父の手術




今まで何度も手術をして



身を切り刻んだ父に…



またもや病魔が襲い



父は入院した。



水曜の午後が休みな私は



父が入院した日の午後2時半に



病院へ出向いた。



病院へ着き受付で父の病室を尋ね



『333号室です。』



3階の病室へ行く。



父は個室にいて3時に手術室へ入ると言う。



しかし、誰も来ておらず



私が手術室まで付き添うことになった。



点滴をゴロゴロ引いて



手術室へ入る父に



自動ドアが閉じる瞬間



「頑張ってね。」私が叫ぶと



父は振り返らず手を振った。



少し待っていると受け持ち看護師から



病院のピッチを渡される。



『手術が終わったら着信がありますので
手元にお持ちください。』



困ったことに



私は母が来るまで帰れなくなる。



ここ1年で母との関係は崩壊していて



前回会った時も冷静に話せる状況ではなかった。



ピッチを部屋に置いて
メモを残して帰ろうか…



そう思ってメモを書き窓の外を眺めていると



母の車が入ってきた。



すると…3階の病室にいる私の姿が見えたらしく



母が手を振った。



私はちょっと戸惑ったが



もしかして冷静に会える?と思い



手を振り返した。



すると後部シートにだい太としょう太も乗っていた様で



二人が手を振る。



そして数分後



しょう太がダッシュで病室に来ると



『おかあさーん!!』



嬉しそうに私にタッチしてきた。



しばらくすると



だい太と母もゆっくりやってきて



父の行方を尋ねてきたので



「もう、手術に入ったよ。」



そう言うと私が書いたメモを見て



『助かったわ。ありがとう。』



母は言った。



そして



『しょう太。。。

来て良かったね。

やだやだって怒って一緒に来たのに

お母さんに会えて良かったね。』



母が言うと…しょう太は



『うんっ。来て良かった〜!

ね、お母さん』



ほんっとに嬉しそうににこにこしている。



だい太が『しょう太は甘えん坊だからな。』



そう言うと



しょう太は私の腕に抱きついた。







父の手術は一時間半で終わり



ベッドで手術室から出てくると



酸素マスクを曇らせながら



辛そうな表情をしていた。



5時頃まで父のそばに居たが



病院を後にした。



父のために行った病院で…



思いがけなく子供たちに会えた私は



帰りの車の中で



何がメインだったのか…



わからなくなっていた。





私が求める幸せA




約束の時間…13時に



待ち合わせた場所に着くと



二人は既に待っていた。



約束の時間より30分も早めに待ってた様だ。



二人ともにこにこして



本当に嬉しそう。



そんな二人の笑顔を思い出すと



胸がキュッとなって



文字がにじむ。



近くの小屋に自転車を止めると



二人は車に乗り込んで



いつもの様に私に何かをプレゼントしてくれる。



今回はしょう太がオラウータンのマスコット




ちゅう太は…

家に置いて出たために私の手元にない
ちゅう太から貰ってたボールペンをくれた。



二人は嬉しそうに私の顔を見る。



『ちゅう太はまだアイススケートしたことなかったよね?

アイススケート行こうか?』



二人が嬉しそうに頷いたので



アイススケートに行くことにした。



スケート場のパーキングに着くと



建物までの道を



二人が私にピッタリとくっついて歩き…



しょう太は私の腕にしがみついて歩いた。



屋内に入ると



二人はアイスシューズを履く。



少しだけ経験者なしょう太が



ちゅう太に履き方を教えていた。



しょう太はちゅう太の手を取り



アイスリンクに出る。



始めてなちゅう太は…おそるおそるしょう太に身を委ねている。



ここで二時間ばかりアイススケートを楽しんだ二人は



前なら喧嘩する様なシチュエーションになっても



せっかくの私との時間を壊さない様に



グッと堪える姿を垣間見た。



私は二人が楽しそうに滑ったり転んだりする姿を見ていて



時々、胸に込み上げる感情と



目と鼻が熱くなる様な症状に襲われた。



二人は時々私に手を振って



私の元に滑って来ると



『お母さん。今日はありがとう。』



何度も繰り返していた。



ありがとうなんかじゃない…



私は当たり前の事をしているだけなんだ。



本当にごめんね。。。



そう思うと目と鼻が熱くなるだけでは堪えきれず



涙が頬を伝った。



スケート場を出ると



二人とも靴がボロボロだったので



靴を買いに行った。



二人ともすぐに気に入ったのを見つけたので



靴を買うことはすぐ解決した。



そして送る時間が来る。



送る前に、友達に返さないといけないものがあったちゅう太を



そのお宅まで連れて行き



二人の家路につく。



『お母さん。またすぐ会えるよね?

今月中に会える?』



二人が聞いてくる。



私は「もちろん。近いとこに居るし

いつでも会えるよ。」



そう言うと二人の背中を押した。



「またね。私の大事な子供たち…」



そう思いながら子供たちと別れた…








帰宅してしばらくすると



彼が仕事から帰って来た。



何となく機嫌が良くなさそう…



私が急に子供たちと会ったからなのか



私の思い込みなのか…ムスッとして見えた。



帰宅して何も言わずトイレに入った彼を見て



そう…感じた。



(まぁいいや。
私は何も悪いことはしてない。
大事な子供たちに会ったことは
いけない事じゃないんだから。。。)



そう思ってシラッとしていると



トイレから出た彼が私を抱き締めると



『どうだった?子供たち…
嬉しそうにしてたか?』



優しく聞いてくれた。



「うん、凄く楽しそうにしてくれたよ。」



そう言った私は



彼の腕のなかで



『私が求める幸せって

こんな今なんだろうか?』



そんな風に…自分の心に問いかけていた。















私が求める幸せ@




今日は



予想もしない宝くじに



思いがけなく当たった様に



ちゅう太としょう太に会うことができた。



先日の仕事帰りに



しょう太が通うそろばん塾に顔を出した時



しょう太が『土曜日会える?』



そんな言葉を口にしていて



うやむやに途切れていたが



母に打診すると



しょう太に聞いてくれたらしく



「しょう太は会いたいみたい。
お母さんに会えるのを楽しみにしてますよ。」



そんなメールが返ってきて



思いがけなく…会うことが決まった。



毎週土曜日は、午後から塾へ行くちゅう太も



母の取り計らいで午前に変更してくれて



ちゅう太も一緒に会える。



ちゅう太とは…去年の11月に会ってから



しばらく会っていなかった。



私は二人の子を連れて



アイススケートに行くことを決めた。



つづく

卒業できない幽霊




3月1日…



だい太、高校の卒業式。



1月に元夫から

『だい太としょう太の卒業式には

出席して貰えないか。』



そう、頼まれていた事もあって



前々から出席することを決めていた。



そんな卒業式の3日前に



元夫にメールで打診すると



『今の状況を覚悟した上で…

卒業式に出てもいいし…

貴女の意思に任せる』



そんな内容の返事が来た。



とても歓迎されてるとは思えない



そんな内容がつらつらと



並べられている。



何通かメールを交わしたが



何となく歓迎はされてないんだと



確信する。







3月1日 卒業式



それでも



だい太の晴れの姿をこの目で見ようと



高校へ車で40分の道のりを走った。



卒業式ギリギリに駐車場に着いた私は



卒業式の看板を見る。



もう、生徒も保護者も



体育館に居るらしく



誰の姿もない。



静まりかえった学校の昇降口で



私の身体は固まった。



(今ここで…

私が卒業式の体育館に入ったら

みんな…どんな目で見るんだろう。

そして

それを見ただい太は…

どんな気持ちになるんだろう。)



それを考えると



卒業式の体育館に



入って行く勇気もなく



ちょっとした物音に怯える様に



私は車に飛び乗った。



「私は…

来てはいけない。

だい太のために

人目に晒されては

いけないんだ。」



そう思ったのと同時に



体育館へ入る勇気も無かった。



結局…



だい太の最後の制服姿も見れず



卒業式の看板だけ



スマホのアルバムにおさめ



「だい太、卒業おめでとう。」



そう呟くと



学校を後にした。



帰りの車の中で



ぽろぽろ流れ落ちる涙…



だい太は卒業したのに



私の時間は止まったまま



全ての事から卒業できない私がいる。



私…なにやってるんだろ。



誰にも…
どこへも…



ぶつけようのない空しさが



私を襲う。



ここに居るのに



誰の目にも見えない



幽霊の様な私。







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