選べない…




時々…



子供たちの事を思い出すと



涙が頬を伝う。



あの日…会った時の事が



走馬灯のように



私の頭で動画再生を繰り返す。



時々来る元夫からのメールには



子供達や家族を騙したと



非難中傷の内容が盛り沢山に綴られている。



そして



彼の事も



悪く書いてあり



『そのうち、彼の本性を知ることになるから
覚悟しとかないと…』



と、書かれている。








そんな私の姿が



自分の前から消えると心配してくれる彼は



時々私の様子を見に来ては



『身体の調子は大丈夫か?』



と聞いてくる。



そして



優しく抱き締めてくれる。



そんな彼は



私の涙の理由なんて聞かず



私に言う。



『ケン子。前から言ってるけど…

子供達が心配だったら俺を裏切ってもいいからな。

お前がどうしても子供達の元へ行きたかったら

行ってやればいい。』



時々そう言う彼を



私は裏切れない。



子供も彼も



選べない。











約束




子供たちとの



約束の時が来た。



『お母さん、27日の木曜日

必ずだよ!

僕たちねお母さんにおみやげがあるから。

持ってくるね!』



先日、お祭りの帰り際に



ちゅう太が言っていた。



その後…



何度かメールが来て



27日会うことになった。



私が13時半に



約束の場所に着くと



二人は肩を並べて



ベンチに座っていた。



そして私を見ると



ニコッと笑って駆け寄ってきた。



『お母さん!おみやげ。

大事にしてね。

ねね!どこ行く?

お兄ちゃんは今日は

学校の活動で○○ダムで

お仕事なんだって。』



私が『じゃ、そのダム行ってみる?』



と提案したけど



ちょっと遠方だったので



やめることにした。



おみやげは…しょう太から靴下
ちゅう太から置物だった。



行き先を色々考えたが



子供たちが



『お母さん、お金のかからないとこへ行こう』



そう言うので



飲み物だけ買って



ある近場の湖畔へ



貝を取りに行く事にした。



二人はキャッキャッっと楽しそうに笑い声をあげ



大きな声で



『ねーーおかぁさん』と私を呼ぶ。



時々甘えた様に



『おかぁちゃん、ありがと』と。



私が『おばちゃんによく叱られる?』尋ねると



『うん。鬼みたい。

お母さんが居なくなってから

人間じゃないみたいになった。』と。



私が『ごめんね。辛い思いさせて。』と言うと



『お母さん、お母さん帰って来ない方がいいよ。あんな恐いおばぁちゃんのとこなんて。』



本当は辛い子供たちに



そんな事を言わせるなんて…



私は申し訳なくて



ならなかった。



そして何度も涙を拭って



子供たちに涙を隠した。



刻々と別れの時間は近づいて



そろそろ別れの時が来た。



車の後部シートに座る二人は



時々私の肩や腕に抱きついて



甘えてくる。



まるで今のこの瞬間を



忘れない様に…と。



二人を待ち合わせた場所に送ると



家の近くまで



車で着いて行く。



時々通りすぎては待っていると



追い付いて来た二人と言葉を交わす。



『お母さんね、いつも忘れてないよ。

ちゅう太しょう太のこと

いつも想ってるから。

一人じゃないよ』



私は二人に念を押す。



『うんっ』



二人はニコッとして答えてくれたけど



瞳の奥には



必死で涙をこらえる姿が



映し出されていた。





ごめんね愛する子供たち…



そして…



私を取り巻く全ての人たち。



私は瞬間的に



今の自分をどうすればいいのか



わからなくなった。









絶命




元夫は夕食を食べ終えると



私に言う。



『ケン子の口から正直に聞きたかった。

おれ、全部知ってるよ。

昔…ヤバい事をしてた人で

背中に墨がある人と

婚姻届出したってこと…』



私が今日ついに



話そうとしていたことを



元夫の口から



聞くことになった。



私は時々補足しながら



元夫の話しに口を挟む。



こうして元夫は



自分が知り得た情報以上の事を



私の口から聞くことになる。



時々…目に涙を浮かべながら話す元夫は



私の身を案じていた。



そして



こう言った。



『どうあっても

俺はあの子たちの父親だし

お前はあの子たちの母親だ。

時々は…

子供たちと

会ってやってくれ。




ただ…

今のお前に

子供達は任せられない。』



私は子供たちの親としての権利は



失った。




























元夫への告白




夫から…メールが届く。



『今後の事。子供たちのために話し合わないといけないから

定時後会えないですか?
大切な話しもあるし…』





私は



ついに、話すべき時が来た…



そう直感した。



どちらにしても



私の心に止めておくのも



もう限界だったし



私の今の現実を



打ち明けなければ前進もできない。



そう思い



思いきって会うことにした。



彼が…



外から中が見える喫茶店にする様に



指示したので



そうすることにした。



約束の場所に着くと



元夫は先に来て待っていた。



私たちは彼の指定した喫茶店で



話をすることにした。



向かい合って座り



元夫の顔を見ると



私と離婚したあの時とは



全く別人の様にやつれていた。



仕事が不規則なのと



食生活で節約してるせいだと



話していた。



向かい合って座ると



元夫は夕食を注文し



『まぁ、食べてからだ。』と



大きく息を吸い込んだ。



私は天井を見上げて



『何から話そう…』



話の順番を考えていた。






お祭り




今夜は私が住んでいた町のお祭り…



私は子供たちに会うために



その祭に行く事にした。



しかし



子供たちに会うためにと言うのは口実で



本当の理由は



元夫に今の私の現実を



宣告しよう…



そう思っていた。



彼にその事を話したら



ガードについてくれると言うので



彼の監視下で



私は子供たちの元へ向かう。



メールで元夫にも子供たちに会いに行くと
予告していた。



約束の時間は子供たちが友達と別れて



親同伴を強制される



21時…魚屋の前。



過去の祭りの時と



同じ待ち合わせ場所だ。



ここで…久々に5人が揃う。



ちゅう太が私に



お祭りの出店で買ったキャンディの袋をくれた。



どうやら私にくれるために



買って持っていたらしく



ニコッと笑って



『あげるっ』



そう言って差し出した。



しょう太は熱中症で熱があったらしく



しんどそうにしていた。



だい太は
『あーなんかこーゆーの
すげーひさしぶり』



私たち5人が揃った事を



懐かしそうに呟いた。



周りは祭でドンチャン騒ぎ…



ステージができていて



音楽が流れたり…



大きな声で話さなければ



会話も儘ならない。



私は…
私の現実を



話せなかった。



私が他の誰かと入籍した事を



伝える事はできなかった。



しょう太は…実は40℃近い熱があったらしく



しんどそうだったので



明日の自治会日帰り旅行のお小遣いを渡すと



4人と別れた。



私は賑やかな町を背に



暗闇へと向かう。







何だか途方もなく



罪悪感に苛まれた。







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