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:†夜長怪談企画・擬奇怪音譚『異』†:




*彼岸の後の秋の夜長の怪奇譚。
*水音と輪環に纏わる擬奇怪音。
*ぐるりと廻って暗闇へ堕ちる。
*一寸先は闇よりも暗く紅い道。



【:暗闇の淵から滴り落ちる怪音:】



『流れるモノは廻る術を宿している』
『流れぬモノは暗い業を孕んでいる』

『這い出した手の行方は何処だろう』
『拭いたいのか抉りたいのか彷徨う』





(ピチャ、ポタッ、ポタッ、ポタリ)
(滴り落ちるのは異形な色の浸出液)


月の光すらも届かない宵闇の水面から
崩れた輪郭の縁へと滴り落ちる音の波

歪に丸く描かれた水滴の環は廻廊の中
重なり合って情念の濁色を深めて往く

井戸の底、壁紙の裏側、台所のシンク
辺りに散った記憶の残滓は爪を立てて


(ポタリ、ポタポタッ、ピチャンッ)
(滴り落ちるのは異質な色の漏洩体)


手首の静脈、頬の上、歪んだ笑顔の端
癒えずに残る傷痕は耐えず紅を流して

揺れる水面崩れる虚像と壊れた日々と
染み込んで沁み付いて滲んで往く穢れ

浄化は消えて濁って澱む血染めの羊水
産み落とされる前に流されて丸く廻る


(ボタボタ、ビチャリッ、グチャリ)
(滴り落ちるのは異端な色の和合水)


瞳の裏側、臓腑の底、開いた足の最奥
何処にも還れずに何処までも続く環の

千切れない鎖と根付いた因果の種子は
消える術も持たずに陰影を深く刻んで

頸を掛ける縄、足首の枷、薬指の鬱血
黄泉路に響く水音は冥土の水先案内人

溶けて垂れて滴り流れ着く紅は黒へと
色を変え情を違え現世に怨みを孕んで

爛れた輪郭から溢れ出た暗闇の呪詛は
丸く重なり滴り落ちて奈落の口を開く





『環は絶えず因果を巡り輪廻を結ぶ』
『流れぬモノは色濃く濁り歪み生じ』

『死色の紅を垂らして滴らせて笑む』
『水音は獲物を狩る極上の蜘蛛の絃』





はい。皆様こんにちわ♪
最近一気に寒さが増して来たのに伴い厚手の洋服を少しずつ引っ張り出してます燈乃さんです。
寒い雨の日は身体の動きが鈍くなります(ヲイ)

そして記事を更新する度に『お久し振り』が常套句になりつつあるのが悲しいです(←遠い目)

あー……時間が欲しい。自由時間が欲しいっ!!
新しい仕事を覚えるのに一杯一杯で、息抜き用の時間配分が上手く行かなくて軽く瀕死です(爆)

そんなこんなで。更新速度が亀よりも遅くなってしまっている今日この頃ですが、綴りたい創作文は未々沢山頭の中で燻っているので、少しずつでも消化して行きたいですね。道程が遠いなぁ←

さてさて。前置きが長くなって仕舞いましたが、今回は夜長怪談企画の擬奇怪音譚『異』になります。水音と水滴と環(輪)に纏わる擬音のお譚。

日々の生活音の中で一番耳にする音と、音の怪談に纏わる共通点で多いのは『水音』かなぁと言う個人的な発想から生まれた擬奇怪音譚です。

一括りに『水音』と称していますが、『水音』に纏わる擬音と言うのは、もしかしたら擬音の中でもかなりの数を占めているのではないかと思われます。で、その『水音』の擬音の数だけ、或いはそれ以上の怪談・奇譚が在るかも知れません。

天気ならば雨。場所ならば河川・海辺・湖沼。
家ならば水回り。一番身近なもので自分自身。
(*鼓動は筋肉の収縮音ですが、それも含めて)

水の近くに怪談は付き物ですが、改めて掘り下げてみると妙に納得してしまう点がチラホラ(笑)

そもそもな話。人間自身が怪談(怪奇現象)を受信(或いは発信)しやすい構造になっているらしいので、その辺は中々に因縁とか皮肉めいているなぁとも感じるんですがね。陰陽の分け隔てなく。

あとは『厄を流す』と言う風習。よく河川や海辺ないしそれに類似する場所で執り行われますが、あれも『流れるもの=水』の概念から来ているので、逆に『流れずに留まる厄』と言うモノがあれば、それはさぞかし恐ろしい事なんだろうなぁと思います。その辺の風味も入れてみました〜。

取り敢えず何が言いたいかと言いますと、夢現に部屋の中で水音を聞いた時の不可思議感が半端無かったです。生首が投げ捨てられるイメージなんて、部屋の中で湧くモノじゃないんですがね←



ではでは、今回はこの辺で☆







:†夜長怪談企画・黄昏怪奇譚『序』†:




*彼岸の後の秋の夜長の怪奇譚。
*夕闇から夜の季節が目覚める。
*釣瓶落としが落ちた先の異形。
*足音の鳴る方へと崩れる日常。



【:夕闇から影を忍ばせる夜の序幕譚:】



太陽が眠り『夜の季節』がやって来る。
暗闇が影を引き摺る時間がやって来る。

彼岸への道筋は開かれ再び閉ざされた。
そして閉ざされた隙間から闇が零れた。

それは小さな小さな夕焼けまでの足音。
逢魔ヶ刻が逃げ回る影法師を捕らえる。

天に咲き溢れる金木犀は空に蜜を撒き。
草間に紛れる彼岸花は地に紅を散らす。

盛りの刻は終わりを迎え夜が忍び寄る。
薄ら寒い気配は夜の目覚めと呼応する。

命と形在るモノに不可思議は付き物だ。
魂魄は形を持たない。形状を定めない。

得てしてそれは言霊にも通ずる概念で。
見聞きし触れる事から終に輪郭を得る。

さあ。始めよう。闇の天蓋と銀の目が。
『夜の季節』を暴き出して仕舞う前に。

小さな小さな怪音と逆説の視点の奇譚。
そして。見えざる何かとの邂逅の噺を。

さあ。幕開けだ。夜長奇譚を始めよう。
どうか道を照らす灯りを忘れ無きよう。







はい。皆様こんにちわ♪
職場の多忙さに忙殺され掛けながらも何とか生きてます燈乃さんです。更新ご無沙汰過ぎる(泣)

そして。文字入力をする度に、スマホの画面と格闘してます。今の所喧嘩はしてませんが、スマホに歩み寄るまで未々時間が掛かりそうです(爆)

文字入力だけに関して言えば、購入直後よりも大分マシになったと思いですが、未々試行錯誤が必要な感じなので頑張らなければですね(´Д`;)

……さてさて。そんなこんなで、色々と大変な事は尽きませんが(主にスマホ関連)、今回はスマホ購入初の創作文&写メ投稿で載せてみましたっ!!

本当は彼岸が開ける前に載せたかったものでしたが、紆余曲折の末漸く載せる事が出来ました。
(*↑の写メは十五夜に撮って加工したものです)

夜の訪れは、四季の中では秋が一番怖いなと。

かなり個人的な感性ですが、今回の創作文的作詩は幼い頃から感じていた感覚が基調になっています。音も無く近付いて来る夜の気配。外で遊んでいたら、雑木林の木々は夕焼けを背景に影の色だけになってしまっている。山間なので時報が鳴る頃には辺りは真っ暗になってしまっている。夜が訪れるのと同時に、夕焼けが伸ばしていた影が、順々に夜に引き摺られて飲み込まれて行く。

そんな情景が、子どもながらに怖かったんでしょうね。影が無いのは、人間ではないの同義ですから。秋の日の黄昏時には、十分にご注意をっ!!



ではでは、今回はこの辺で☆



:†おまけ的な設定を(以下省略)†:




はい。皆様こんにちは♪
長引いていた夏風邪から少しずつ解放されつつあります燈乃さんです(*´∇`*)/

咳も鼻炎も、少しずつ落ち着いて来ていて、前回の時よりも大分楽になってます。

……と言うか九月序盤に夏風邪云々とか近況報告してる場合じゃないだろ自分!!←
ダメだろ自分!!(←行き場を失った憤り)

はい。そんな訳で、今回も前回の反省文で綴ってなかった設定や個人的な解釈を、おまけページな感覚で綴ってみました〜。


【新厄・口裂之怪の登場人物について】


《女性》
怪異に捕らわれてしまった一般市民。
その正体は、巷を日々震撼させていた『連続通り魔事件(口裂け女事件)』の犯人。
怪異を装い騙り続けた末に、本物の怪異を引き寄せ『依り代』にされてしまった。

今回の『新厄』は、よく有る寓話的な部分で『自業自得』と一蹴出来るが、『責任の放棄』と『重圧からの解放』は、『社会』と呼べる世界(苦界)に於いて、他の追随の及ばないある種の『完結した自由の形』の一つかも知れない。それ故に、『自己責任』とは、自身を示唆する為の鎖である。

《口裂け女》
諱(忌み名)『口裂け女』
呪(仮名)『白鳥 咲(しらとり さき)』
死因『度重なる整形手術と人格崩壊』

都市伝説の中で一番有名な遭遇系怪異。
生前は女優を夢見ていたが、スタント業をしていた際に事故に遭い顔面を損傷。元の顔に戻そうと整形手術を繰り返したものの、自身の理想と現実の食い違いと葛藤に耐え切れなくなり、自らの口と喉を斬り裂いて自殺を遂げた。紅いコートを着ているのは、生前(自殺の際)に着ていた白いコートが、自身の流血で染まってしまった為。

女優を目指していた事もあり、怪異になった後も『美しさ』に対する情報に興味を持っている。普段は人間に紛れて出没しており、最近ではマスクの下に特殊メイクを施している為、うっかりマスクを外したとしても、『綺麗な女性』にしか見えない。

滅多な事では正体はバレないが、時折子どもを驚かして都市伝説を拡散している。
都市伝説の伝播媒体として『依り代』を造っており、『誰かに成り代わりたい』と言う強い願望を持った人間を拐っては、自分好みの『依り代』を『整形工事』する。

《『依り代』》
怪異が自ら造り出した『怪異の分身』。
怪談で言う処の『生き証人』ではなく、大半は強制的に『怪異へと変貌した』元人間を占める。個人から故人になったモノ。
『呪い』の形を成したモノ。怪異のメリットであり、人間に対するデメリット。
怪談に似たような話が出回っているのは、大体が『生き証人』か『依り代』によるものであり、その大多数が後者である。

《『裁ち鋏(縁切り鋏)』》
物体の輪郭を断つもの。結ばれた縁を絶つもの。魂を剥ぎ取るもの。心臓を突き刺すもの。眼球を抉り出すもの。指を詰めるもの。耳を削ぎ落とすもの。血で紅く染まり、やがて錆び往くもの。口を裂くもの。
肉を裂くのに最も適した形をした道具。
この鋏は呪われていて、呪われている故に、個人を刈り取り故人へと作り替える。

『口裂け女』の凶器は地域によって多岐に渡り、何かしらの『刃物』(包丁・鉈・斧・鎌・カッター等)を所持しているケースが多いが、こと刃物を持つ怪異に於いて、一枚刃よりも二枚刃である鋏は、怪異の『呪い』の強さをそのまま示唆している。
(※何処かのタワーの某鋏男と同じ原理)

《語り部(解説者)》
『曰く付きアパート』の神出鬼没の住人。本編の裏方や解決編の様な語りを仕掛けて来る。人間だが人間の肩を持たない人間嫌い。人間が大変な事になっていても基本無視。『新厄』と共存している霊能力者。
今回は路地裏に落書きを残して消えた。


……はい。大分長くなってしまいましたが、今回の『新厄』こと【口裂之怪】の捕捉説明は大体こんな感じです。今回も大概鉄臭さ漂うケチャップ劇場になりました←

かなり個人的な諸事情(体調及び都合)により、八月に載せたかった怪談企画が絶賛頓挫気味ですが、せめてお彼岸が来る前までには書き上げたいです。ハロウィンはハロウィンでまた違う企画を挙げたいので。

さてさて。秋風が吹き始めた今日この頃。頭蓋の隙間と延髄の底から溢れ出す異界と悪夢の欠片を繋ぎ合わせるのに、少しばかり時間をガリガリ削らねばですね(真顔)



ではでは、今回はこの辺で☆



*

:†後書き兼介錯的解釈な反省文†:




はい。皆様こんにちは♪
すいません大分ご無沙汰しております。
お盆終盤辺りから何やら夏風邪らしき症状に見舞われていました燈乃さんです(爆)

症状は大分安定して来ましたが、未だに時折重たい咳が出るのが少し億劫です(凹)

梅雨が舞い戻った様なヘンテコな気候を経て漸く残暑になったかと思いきや、少しずつ秋の気配が近付いている感じですね。
皆さんも夏風邪にはご注意下さいませ!!

さてさて。今回も恒例の後書き兼反省会と言う事で、『都市伝説の二次創作文』こと『新厄都市伝説怪異奇譚』についての介錯的解釈を彼是綴って行こうと思います。

今回載せた【弐之幕〜口裂之怪〜】では、文字通り都市伝説の『口裂け女』をモチーフにしています。都市伝説の中でも、バリエーション(派生及び亜種)が豊富とされている怪異として有名処ですよね。今回は都市伝説の原型を基調(ベース)に引用しつつ、劇薬ケチャップ劇場にしてみました。

創作の背景としては、裁ち鋏を装備した『口裂け女』が一番最初に浮かび、そこから今回載せた怪異奇譚の流れが始まりました。装備品はメジャーな包丁や鎌でも良かったのですが、今回の内容が内容だったのと、『口を裂くのに長けた刃物』と言う部分を考えた末、裁ち鋏に落ち着きました。
(※某『自殺願望』の鋏とは異なります)

また、『口裂け女』の言っていた『依り代』について少し捕捉説明を致しますと、この怪異奇譚の中に出て来る『依り代』とは、怪異が造り出す『分身』を指します。
地方に散らばる怪談に似通った話が有るのは、『怪異が『依り代』を造って話を拡げるから』と言う設定(←※個人的な解釈を含む)があります。同じ怪異でもその『個体』によって所持している凶器が異なったり(活動環境含)、本来の回避方法が通用しないと言う差違が生じるのは、この怪異の造り出す『依り代(分身)』の所為です。

因みに『依り代』は新厄(怪異)のメリットであり、人間に対するデメリットです。
と言うのも、怪異は『怪談・奇譚として語られる事』で存在を確立させているとても曖昧なモノなので、自身の怪異を『派生させる事』で、半永久的に消滅を免れる事が出来ます。入り口は色んな処に点在しているのに、繋がる場所は同じと言う現象は、怪談を漁っていると多く見られますね。

誰かを羨んだ果てに強欲と業欲に溺れるのはよく有る寓話ですが、今回の話はそれとはまた少し方向(ベクトル)が違います。

自分以外の誰かを装えば、罪を犯しても自分の責任にはならない。自分は罪に問われない。そんな身勝手極まりない現実逃避をし続けて、重ね続けた罪を怪異(『口裂け女』)に肩代わりさせて(濡れ衣を着せて)いた女性ですが、結果的に自ら災いを招き寄せてしまいました。『怖い話をしていると本物が寄って来るよ』的なお話です。
若干『オオカミ少年』な感じもします。

『嘘』は口に『虚しい』と書きます。また、『虚』は中身が虚ろで実質が伴わない様で、『偽り』を意味します。そして、空虚の字の通り『空っぽ』な様も指します。

自分の満たされない『空っぽな部分』に罪を注いで、罪から逃れようと嘘を繰り返し続けて、最終的に追い付かれた本物に足首を掴まれて、『人間ではないナニカ』へと作り替えられてしまう。そんな、大分湾曲した『変身願望』の怪異奇譚でした〜。

『怪談』とは、騙らずに語るモノ。

嘘吐きな『偽物』は、『本物』に捕まると、『望み通り』に口を裂かれて顔を剥がされて、二度と元の人間の姿に戻る事は叶いませんでしたとさ。ジャンジャン♪←



ではでは、今回はこの辺で☆



*

:†新厄都市伝説怪異奇譚・弍之幕†:




*都市伝説派生擬人化二次創作文。
*新厄都市伝説怪異奇譚・弐之幕。
*奇々怪々にて陰惨なる擬態の譚。
*合わさる刃が零になる異形の譚。
*グロ・流血表現過多なので注意。



【:新厄都市伝説怪異奇譚〜口裂之怪〜:】



(自分以外の誰かを騙ると言う背徳)
(誰かの表皮を被りたいと言う衝動)

(自分以外の誰かになると言う願望)
(その代償すら陳腐で救えない惨劇)






――夕焼け小焼けで日が暮れて。逢魔ヶ刻が夕闇を滲ませながら、やって来ます。

子どもたちは次第に家へと帰ります。しかし、大人は子どもの様には行きません。

夜が更け、日を跨ぎ、朝を迎えても家に帰れない大人たちが現には数多くいます。

そんな大人たちを嘲笑うかの様に、巷では物騒な通り魔事件が多発していました。

しかも。犯行が多発しているにも関わらず、犯人は未だに捕まっていないのです。

しかし。とある目撃者からの証言によって、その人物は『紅いコートを着た長い黒髪の女性で、顔には大きいサイズのマスクを着けていた』と言う事が判明しました。

故に、巷ではこう呼ばれていました。
『夕刻の通り魔・口裂け女事件』と。





シャキン。シャキン。仄暗い室内の中では、裁ち鋏の空を切る音が鳴り響きます。

打ちっぱなしのコンクリートの壁に覆われた室内には、吊るされた裸電球が唯一の光源として、力無くぶら下がっています。

その真下で灯りに照らし出されているのは、床に固定された椅子と、そこに座っている一人の女性でした。四肢をベルトで拘束されている女性は、気絶していました。

シャキン。シャキン。仄暗い室内の中では、裁ち鋏の空を切る音が鳴り響きます。

「――――っ!!」

裁ち鋏の音に目を覚ました女性が、一瞬の間を置いて、声にならない驚きの声を上げます。拘束されて身動きの取れない状況に、女性の顔には焦燥の色が浮かびます。

「――ああ、良かった。目が覚めた?」

シャキンと刃が合わさる音と共に、何処からとも無く柔からな声音が響きました。
椅子の上で囚われの身となっている女性が視線を向けると、そこには女性と向かい合う形で、一人の人影が立っていました。

紅いコートに身を包み、顔に大きいサイズのマスクを着けた長い黒髪の女性が、柔らかく目元を綻ばせています。そして、その姿からは、言い表せない、筆舌し難い程の人ならざる雰囲気が放たれていました。

「今は良いわねぇ、変装道具が充実していて。大変だったのよ? 昔は今みたいに特殊メイクなんて小洒落た技術は無かったから。こうやって顔を隠すしか無かったの」

紅いコートの女性は、何処か恥じらい混じりに語りながら白いマスクを外します。

「ひっ!?」

椅子の上の女性は、想像していたイメージが先行して思わず短い悲鳴を上げます。
しかし。想像に反して、マスクの下からは女性の整った美しい顔が晒されました。

拍子抜けした様に、椅子に座った女性は小さく息を吐きます。その様子に反応を良くした紅いコートの女性は、柔らかく微笑を浮かべたままで、唇に指を這わせます。


「――ねぇ。私、キレイ?」


問い掛けながら、口の端から特殊メイクをベリベリと剥がして行くと、赤黒くザリザリになった傷口が露になりました。口が無理矢理拡張されたかの様に、その傷口は耳の近くまで、大きく裂かれていました。

その姿は、正しく――『口裂け女』。

「――――――っ!!!?」

悲鳴が喉の奥に貼り付いたまま、椅子の上の女性は絶句しました。ガタガタと身を震わせる女性に、紅いコートの女性――もとい、『口裂け女』は苦笑を浮かべます。

「うふふ。そうよねぇ。とてもじゃないけれど、こんな崩れた顔じゃあ、お世辞でも到底『キレイ』とは言えないわよねぇ」

裁ち鋏の持ち手に指を掛けてクルクルと回しながら、耳まで裂けた『口裂け女』の口から、ケラケラと陽気な声を上げます。

椅子に座った女性は、『口裂け女』の様子を窺う一方で、逃走方法を思考します。
恐怖や焦燥を意識の片隅に追い遣りながら、逃走方法を模索します。しかし。その思考は行動に移す事は叶いませんでした。

「そう言えばアナタ、聞く処に寄ると、『私みたい』になりたいんですってね?」

「えっ、――――っ!?」

そう呟くのと同時に、『口裂け女』は回していた裁ち鋏のを持ち直し、女性の下顎を掴んで強制的に口を開かせ固定します。
女性は咄嗟に口を閉じようとしましたが、口腔に開いた鋏の刃が差し込まれます。

「丁度良いわぁ。最近可愛い『依り代』を造りたいって思っていた処だったから」

そう言って不気味に微笑むと、開いたままで女性の口の端に当てていた刃と刃の合わせ目を、勢い良く一気に零にしました。

ジョギン、と言う切れ味が鈍そうな湿った音が室内に響き、皮と肉と血管が一斉に裁たれてしまいました。鮮血を滴らせ、女性の口の領域が鋏の刃渡り分広がります。

「ひ、ギィ、ああァあアアアぁっ!!??」

鉄色の痛みに女性は絶叫を上げました。

「う〜ん。未だ足りないわねぇ」

そう言って、『口裂け女』は反対側の口の端に刃を添えると、間髪入れずに開いた刃と刃を合わせて口の拡張工事を施します。錆びて変色して切れ味の鈍くなった裁ち鋏からは、女性の鮮血が滴り落ちました。

「……ふァっ、ふァんレ(な、何で)!?」

口腔の鮮血と激痛と恐怖に耐えながら、口を裂かれた女性は震える声で訊ねます。

「だって。アナタ、巷を賑わせる位に『私みたい』になりたかったんでしょう?」

にこにこと微笑みを浮かべたままで、問い掛ける『口裂け女』。その言葉に、女性は無意識に魂が凍り付くのを感じました。

巷を騒がせている『通り魔事件』。彼の有名な『口裂け女事件』の首謀者。それこそが、今正に口腔を鋏で痛々しく拡張され、切り裂かれた女性。本人だったのです。

誰かの模倣。中でも、『架空のモノ』になりすませば、バレる事は無い。誰も自分の犯行とは気付かない。同時に、俗に言う処の『世の中への不満』を他人で晴らす事が出来る。それは、女性の中で渦巻き溢れ出た、とても身勝手で幼稚な衝動でした。

化けの皮を被っていれば何も怖く無い。

しかし。女性は殺人は犯していません。
捕まれば傷害罪は免れませんが、殺人は犯していません。一線を越えずに犯行を重ねて来た女性は、けれど、皮肉にも、『本物の恐怖』と対峙した今になって、自分の行いの浅ましさを知る事になるのでした。

それこそ。その足で自首するか警察に逮捕される方が、確実に『命の保証』は約束されていただろうと、断言出来る位には。

その現実を。身に降り掛かる惨劇を。
女性は身を以て知る事になるのです。

殺人の有無。人間の罪の軽さも重さも。
その理が怪異に通用しないと言う事を。

「でも。残念だけれど、私はこんなものじゃなかったわ。アナタが私になるには、これだけでは、未だ全然足りないわねぇ」

にこにこと微笑んでいた『口裂け女』の表情に陰惨な色が浮かび、暗く歪みます。

「未だ足りない未だ足りない未だ足りない未だ足りない未だ足りない未だ足りない未だ足りない未だ足りない未だ足りない未だ足りない足りない足りない足りない足りない未だ未だ未だ未だ未だ未だ足りない」

――ぜぇんぜん、足りないじゃなぁい。

壊れたレコードの様に不気味に単語を繰り返しながら、『口裂け女』は女性の裂けた口許の皮膚の下に指を抉り込ませます。

そして。そのまま。何の躊躇いも無く。

ベリベリベリと。さながら烏賊の皮を剥ぐ要領で顔の皮を剥ぎ取りました。皮膚の下に隠されていたナカミが露になります。

「――――――――っ!!!!!!」

化けの皮ごと顔の生皮を剥がされた女性は、人間のものとは思えない獣めいた絶叫を上げます。表皮を剥ぎ取られた内側の組織から、鮮血が止めどなく噴き出します。

「アハハハッ、フフアァハハハハハッ」

しかし。それでも『口裂け女』は、陰惨な衝動を止めようとはしません。気が触れた様な笑い声を上げながら、『口裂け女』は部屋の隅に置いてある台車をガラガラと引いて来ます。台車の上には鈍く光る何かが乗せられているのが見受けられました。

「ほらぁ。外面(そとづら)を剥げば誰だって彼だってこんなにグロテスクな中身の有り様なのに、どうして『キレイ』に対して欲張りになってしまうんでしょうねぇ」

台車の上に乗っていたのは――まるで、手術道具の様に綺麗に並べられた、おおよそ手術道具とは呼べない物ばかりでした。

金槌、五寸釘、針金、糸鋸、プラスとマイナスのドライバー、ペンチ、ガスバーナー、鉋(かんな)、鐫(のみ)等の紅黒く錆び付いた工具類が所狭しと並び、その奥の方には、刺激臭を放つ試薬品特有の茶色い瓶が数種類鎮座しています。口を裂かれ、顔の皮を剥ぎ取られた女性は、これから自身の身に降り掛かろうとしている更なる凶事に、拒絶と赦しを乞う悲鳴を上げますが、その行為に意味が無い事は明らかでした。

「ああ、そんなに怖がらなくても大丈夫よぉ。だってぇ、いつの時代も『キレイ』になるのに多少の痛みは付き物だものぉ」

そう言って、『口裂け女』は片手に持ったガスバーナーで、もう片方の手に持った糸鋸を真っ赤に炙りながら、『顔(表皮)』を無くした女性に優しく微笑み掛けます。

「さぁ、お待ちどう様。アナタはどんな風に『キレイ』にしてあげましょうかぁ」

「あ、あぁ、あァ……」

紅く炙られた道具を持ちながら、『口裂け女』は女性へと歩み寄ります。ジリジリと眼前に迫り来る紅く焼けた絶望。女性は目蓋を失った双眸から、血の混ざった涙を流しながら力無く悲鳴を上げたのでした。



その後。『口裂け女』に顔を剥ぎ取られた女性の行方は、誰も知る由もありません。
そして。現世の人間たちを震撼させ、巷を賑わせていた『通り魔事件』は、犯人特定不明のまま迷宮入りとなり、警察の捜査本部は静かに幕を閉じる事となりました。

しかし。ごく稀に。かつての事件現場付近に、『紅いコートを着た黒髪の女』が佇んでいる姿を見たと言う目撃情報が、数少なくも未だに寄せられているとの事です。


紅く錆び付いた裁ち鋏を持つ姿が――。



「――ああ、また一人闇に堕ちたんだ」

深夜の裏路地で一人の人影が呟きます。

「自分以外の『誰か』を真似る事は、個人として存在する責任を放棄して、自分の魂をその『誰か』に転嫁する事だからね」

人影は、道に石で二つの丸を描きます。

「結果として、個人としての存在が希薄になる。個人として確立されない希薄な魂は、とても不安定なものとなる。そして、個人として地に足が着かなくなった時点で、その個人は故人に転じて仕舞うんだよ」

人影は、丸の一つに仮面を描きます。

「大袈裟だと思うならそれで良いさ。思考の自由と選択は生きている人間の特権だからね。でも、それだけ生者と死者の境界線何てモノは危うくて曖昧だ。零と壱の情報が少しズレただけで、簡単に人は死ぬ」

人影は、仮面の下に十字架を描きます。

「自分の立ち位置や理想を誰かに求めるのは自由さ。そして自由だからこそ、そこには必ず責任が伴う。例外の無い責任が」

人影は、十字架の下に髑髏を描きます。

「負うべき責任を放棄すれば身軽になる。身軽になった分、そこから魂が欠けて行く。個人の魂が変質して壊れて行くんだ」

人影は、髑髏を潰して×印を描きます。

「自分に纏わる事を手放すのは簡単だよ。ただし、それを手放したら、二度と元の自分を取り戻す事は叶わないけれどね」

人影は、夥しい程の×印を描きます。
×印を描いて描いて、描き殴ります。

×印を描いて描いて描いて描いて。
描いて描いて描いて描いて描いて。

落書きが×印で埋め尽くされて塗り潰されて、いつしか原形を留めなくなった頃。

人影は、その出来映えに満足して立ち上がると、そのまま路地裏の暗闇に紛れ溶ける様に、その場から姿を消しました――。


(『怪談』とは騙(かた)らずに語るモノ)



【:新厄・弐之幕〜口裂之怪〜:】(完)



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