金の要求




母は自分の車を止めると



私が逃げない様に



助手席に乗り込んできた。



そして



私に怒鳴り散らす様に言う。



『あんたねー。

子供を捨てたくせに

金を出しなさいよ。

子供も要らんって言ったらしいね。



もう、戻って来なくてもいいから。

あんたはこの世に居ないと思う事にするし

もう、2度と会いたくない。

家にあるあんたの物は

全て処分するから。』



私は…



子供を要らないなんて



誰にも言ってない。



ただ、元夫へ親権変更したのは



子供達の身に何かあった時



子供達の命を護るために



仕方なかった。



でも



今の母には何も通じない…



私は



反論せず



冷静に母の言葉を



聞き流した。



そして母は…



自分の言いたいことだけ言うと



帰って行った。



カーチェイス




母の車はここぞと言わんばかりに



私を追い回す。



『びーびびびびびびびびぃっ』



時々、クラクションを鳴らして



煽って来る。



振り切って逃げようか?とも思ったが



事故でも起こしたら



もとも子もないと思い



冷静に走り続けた。



そんな目の前に



踏み切りが近づく。



私は『電車…来ないでよ。』



そう思いながら踏み切りに向かう。



すると運悪く



踏み切りが閉じた。



『あーっ。終わった。』



何処へもそれる横道がない道を



踏み切りまで進むしかない。



私は踏み切りの前で停車した。



すると



後ろから追い上げてきた母が車を降りて



私の方に歩いてくる。



そして言った。



『あんたねー。

お金、出しなさいよ。

子供を捨てたんだから

お金くらい出しなさいよ。』



怒鳴り散らしてきた。



そのうち…列車が通りすぎ



踏み切りが開く。



私は取り合えず



近くの広い敷地に車を止め



母の言い分を聞くことにした。



ちゅう太との密会




ちゅう太との約束の場所に着くと



ちゅう太は自転車の横に立っていた。



右手を上げてニコッと笑うと



ちゅう太は車に乗り込んだ。



久々に会うちゅう太は



いつも口数が少ないのに



車の中でずっと喋っていた。



『お母さん?今夜ねぇトトロがするよ。

しょう太ね、トトロを楽しみに

学校へルンルンで行ったよ。』



そしてトトロのあらすじや



ジブリの話を延々とした。



私は運転をしながら



ずっと聞いていた。



目的の場所に着いたが



ちゅう太の話しは止まずに続く。



このまま…時間が止まればいいのに



そう思った。



その話しの合間に



ちゅう太と買い物に店内に入ると



ちゅう太が欲しがっていた



『モンストのウエハース』を



1000円分買った。



こんなプレゼントで良いなんて…



質素だな…とは思ったが



持ち帰って追求される恐れを考えると



小さな物しか



買ってやれない。



それに…ちゅう太が一番欲しいのは



モノなんかじゃない。



私との生活が一番欲しいんだろう…



そう思った。



『ちゅう太、何かカバン持ってきた?』



買ったモノを持ち帰る袋が無い事に気付き



もう一度店内の百均へ行く。



黒い巾着と
ネックウォーマー
カルパスを百均で求め



車に戻る。



そして



黒い巾着に全てを詰め込んだちゅう太と



また話を始めた。



後部シートを振り向くと



ちゅう太が目を真っ赤にしている。



私は思わず後部シートに移り



ちゅう太をギューッと抱き締めた。



『ちゅう太。ごめんっ。

でも、ちゅう太…

お母さんはずっと忘れた事ないよ。

いつもいつも

ちゅう太の事、思ってるからね。

それだけは忘れないで。』



ちゅう太も私も



泣きながら



暫くの間…



抱き締めあった。



あっという間に時間は過ぎ



ちゅう太を送り届ける時が来た。



ちゅう太は寂しそうに



『お母さん…今度はいつ会える?』



そう聞いてきたので



『お父さんに秘密で会うのは良くないから、今度からはちゃんと話して会おうね。

お父さんに、お母さんが契約して
ちゅう太にガラケー渡していいか
聞いてみるからね。』



そう言うと



少し安心した表情で



ちゅう太は自転車を走らせる。



私は途中まで



ちゅう太の後ろに付いた。



そろそろ別れの場所…



ちゅう太は私に大きく手を振る。



私も大きく手を振った。



『ちゅう太…またね。』



そう言って車を走らせると…



私の車を白い車が煽ってきた。



母だ。



「びーびびびびびびびびぃっ」



クラクションを鳴らしながら



私の車を



追いかけてきた。











ちゅう太からの電話




約束をした4日の昼過ぎ



家の電話機から着信がある。



私はすぐ出た。



ちゅう太からの電話である。



ちゅう太は言った。



『お母さん?今ね、まだおばあさん留守で

12:50頃に帰って来ると思う。

お昼食べて家を出るのは13:30頃かな?

また出る前に電話するね。

友達と遊ぶって言ってあるから』



そんな内容の電話だった。



私は早めに彼の昼食の準備をすると



いつでも出られる体制をとった。



ちょうど彼の昼休みが終わる時間と



いい具合の兼ね合いだと思って



彼の帰りを待っていたが



仕事の目処がなかなかつかないのか



彼は帰ってこない。



そのうち13:00になり



また携帯の着信が鳴り響く。



ちゅう太だ。



『お母さん、もう出れる。

4時頃には戻らないといけないけど

もう向かっていい?』



約束の場所へ向かうと言うちゅう太。



私はちゅう太に了承し



彼に電話でちゅう太の事を伝えた。



ちょっと内容に嘘も交えたが



彼は『気を付けてな。』



優しく送り出してくれた。



私はガレージに潜めてある自分の車を出すと



ちゅう太の元へ向かった。



『ちゅう太。今いくよ。』



母に携帯を取り上げられたちゅう太とは



もう個人的な連絡方法はなく



家電から隠れて電話してきたちゅう太に



届かない声を上げた。



ちゅう太




来週の月曜日…



ちゅう太の誕生日である。



夏休みの初めに会って以来



ちゅう太の声すら聞けず



今日まで来た。



彼が冷たい低迷期は



特に子供達の事が恋しくなる私は



また



子供達の事を考えていた。



文化の日で休みだった彼は



一日中ゴロゴロしていたので



私は…ケーキ屋さんへ



ちゅう太のケーキを選びに



一人で出掛けた。



文化の日の今日



ちゅう太は中学校のとある発表会のため



学校に当校していた。



私は会えるはず無いとは思いつつ



ちゅう太の通学路に



車を走らせていた。



そして



偶然にも



ちゅう太に出くわした。



ちゅう太はニコッとして手を上げると



私の前に止まる。



ちょっと恥ずかしそうに笑うちゅう太を見ると



涙が込み上げて来た。



『ちゅう太…今日は発表会どうだった?

緊張したでしょ?』



そう言うと



「うん、見てたぁ?」と言ったので



『うん…がんばったね』嘘をついた。



『ちゅう太、もうすぐ誕生日だね。

何か欲しいものある?』



そう聞くと



ちゅう太は
「ない。」



と答えた。



私が
『うそ!あるでしょー?』



そう言うと



ちゅう太は
『うんん。ない。』



と言うので



『本当は?』



と言うと



「たぶん、言ってもわかんないと思う。」



そう言ったので



聞き返すと



「モンストのウエハース」と…



可愛らしい…



モンストのウエハースって…



そんな安い物で良いんだ。



健気に思った。



ちゅう太は不安そうに



「でも、お母さん会えないでしょ?」



と言うので



発表会の代休を問うと



「明日が休みだよ。

でも、午前中は部活」



そう言ったので



午後に会う約束をした。



本当は



元夫に秘密にしてはいけない密会を



ちゅう太と約束した。



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