院長とわたし(別れの時)




彼と一緒に過ごす時間を



彼の親は引き裂こうと



一生懸命だった。



私はその頃、彼を頼って



彼の住む県外地へ身を寄せていて



彼の住むアパートの隣りに住んでいた。



親はすぐ乗り込み、私たちを引き裂こうと



あの手この手を使ってくる。



私が仕事からアパートに帰宅すると



私の部屋から全ての物が無くなっていた。



彼の親が、大家さんから私の部屋の合鍵を借りて



そのアパートから遠く離れたアパートへ



知らない間に引越しさせられていた。



しかし、私は彼を信じていた。



彼が居るから大丈夫。



そう、思い込んでいた。








ところが

明くる日に

私の住むところへ

花束が届き…

その花束には

メッセージが添えられていた。



『私にはまだ、貴女の一生を護れる力がありません。

いい人生を送って下さい』



と。



彼の書いた文字ではあったが



彼の言葉ではないことが



一目瞭然だった。



彼が私に対して



自分のことを『私』なんて



言うわけがない。



そんな所から



察することができた。



いつもいつも



親の言いなりに生きてきた彼は



結局、親の敷いたレールを



外れることはできない。



そういう事だった。





院長とわたしB




ある意味…ありがたい。



就活に疲れた私が



近いから…
とりあえず見学。



そんな安易な考えだった事



改めさせられた気もした。







その昔…



ある男性と婚約していた私は



その結婚に悩んで



相談したのが…その院長(彼)との始まりだった。



その頃、彼はまだ医大生で



彼の方から私に告白してきた。



そして



『悩む結婚なら、やめなさい。

僕が君の一生を保障するから

僕を信じて

君の未来を下さい。』



そう言われて…



彼との日々が始まった。



もちろん、婚約までしていた私は



毎日毎日、針のむしろで



居た堪れない日を送ったのは



言うまでもない。



そこから数年して



私は彼の子を妊娠した。



子供ができた事に



彼は喜んでくれて



すぐ、親に相談すると



私を安心させた。



ところが



今までずっと隠してきた2人の関係を



彼の親が許す訳が無い。



『貴女と…うちの坊ちゃんは住む世界が違うのよ。

さっさと子供を下ろしてちょうだい。汚らわしい。

もう二度と…坊ちゃんに関わらないでちょうだい』




その頃、彼の父親が院長で
院長夫人の母親とともに…



私の人格を否定した。





院長とわたしA




見学に行った個人医院は



近年、親と代替わりした院長が



自分で建て替えた新しい医院だ。



中は何もかも新しく



近代的とまでは行かないが



綺麗に整理されていた。



見学に行っただけだったが



何も知らない院長夫人は



私を気に入った様な対応で



もう面接はしなくていいから来て欲しい様な事を言われた。



しかし、一応、面接は流れだから



すぐ、送ってくれとの事。



求められるなら…



と、面接を応募する事にし



履歴書を提出する。



所が…



面接の日取りを決める電話が来ない。



そうしてるうちに



履歴書を提出してから



1週間が過ぎた。



こんなに、面接の日取りを決めるのに



時間のかかるとこは



滅多にない。



そう思っていた時…



院長から着信が。



『先日の見学の時はマスクをして居られたので

顔がよく分からなかったのですが…

履歴書を見ましたら、以前お付き合いをしていた方だと言うことが分かりまして

先輩方々に相談しましたところ

そう言った関係の方は採用すべきではないと助言を頂きましたので

先輩方々の意見を尊重して


今回は、面接を見合わせます。』



と。。。



面接さえ断られる電話だった。



また、そうだ。



蘇った記憶…



そう、この人は



以前から、人の敷いたレールしか走れないんだった。



何も、自分の意思では決められない



そんな人だったんだ。










そう、私の脳裏に



遠い記憶が蘇る。



あの日、あの時の



最悪な別れが…






院長とわたし




私が現在住んでいる家のキッチンから見える



200メール先に



個人医院がある。



うちから歩いて3分くらいの近場…



就活している私には



ご馳走である。



そんな先日



そこの個人医院が



看護師の募集を出した。



過去にも何度か募集を見かけたが



訳あって応募を目指した事はない。



ところが…



ココ最近、就活に疲れてきた私は



そこに応募してみようと言う気になった。



しかし…



医院内の雰囲気を探る為に



まずは見学することにした。



ハローワークに道をつけてもらい



数日後、見学の日が決まった。





見学当日…



履歴書などは持参せず



ただ…見るだけに出向いた。



マスクを深々と当てる私に



院長は気づいていない。



昔、彼女だった私に。





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