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子豚な王子様41



「もう行っちゃうんですか?」

堂々としているのか、照れ屋なのかわからない二人は、その後エンとティカルを食事に誘ってくれました。
なんでも頂き物のおいしいシチューがあるのだそうです。
たしかにとてもおいしくて、ティカルは言葉が話せたらおかわりしていただろうなと思うほどでした。

そしてエンは、服が乾くとティカルを肩に乗せて二人に別れのあいさつを言いました。

「村までは時間がかかるぞ。暗くなればヲーンも危険も高まるし。
明日の朝に出発したらどうだろう」

服が乾くまでといった張本人のハルも心配そうです。
しかしエンは首を横に振りました。エンがそう言うならティカルもいっしょに首を振って見せます。

「当てのない旅だけど、空豚と遭ってからは何かに不思議な力に引っ張られているような気がするんです。

どこに行くつくかは、わからないけれど…」

少し不安げな顔をしたエンですが、すぐに笑顔にもどりました。



カイは車椅子に乗り換えて、ハルとともに庭先まで見送りにきてくれます。

「エンさん、空豚くん」

ではさようなら、と背を向けようとしたエンたちをカイが呼び止めます。
彼は身を乗り出して、今にも立ち上がりそうになりながら、言いました。

「二人が行きたいところに、たどり着けるよ!いつか、きっと!」

「・・・」

いままでカイの印象は「ほんわかした青年、ハルの庇護者」だったエンですが、その印象がガラリと変わるほど力強い声でした。
ポカンとしてしまったエンたちに、カイはポポポと顔を赤らめます。

「あ、あの、ごめんなさい…。なんだか、口が勝手に動いちゃって」

そう言って恥ずかしそうに口を押さえるカイの肩を、微笑みながらハルがポンポンと叩きます。
二人の姿を見て、エンとティカルは、彼らは行きたいところにたどり着いたんだなと感じました。

「はい。たどりついてみせます!いつかきっと!」

「ピキぃ!」

そう言って今度こそ、森の中の小さな家に背を向けて、一人と一匹は歩き始めたのでした。



*****

ちょっと短いですが、書ける時に書いていこうと思います〜

子豚な王子様40

皆様台風大丈夫でしたか?こちらは何事もなく通り過ぎました。

お久しぶりです!やっと暑い盛りもすぎたようですね。
とりあえず、しばらくは子豚を進めます!よろしくお願いします〜。

*****


「ぴき、ブヒぃ」

家に入る許可をもらったエンは、はじめに刃物を向けてきた男の人のものらしき服を借りて、服を干しました。
そしてティカルは、家の中にいたもう一人の男の人に大きな布で体を拭いてもらいます。

「もう大丈夫かな。寒くない?」

「ぶひっ」

返事をするように一鳴きしたティカルを見て、彼はにっこりします。
椅子に腰掛けている彼の膝の上に乗せてもらったので、懸命に上を見上げます。

「ふふ、ねぇハルさん。この子豚さん、僕の言葉をわかってるみたいだよ」

「あぁ、なかなか賢そうな子豚だ。大きくなったらやっかいかもな」

最初の男の人は、エンを威嚇していたときとは大変な変わり様でもう一人に優しく接します。
この人はもともとはこちらのほうが素なのかなとティカルは思いました。

「すみません。服までありがとうございます」

「ああ。天気がいいから、すぐに乾くだろう。しかしどうしてあんな場所で溺れるんだ?子供の膝ほどもないんだぞ」

すべって転んだと男の人は思っているのでしょう。また、説明しようと思ってもエンたちですらよくわかっていないので、エンはあいまいに「はぁ、よそ見してて…」ともにょもにょ誤魔化すのでした。

「それにあんな場所に、堀があるなんて思わなかったので」

よそ見と言ったときには笑っていた二人でしたが、エンが何の気なしにそう言うとぎょっとした顔をしました。

「ヲーン対策を知らないの?」

「ブヒ?」

聞き慣れない言葉に、ティカルとエンは同じように首を傾げました。
男の人はため息をついて、「どこから来たのかわからんが、この近辺を歩くならそのくらいは知っておきなさい」と話し始めます。

このあたりには、ヲーンという猛毒を持つ虫がいて、ただ触れただけで皮膚が爛れたようになり、毒が血流に乗ってしまえば、ほとんどの者が死んでしまうのだそうです。
しかも暖かいものを好む習性があり、森に入る人間の足にくっつこうとするため、専用の靴を履くなど、きちんと対策をしなければいけないのです。

毒にあたってしまえば、生存はほぼ不可能といわれていたヲーンですが、ようやく近年、弱点が見つかったのでした。

彼らは水が嫌いでした。

体内に入った毒すらも、数秒、水に潜るだけで無効化できました。
そして家のまわりに小さな堀を作るだけで、侵入も防げるのです。

そう言われて見てみると、なるほど玄関の横に大きな水甕がありました。

「そうなんですか。やっかいそうですね。足が悪ければ、さぞ大変でしょう」

「あ、いや…僕は…」

他意はなかったエンですが、困った顔をする青年に、言ってはいけないことを言ってしまったのだなと直感します。

「すみません」

咄嗟に謝罪が口から出てきて、エンはペコっと頭を下げました。彼は相変わらず困った様子で、代わりにハルさんと呼ばれていた男の人が「いや、気にしないでくれ」と返します。

ティカルはその間、ずっとうつむいていた彼を見上げていました。
その目はとても何かに対して申し訳なさそうにしています。

「ぴぃ」

ティカルが「大丈夫?」と声をかけます。残念ながら子豚の鳴き声にしかなりませんでしたが、どうやら彼にはなんとなく伝わったようです。
ティカルと目を合わせると、そっと微笑みました。

「・・・僕は、平気なんだ。ヲーンに触っても」

「カイ?」

驚いた声を出すハルに、カイと呼ばれた青年は「ちょっと、話していいかな?」と伺いを立てます。
ハルは困りながらも、エンをちらりと見て、「まぁ、彼なら…」と頷きました。

「僕は生まれつき、ヲーンの毒が効かなくて、それでとてもひどい目にあったんだ。
今でもちゃんと歩けないのはそのせいなんだけど。

でも、僕は…ヲーンを嫌いではないんだよ?」

「え、でもひどい目にあったんでしょう?」

エンの言葉に対して、大きく頷きながら、それでも彼は「嫌いじゃないよ」と繰り返しました。

「ヲーンはね。きっと寒がりなんだ。だから、あたたかいものに惹かれてしまう。
そうやって、小さいからだで、一生懸命這って、近寄りたがっているのかなって思うと、僕はそれを嫌いだとは思えないんだ。

・・・ごめんねハルさん」

話している途中から涙声になったことに、いち早く気づいたハルは、すでにカイの後ろに立って、細い肩に両手を置いています。

「謝らなくていい。そういう気持ちごと、君だからね」

「ハルさん・・・っ」

エンが「えっ」と思う間もなく、二人は感極まったのかカイの肩越しにキスをしました。
間近で見ていたティカルは小さい目をまん丸に開いて、思わず飛び上がってしまい、カイの膝から転げ落ちてしまいます。

「ブヒッ」

「あ!ごめん子豚さん!!」

お客さんがいたことをやっと思い出したらしい二人は、赤い顔をして、ハルがまたカイの膝に置いて、誤魔化すように二人してティカルをナデナデしました。


*****


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