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神域第三大戦 カオス・ジェネシス32

『………キャスター』
「…、ウィッカーマンは俺の宝具だ」
「はい??」
凪子は思わず某刑事ドラマの主役のような反応をクー・フーリンに返してしまった。

本来ウィッカーマンは古代ガリアで信仰されていたドルイド教における供犠・人身御供の一種であり、巨大な人型の檻の中に犠牲に捧げる家畜や人間を閉じ込めたまま焼き殺す祭儀だとされている。

その信仰の対象はタラニスだけに限りはしないのだろうが、要は神に生け贄を捧げる儀式のことだ。
「…え、儀式が宝具って?」
『あぁ、サーヴァントの宝具は必ずしも武器や技に限らないんだよ。その英雄の生きざまや起こした奇跡なんかが宝具になる場合もある』
「でも関係なくな……あ、今はドルイド判定なんだっけ?訳わっかんないな……」
はー、と凪子はため息をついてがくりと頭を垂れた。イレギュラーな状況ゆえにイレギュラーな英霊が召喚されている、とは聞いていたが、それにしたって限度があるだろう、と言いたくなるのをぐっと堪える。
頭を悩ましていると思われたか、マシュが慌てたようにフォローに入る。
「クー・フーリンさんは私たちが最初にお会いしたサーヴァントで、一番付き合いが長いので…」
「その宝具ってイメージがすごい強かったからびっくりした」
「あぁなるほどね…。…、でもどういう宝具なの?それ」
藤丸の言葉に少し納得しつつ、が、イメージはまるで浮かばなかった。聞いていいものなのか一瞬迷ったが、答えられなければ答えないだろうという算段で凪子はそう尋ねた。クー・フーリンは、あー、と小さく呟く。
「……檻のなかが空のままのウィッカーマンを呼び出して炎を纏わせて、捧げるべき生け贄がねぇからそれを求めて暴れまわるので攻撃する……というか」
「文字にするとなんて間抜けなんだ」
「失礼なやつだな」
「…しかし、空か。中身用意したら普通のウィッカーマンとして使えるのかな」
「………………何考えてやがる」
ぽつり、と凪子が口にした言葉に、さらっと宝具を茶化され顔をしかめていたクー・フーリンが真顔になった。
中身。つまりそれは。
「いやぁ。タラニスを倒すことが目的なら昔の私と同じようにすればいい訳だし姿を現させるのもそう難しい話じゃないんだが、そうじゃないし、それなら喧嘩は売らない方がいいでしょ?なら素直に儀式を模したら平和裏に喚び出せるんじゃないかなーと思って」
「…そういえば、本来あの檻?の中には何が入ってるものなの?」
「はは、マスター。神様に捧げるもので、あの大きさなんだ。……予想はつくだろ?」
「………え、まさか」
藤丸やマシュは、ウィッカーマンが人身供物に使われることまではよく知らなかったようだ。にや、と笑いながら、しかし目には冷たい色を宿したヘクトールの言葉に、藤丸の顔がさっと青くなる。マシュも遅れて予想がついたのか、同じように青ざめさせる。
この方法はそもそも無理かもしれない、と、その顔を見て思った凪子は小さくため息をついた。
「…つってもタラニスが好きなのは罪人の血だからなぁ、そう都合よくいないかぁ」
「!やっぱり…人なんですか」
「まぁ罪人いなかったら普通の人間でもいいらしいけどネ」
「無関係の人を巻き込むわけにはいかない!」
「言ってみただけだよ、大体本物の人間使うわけなかろうが、コスパの悪い。それっぽいもん作ってやるにきまっとろうが」
「それは………でも……」
「…あー、君らは人間らしきものでも駄目なのね。ハイハイわかった、大人しく別の方法考えるよ」
慌てたように声を張り上げた藤丸を凪子は軽くいなす。
要は中に入っていたものが人間だと相手に誤解させられれば別にいいのだ。人体に含まれる素材それ自体は、そう調達が難しいものでもない。タラニスに限って言うならば、人の血だと認識できるものがあればいいはずだ。
――と、言おうと思っていた凪子であったが、あまりに渋い顔をされたので、その方法は捨てるしかなかったのだが。
「ま、喚んだところで怒りを買わないとも限らんわけだし、素直にもう喧嘩売った方が早いかな、あいつは」
『話がそれてしまっていたね。残虐性は高いかも、という話だったが…タラニスは対話のできるタイプなのかい?』
「司ってるものから想像は容易だと思うけど、タラニスは人間に好意的な神じゃない。大体、対等なわけないだろう、向こうからしてみれば。“対話”なんてのの対象にはならないよ」
『ふむ、それはそうかもしれないが、中には人間を愛している神はいるからね。でもさすがにそういうタイプではないか…』
「生け贄に罪人をより好みはするが、それでもアイツにとって人間は、人間にとっての家畜かそれ以下だ。興味をもったものにちょっかいを出す、位はあるかもしれないけど」
「誠意を示しても…厳しいのでしょうか」
幾分調子を取り戻したらしいマシュが発した言葉に凪子は一瞬ぽかんとしたあと、ぶっ、と吹き出した。
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