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神域第三大戦 カオス・ジェネシス24



「それはさておき、レイシフトが正常に成功しているかも怪しい状況だ。マスターとマシュは離れない方がいいし、俺の格好が目立つのもまた確かだ。そのお嬢ちゃんの言うとおり、ここは二人に探ってきてもらうのが安牌じゃねぇか?」


結局、ヘクトールのその言葉が説得力を持ち、凪子とクー・フーリンは一旦三人と別れ、街へと向かうことになった。三人は村に程近い森のなかで野宿の用意をしつつ姿を隠すことになっている。
「さて、藤丸ちゃんがいたら聞きにくいこと聞くならなうだぜ」
「あ?別に特にねぇよ」
「あれま。ランサーの方に言うべき言葉だったかな?まぁまたの機会に」
「……お前、なんなんだ」
あっけらかんとそう言う凪子をクー・フーリンはげんなりしたように見つめる。街が近付くにつれて人の姿も増えてきたので、クー・フーリンは顔が見られないようにフードを深く被りなおした。
んー、と凪子はぼやく。
「別に。日々是楽しく。それが私のモットーだから、楽しそうだなーと思ったら協力は惜しまんよ。藤丸ちゃんはまだ若いしねぇ」
「俺たちは持ちつ持たれつ、なんだろう?どうすんだよ、俺たちが敵だったら」
「そんな敵対した時に不利益じゃんみたいなことを宣うなんて、存外お人好しだなぁ君は。別にだからなんなのさ」
「…………あぁそうかい。お前、味方が敵になったとしても躊躇なく殺れるタイプか」
ぎろり、と赤い瞳がフードの影から睨み付けてくる。そんなことで睨まれる謂れはない、と、凪子は唇を付きだした。
「なんだい面倒くさいな。どこぞのピンクの悪魔だって容赦なく叩きのめすじゃないか。大体、君ら別に私のこと好きなわけでもないんだから、関係はあっさりしてた方が都合がいいだろぉ?そんな風に睨まれる覚えはないんだけど」
「…………ま、そうだけどな」
「まぁそんなに不安だって言うなら、敵対するときはちゃあんと事前に言ってあげるよ。人間の国際法でも宣戦布告をしないで戦争吹っ掛けたらいけないそうだし?感謝したまえ」
「へいへい、ありがとうよ」
街の入り口が見えてきた。そろそろこんな物騒な会話は終わりして、現地の人間に紛れなければ。凪子はあまり似つかわしくない鞄を自分の結界のなかにそっと戻した。
「……一つだけ聞いておきたいんだが」
「ん?なに?」
「お前、人類が滅ぶかもしれないことについて、大して興味ねぇだろう?なんでだ?」
「なんでって…そこは私がどうこうする、いえる話じゃないし、人が滅びを選択するなら、そうですかーとしか。私は、人間みたいに他生物を管理したいとか、これっぽっちも思わないから」
「!」
「惜しいな〜と思わなくもないし、助けを乞われれば助けるかもしれないけどね。嫌いではないし。でも、飛び抜けて人類に特別価値があるとも思ってない。人理焼却が腹立たしいのは、人間が起こした事っぽいのに他生物を巻き込んだからだ。何様のつもりだ。人間はちっとは優れていて、私も近くて親しみやすい存在かもしれないけど、生命体の一種にすぎないよ、所詮ね」
「…………なるほどな」
クー・フーリンは僅かに目を見開いたあと、どこか納得したように目を伏せた。

街に入ると、そこはそこそこ大きな街であったようで戦士の姿もドルイドの姿も多く、程よく二人の姿は大衆のなかに紛れることができた。
「……ふむ、ケルト神話世界であることは確かだね」
「なら成功と見るべきだろうな」
先程までどこか剣呑とした会話を交わしていた二人はどこへいったのか、一転二人は真面目に偵察を開始していた。装いからして、ケルトの文化であることは確かだった。レイシフトは成功と見ていいだろう。
「問題は何が特異点を引き起こしてるのか、だが……チッ、いつなのか全く見当がつかねぇな」
「そういう時は旅人になればいいさ」
「あ?」
「やぁ!今日は過ごしやすい日だね」
「!!」
レイシフトの確認はとれた。問題は他の情報だ。
特異点化した原因の目処すらもわからず、正確なサイクル内での時期も分からないだけあり、おいそれと話を振ることも難しい。
と、クー・フーリンは難色を示していたのだが、凪子はあっさり道端に座っていた戦士に話しかけていた。
戦士は胡散臭そうに凪子を見上げた。
「あ?戦士の格好をしてるが…女じゃねぇか」
「おや、こちらでは珍しいかい?海を越えたところにある私のいたところじゃ他にもいるんだけどな」
「なんだお前、大陸から来たのか?」
「そこのドルイドのお告げでちょいと旅をしないといけなくてねぇ」
「(…………よくもまぁペラペラと…だがここがアイルランドの方なのは確かになったな)」
クー・フーリンはあっさりと嘘を並べた凪子に呆れつつも、手早く情報を得てきた凪子に内心感心していた。
ケルトには一般的に、大陸のケルトと島のケルトと呼ばれる分類があった。近年の研究では島のケルトは存在しなかった、なんて学説も出ているそうだが、神話の話だ、それすらどこまで正確かは分かったものではない。確かなのは、その領域がアイルランドとユーラシア大陸と、海を隔てた2つの地域にあったということである。
凪子もそれを知っていたのだろう。故に、別の地方から来たと思わせ、現在地を探りだしたのだ。おまけに、遠くから来たと思わせることで直近にあった事件を知らなくても違和感を感じさせなくてすむようになる。
「(…なにもかも考えてるのか、なにも考えていないのか…わからんやつだ)」
クー・フーリンは内心そう呟いた。
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