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:†文スト夢小説/乱歩夢・壱†:




*文豪/ストレイ/ドッグスで短篇夢譚。
*登場夢主は乱歩の相方で福沢の養女。
*日常系なほのぼの話を目指してます。



【:†名探偵との出掛け方†:】



乱歩は自由奔放で天真爛漫で気分屋だ。
それは、乱歩との付き合いが続いている今も。乱歩と出会って付き合い始めて真新しかった昔も。そして、多分。これから先も、終ぞ変わる事は無いのだろう。

だから。つまり。現時点で目の前で起こっている有り様――国木田の如何しようも無い困り顔と事務所の雰囲気も、そんな乱歩から生じた事象の延長線上に過ぎないものなのだと。何と無く察する事が出来た。

「国木田……あ、うん。大体解った」

外回りから帰って来て早々。如何したのか。そう訊ねようとした矢先に、後輩の国木田から無言で盛大に頭を下げられる。次いで、机(デスク)を椅子代わりにして、その上に嬉々として悠然と座っている乱歩の姿を見付けて、大体の状況は把握した。

確か。記憶している予定(スケジュール)が正しければ、今日は乱歩宛に依頼の予約が入っていた筈である。しかも、この時間帯、義父様――もとい、社長は所用で外出しており、不在だ。故に。此処迄頑張って尽力して呉れた国木田に対して、この場で無性に「偉い偉い」と褒めたくなった。

「……すみません。詩歩さん」

「ううん。善いよ、気にしないで。そんなに大した事じゃ無いし」

それに、今に始まった事じゃ無いから。
そう云って、深刻そうな表情をした国木田の肩を叩いて宥めると、私は机の上に座っている、件の名探偵へと歩み寄った。

「ただいま、乱歩」

「やぁ。おかえり、詩歩」

お気に入りの駄菓子を食べ乍ら、上機嫌を絵に描いた様に微笑む乱歩。

彼こそが、この『武装探偵社』を支えている名探偵。探偵社の生命線とも云える大黒柱なのだが、少々(後輩が胃を押さえる位には)自由奔放で、気分屋な処が有る。

何時もなら社長が鶴の一声で諌めて呉れるのだが、不在の今は期待出来そうに無い。なので。取り敢えず。私はたった今思い付いた、出来立てほやほやの発案(アイデア)を、乱歩に提示して見る事にした。

「ねぇ、乱歩。デートしよう」

「え? それって今から?」

「うん。今から。正確には、乱歩が仕事を終わらせてから。それに、私の都合で二時間位で終わっちゃうかもなのだけれど」

「それでも良い?」と訊ねた途端、乱歩の表情がキラキラと輝き、嬉しさと期待が全面に押し出されたものへと変わった。

「あっはっはっ! 莫迦だなぁ。良いも悪いも、僕が詩歩からの誘いを断る訳が無いじゃないか! 善し。そうと決まったら直ぐ行こう。事件なんてパパッとサクッと解決して、デートを満喫しなくちゃねっ!」

「うん。解った。でもその前に、仕事の引き継ぎをお願いして来るから、三分位待っていてね」

意気揚々と出掛ける準備を始めた乱歩に軽く制止を掛け、私は部下である事務員を数名召集する。私が不在中の『繋ぎ』として幾つかの仕事の引き継ぎをお願いすると、部下たちはそれを快く引き受けて呉れた。皆一様に、何処か肩の荷が降りた様な、心の底から安堵した表情を浮かべている。

それ程迄に、乱歩の対応に余程四苦八苦していたのか。如何やら部下たちの天秤は、一時的な仕事の増加よりも、そちらの早期解決へと重く傾いていた様である。

私の発案が探偵社にとって二重の意味で助け船に為ったのならそれで良いが、部下たちの仕事を増やして仕舞った事に代わりは無い。日々心労が絶えない部下たちに、後で差し入れを持って来ようと決心した。

「……お待たせ、乱歩」

丁度三分程度で部下たちへの引き継ぎを終えると、待っていましたと云う体で、乱歩がズイッと此方に手を差し出して来た。

「ほら、詩歩。早く行こう!」

「うん」

乱歩から差し出された手を取ると、その儘乱歩に引っ張られる体勢で以て、社員たちの温かな視線に見送られ乍ら、私は探偵社を後にしたのだった――。



退屈は乱歩を殺す。事件が有っても興味が無い、或いは気が乗らなければ、乱歩は能力を発揮しない。ならば。そこに続く様に、乱歩が好きに名探偵を出来る様に、此方が考慮して行動すればそれで済む話だ。

動かない相手を無理に動かそうとするから、それで大抵の事象は拗れて仕舞う。
ならば、此方が譲歩すれば良い。文字通り相手に自分の意見を提示した上で、発言を譲れば良いのだ。最終的な判断は自分と相手の利害の相互一致も加わって来るが、それは普通の一般人に当て填まるものだ。

乱歩に関しては、別段それで困った事は無い。乱歩は他人には出来無い事が出来る。他人には見えない解決の糸口が見える。
それは乱歩の絶対的な強みだ。それを存分に発揮出来る場所が有れば、自ずと乱歩の興味の矛先はそちらに向くだろう。

だから。この場を借りて、幾つか弁明をしようと思う。私は断じて、乱歩の扱いに長けているのではない。乱歩が私の発言に乗って呉れているのだ。自身よりも能力の劣る私の発言に、敢えて乱歩は譲歩して呉れているのだ。理由など簡単で明白だ。

それが合理的でお互いに都合も効率も良いから。乱歩にとっても、私にとっても。

『探偵社最強の事務員』と云う、何とも仰々しい肩書きが、何時から私に附与されたのなのかは定かでは無い。探偵社の武術の最強ならば社長だし、推理の最強ならば間違い無く乱歩だ。私はただ、乱歩が名探偵として恙無く行動し易い様に、探偵社を支える事務員兼調査員として、各場面や各要所の段取りを整えているに過ぎない。

【超推理】を発揮せずとも、その機微を看破するのは、乱歩には朝飯前だろう。
敢えて私に合わせているのは、自惚れになるかも知れないが、乱歩に私個人として信頼されているからだと、そう願いたい。

そう願わずには、いられない。



「……ねぇ、乱歩。如何して、今日の依頼に行きたがら無かったの?」

「ん〜。待って居たら、こうして詩歩と出掛けられる気がしたから」

宣言通り。事件をパパッとサクッと解決して見せた乱歩は、仕事が終わったその足で私を連れて、とある喫茶店のテラス席で、甘味に舌鼓を打っていた。

「根拠は? 私の帰りが遅くなる可能性だって、十分有った筈だよ?」

「それは無いよ。詩歩も僕と同じで、依頼に時間は掛けない性分だからね。それに万が一長丁場に為るとしたら、詩歩ならもう少し軽装(ラフ)な格好を選んだ筈だ」

私の問い掛けに、乱歩はショートケーキの苺をフォークで突付きながら答える。

確かに。依頼が長丁場に為る様ならば、現場での予期せぬ事態を想定して、もう少し動き易い服装にするだろう。

その思想は、私が未だ社員として駆け出しだった頃。私を心配して見兼ねた社長から提案された言い付けに基づいている。

社長曰く――時として、身に合わない服装は自身を危うくさせる要因と為りうるらしい。肌に触れている衣服の類いは、攻撃から来る損傷(ダメージ)や衝撃を身体に伝え易い危険材料に為るのだと。

依頼で荒事に巻き込まれても、単独且つ無傷で収拾を着けられる様に為った今でも、当時からの習慣が抜けてない処を省みると、社長からの『提案(思い遣り)』が、私の中で願掛け(或いは原点回帰)に似たものに為っているのかも知れない。

それを長年の付き合いで知っている乱歩からすれば、身近で些細な疑問など、推理せずとも、最早見慣れた日常の域だろう。

「それに。今日の詩歩の予定だって、近場の得意先から入った物ばかりだったし。僕の呼ばれている時間迄には帰って来るって、自ずと解って居たんだよ」

「これで解ったでしょ?」と乱歩に小首を傾げられ、私は素直に首肯した。

「……ん。相変わらず、乱歩は凄いね」

「そりゃあ。何て云ったって僕は名探偵だからね! 僕に解けない謎は無いよっ!」

「じゃあ。如何してショートケーキの上には苺が乗っているのか、知ってる?」

「えー? 知ーらない」

話題を切り替えれば、先程の発言とは打って変わって、乱歩は興味の無さそうに唇を尖らせる。年相応でない子供っぽい言動が板に着いているなあと、改めて思う。

「だってねぇ、詩歩。謎解きと雑学は違うよ。ショートケーキの上の苺なんて、甘いクリームと一緒に食べたら酸っぱく為るだけなのにさ。それを知っていて如何して態々乗せているのか、未だに疑問だよね」

云い乍ら、納得が行かない様子の乱歩は、ショートケーキに乗った苺を突付く。
確かに。そう云われてみれば疑問だ。

「……味の減り張りとか、色合いのバランスとかじゃないかな? このケーキの種類(タイプ)で一番ポピュラーなのが、苺だって云うのは聞いた事が有るけれど……」

「ハイ。詩歩、あーん」

何処かに的を射た答えは無かったものかと彼是(あれこれ)考えていると、何の前触れも脈絡も無しに、私の思考を遮る様にして眼前に苺が差し出される。

「……え?」

「だから、『あーん』だってば。久々のデートなんだからさ、たまには恋人同士(カップル)らしい事しようよ」

疑問に小首を傾げる私に、乱歩は苺を差し出した儘説明して呉れる。その表情がとても愉しそうに見えて、不思議と胸が高鳴るのを感じた。紡がれた『恋人同士』と云う響きに誘われる様にして、私は徐に口を開ける。

「……あーん」

鸚鵡の様に乱歩の言葉を復唱して、フォークの先に刺さった苺を口に含む。
もぐもぐと咀嚼すれば、噛み締める度に口内に甘酸っぱい風味が広がった。クリームが付いていて普段よりも酸味が強い苺を飲み込むと、乱歩がクイクイと自分の方を指差す。如何やら今度は乱歩の番らしい。

「じゃあ詩歩、僕にも『あーん』して」

「……じゃあ。はい、乱歩も。あーん」

「あーん♪」

先程乱歩が私にして呉れたのと同じ様に、私も乱歩に苺を差し出す。パクリと苺を頬張る乱歩。その様子を見て、私は今更ながらに思った疑問を声に出して尋ねる。

「……ねぇ。乱歩って、酸っぱいの苦手だよね?」

「うん。酸っぱいのも苦いのも嫌いだよ。甘いのが一番好き」

乱歩は俗に云う『子供舌』の持ち主だ。
しかも、その味覚は甘党に偏っている。
基本的に、癖の強い味付けは好まない。
それは乱歩との付き合いで熟知している事実だが、酸っぱい苺は乱歩の好みに当て填まらない筈だ。

なのに、如何して食べたのかと。

その旨を込めて尋ねると、苺を飲み込んだ乱歩は一瞬ポカンと目を丸くして、次いで盛大に笑い出した。上機嫌で、何処か照れ臭そうな色を含んだ声色で以て、乱歩は言葉を紡ぐ。

「ハハッ!! そんなの、詩歩が好きだからに決まってるじゃないか」

そうじゃなかったら絶対に食べないよ。

そう告げられた言葉を、脳内で咀嚼して反芻する。言葉の意味を理解すると同時に、徐々に頬に熱が集まるのが分かった。そんな私を見て、乱歩は悪戯っぽく笑う。

「わぁっ!! 詩歩、苺みたいに真っ赤だ。ねぇ。今食べたら甘いのかな?」

頬に伸ばされた乱歩の手に、私は自ずと自分の手を重ねる。元より、こう云った乱歩との遣り取りで勝機の無い私は、早々に白旗を挙げる様に乱歩の手に頬を寄せると、高鳴る胸の内を吐き出す事にした。

「……甘いと思う。甘かったら、良いな。だって、乱歩の事が好きだから。乱歩が好きな甘いのが良い。そうしたら、乱歩にもっと、好きになって貰えるでしょう?」

「――っ!!」

「……乱歩?」

乱歩の顔が驚きの色を浮かべると、ボンッと音が聞こえそうな位に上気する。
乱歩から受け取った好意を、私なりに思った侭に素直に告げただけなのだが。何か可笑しな事を云って仕舞っただろうか。

「……うん。そうだ。詩歩は昔からそう云う子だよね」

「……何か、変だった?」

「ううん。もしも詩歩が苺だったら、大好き過ぎて食べきれないだろうなあって思っただけ。あー……だからね、詩歩」

思う存分いっぱい自惚れて良いからね。

朱の差した頬に熱を灯して破顔する乱歩は、テーブル越しに身を乗り出すと、手の触れていない方の頬に接吻を落とした。

甘いねと。囁かれた乱歩の言葉に、私は為す術無く白旗を上げたのだった――。



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