事な子供の時期を、子豚の姿で過ごした彼は、まだ完全に心が大人になりきれていないのだと、両親はわかりました。

王妃に優しく抱きしめてもらって、それでもなかなか泣きやまなかったティカルでしたが、やがて泣きつかれて眠ってしまいました。

「怖かったのね…。ティカル」

今使っている部屋に戻されて、眠るティカルを前に、王妃は悲しそうに言いました。そして王様は決意しました。

「呪いを解いてもらえるよう、頼みに行ってくる」

「私も行くわ」



そして二人は、大急ぎで森にある一軒の家に行きました。相変わらず深くフードをかぶった女性は、王と王妃が連れだってきたので驚いています。

「何のご用?」

「ティカルの呪いを解いて下さい」

王妃がまっすぐに女の人を見て、言いました。
しかし彼女は、首を振って拒否します。

「魔法使いの首飾りで、人間の姿に戻れたのでしょう?」

「何かの拍子に外れることもある。もしかしたら、首飾りが壊れることもあるかもしれない。

ティカルは、子豚のままでは泣くこともできないんだ。ひたすら体を震わせて、何を言うことも出来なくて…、」

王の瞼の裏に、部屋のすみでプルプル震えていた子豚が蘇ります。感情を表すこともできず、ひたすら恐怖と戦っていたティカル。
王の必死の訴えに、女の人は少し考えましたが、やはり答えはノーでした。

「私は、あなたを許せないわ。醜いものから、綺麗なものに乗り換えたあなたを。

絶対に、そんなことしないと思っていたのに…。
幸せにしてくれると思っていたのに…」

「幸せにしたいと思っていたんだ。本当だ」

王がそういうと、醜い顔の女の人はキッと睨んで叫びました。

「嘘よ!誰だって美しい者のほうがいいのよ!もう帰って!!」

「嫌だ帰らない!」

王の大声に、女の人は少しびっくりした顔をして、ドアを閉めるのが一瞬遅れました。
その間に、王は話を始めます。

「君は、僕と付き合っている時からそうだった。
私は醜い、美しくない、と。
でも僕は、君の優しさが好きだったし、薬草についてもっと知ろうとする頑張り屋な所も好きだった。

君を幸せにしたかった。自分に自信を持ってほしかった。

…だから、言ったんだ。結婚しようって。

それでも君は、気にしていたね。醜い、美しくない…。
僕は怖くなった。結婚しても、君はずっとそう言い続けるのだと思ったから…。

裏切ったことは、僕が悪い。でもそれは、君の顔のせいじゃない。君の…心のせいだ」

「・・・・・・」

女の人は、呆然と王を見ました。考えたこともありませんでした。
今までずっと、王に裏切られたのは、この顔のせいだと思っていたのです。自分との事は遊びで、結婚も全て嘘だったと信じて疑わなかったのです。しかしそう思う心が、原因だったのだと突きつけられて、口をぎゅっと閉じて、俯き、しばらく黙ってしまいました。

逆効果だったろうか、と王様がハラハラしていると、ゆっくりと女の人は顔を上げました。

「よく…、わかったわ。
私は、顔だけではなく、心も醜かったのね」

卑屈な言い方に、王様の眉根が寄ります。しかし女の人は、ふうと息を吐いて、ずいぶんすっきりした顔で、王と王妃を見ました。

「そうね。私が男でも、私のような女は嫌だものね。
…わかったわ。子豚の呪いは解いてあげます」

二人は「え?」と顔を見合わせました。一瞬、彼女が何を言ったかわからなかったのです。
もう一度言われて、やっと理解しました。

「ほ、本当に?」

女の人は頷きました。しかし、すぐというわけにはいかないと言いました。

「呪いをかけた私でも、あのときの怨念をすべて帳消しにすることはできないわ。

呪いを解く鍵は、王子の強い気持ち。

愛する人を見つけ、想いが通じ合った時、呪いは完全に解けるはずです」 



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