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神域第三大戦 カオス・ジェネシス46

「…もし仮に、本当にダグザだとしたらどうする?対抗策はあるのか?」
「どうだろうね。ただ、話を聞く限りじゃ、特異点は聖杯の影響なんだろう?なら、聖杯さえどうにかしてしまえば問題ない可能性が高いってことだよな。それなら、やりようはある」
「聖杯だけ回収ないし破壊をする…ってことか?」
「そう。ここは正規の特異点じゃないのだから、破壊してしまっても問題はないでしょ。真っ向から立ち向かって勝てる相手じゃない、そこは妥協のしどころだね」
ヘクトールとクー・フーリンの言葉に凪子はそれぞれ言葉を返す。あまりに仮定だらけのことだ、語りが過ぎるのは取らぬ狸のなんとやら、だろう。凪子のざっくりとした言葉に、だが両者はどこか納得したような様子を見せた。
顔色を曇らせたのは、マシュだ。彼女は別なことが気になっているようだ。
「…しかし、神々の闘争なんてどう探りを入れればいいのでしょうか……」
「確かに…」
「あぁ、それならアテはある」
「えっ、あるんですか?!」
深刻そうにマシュが口にした言葉にさらりと言葉を返せば、仰天した顔が戻ってきた。凪子はそこまで驚かれる理由が分からず曖昧な表情を浮かべてしまう。
「いやだって、この時代の私が喧嘩売りに行ってるはずだから、神に接触しなくても私に会いに行けばいいだけやん?」
「……あ!そういえば…まだこの時代に生きているはずの凪子さんに我々はまだ遭遇していません。タラニスの所にはいなかったというだけで、その…神を殺しにいったことには違いない、と?」
「リンドウの家に来ないってことはそういうことだ。死を司る、なんてそう珍しい属性でもない。対象が別の神になったことにしても、その闘争が影響している可能性だってある。どちらにせよ、神と接触するよりかはここの私と接触した方が安全だ」
「それはそうかも。でも、どうやって探すの?」
「んー、そうね、さっきのコンパスを援用して――」
「!!待て、止まれ!敵の気配だ!」
不意に、ヘクトールがそう叫んだ。凪子はその言葉に即座に槍で地面を叩き、周囲をスキャニングする。斜め前方、林の中に人の気配があった。
「!先輩!」
―ヒュンッ。
軽やかに空を切って飛んできた矢を、マシュが盾で弾いた。直後、その方向の林から獣が複数体飛び出してきた。
「なんだありゃ、猪か?」
「あれは…!魔猪です!数、6!マスター、後ろに!」
「夕御飯になるかな?」
「あんまりお勧めはしねぇぞ!」
ヘクトール、クー・フーリン、凪子は一斉に己の得物を構えた。マシュは藤丸の防護だ。飛び出してきた魔猪の数はマシュの言うとおり6体、大した数ではない。問題は矢を放ってきて、凪子のスキャンにひっかかった人物であるが、後方支援にでも徹したか、飛び出してくる様子はない。
ヘクトールがぱっ、と凪子の方を振り返った。
「春風、奥の弓兵、引きずり出せるか?」
「ん、構わんよ。でも、長らく名字で呼ばれることなくて一瞬呼ばれてんのに気付くの遅れるんでそーろそろ下の名前でオナシャスぅ!」
「お前さん自分の名前だろうが!」
どうやら魔猪は二人で対応できるから、奥の弓の射者の対応を、ということらしい。堅実な対応だといえよう。凪子は了承の言葉を返すと、勢いよく地面を蹴って跳躍した。そのまま木々の上まで飛び出し、上空から弓兵を狙う。
一本の木の上に着地した凪子は、そのまま再び樹を蹴って位置の目処をつけていた弓兵の、少し後ろに飛び降りた。
「!」
弓兵が凪子の気配に目敏く気付いたようだ。逃げられる前に凪子は一息で距離を詰め、その背中を思いきり蹴り飛ばした。
「…ッ」
カラン、と音をたてて弓が地面を転がる。凪子は自分の方へ転がってきたそれを踏み割り、破壊してから蹴り飛ばした人物へと視線を向けた。足首近くまであるマントで姿を隠していて人相は伺えないが、人間体のようだ。
「…弓はただの弓……」
凪子はぽつりと確認するように呟く。踏んだだけで割れたのだ、ただの木製の弓で、何からの宝具といったものではないようだ。
武器を破壊されたその人物はしばらく屈み込んだまま凪子の様子を伺っている。こちらが動いてから動くつもりか。
凪子は黙ったまま、再び地面を蹴った。間合いに入った直後、槍を顔めがけて突き出す。素早く顔をのけぞらせてそれを避けた敵は、凪子の槍を蹴り飛ばして距離をとった。直ぐ様凪子はその後を追う。回り込むようにして追い込むことで、ヘクトールたちの方向へと後退せざるを得ないように誘導する。
相手は途中でそれに気がついたか、チッ、と小さく舌打ちをした。器用に凪子の攻撃を避け続け、反撃の様子がない。手段がないからしてこない―というよりかは、観察されている、という感覚がする。
「凪子!!」
「!」
「どらぁっ!!」
「ッ!」
ちょうどそこへ、クー・フーリンの言葉がりん、と響く。魔猪を倒し終わった、ということだろう。その声に一瞬気をとられた相手の隙を凪子は見逃さず、凪子は相手を思いきり蹴り飛ばした。
「おっ!?」
驚くヘクトールの声が聞こえる。ちょうど他のメンバーの視界に入る程度の距離までは蹴り出せたようだ。
相手は凪子が自分の方へ迫ってくるのを見て、たんっ、と軽やかに高く跳躍した。跳躍の際、蹴られたときに留め具が緩んでいたのか、マントがばさりと脱げ落ちる。
「………あれ…………?!」
木の上に着地し、後ろを振り返った事で見えた相手の顔に、思わず凪子は呆然とした言葉を漏らした。

―――そこにいたのは、凪子その人だったのだ。

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