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神域第三大戦 カオス・ジェネシス43

「…………え、あれ?」
「おうっ」
藤丸の呆けた声に一同がはっ、と我に返れば、何故か一行は森の入り口に立っていた。思わず凪子も驚きに声をあげる。
タラニスの領域から追い出されたのだろうが、全くその予兆に気付かなかった。タラニス自身の能力というよりかは、神性のその神の領域、フィールドでの影響力は多岐に及ぶ、ということなのだろう。
凪子はちら、と森を振り返ったあとに、藤丸に向き直った。そして、にっこり、と、わざとらしい笑みを浮かべる。
どたばたで忘れていたが、凪子には一つ頭に来ていることがあったのだ。
「一時間たつまで来るなと。ランサーが。言ってたよねぇ???」
「えっ?あ、…で、ですが、」
マシュと藤丸はその事に言及されると思っていなかったようで、凪子の言葉に驚き、戸惑ったような表情を浮かべていた。
凪子は何か言おうとするマシュを、持っていた槍の柄頭で地面を思いきり叩いて音を立てることで黙らせた。
「あの短時間で来れたってことは、犬の視界が消えた直後にあの岩場を離れただろう。つまり君らは、ハナから約束を守る気はなかったわけだ」
「!そういうわけでは…!」
「あ?じゃあなんですぐに来たんだよ。私のいうことを聞かないのはまだ分かる。だがランサーの言葉すら無視するというのは、あまりに信用がないんじゃないか?」
「!」
凪子の言葉に、なぜかヘクトールの方が驚いた顔を見せる。その驚きを見るに、ヘクトールもヘクトールで最初から言うことを聞くとは思っていなかったようだ。だから疑問も怒りも彼にはないのだろう、と判断して、凪子は大きくため息をついた。
「ランサーは恐らくはお前のその性質を考慮して、まずい時は宝具を使う、とも言った。お前はそれすら待たなかった。それはお前のサーヴァントであるランサーですら、信用も信頼もしてないってことだろう?」
「そんなことない!」
「お前の気持ちや本心がどうこうなんてのはこの際どうでもいい。お前の行動はそれを私に証明した、って話をしてるんだ、凪子さんは」
「!」
「オマケにぼかすか宝具使いやがって。慎重さもクソもなければ、別行動した意味もお前に気を使った意味もあれこれ戦略を考えたのも全部無意味だ。……もう少し合理的な判断くらいできると思ったんだが、買い被りすぎたか」
はぁ、と凪子はわざとらしくため息をついた。マシュと藤丸は落ち込みつつも、どこかむっとした表情を浮かべていたので、自分の行動を間違いだとまでは思っていないのが簡単にうかがえた。
それを悪い悪くないを語るつもりは凪子にはないが、今後もそれに付き合うのは面倒だな、と再びため息をついた。
「…あー、と。マスター、確かに俺も、今回ばかりはちょいと軽率だったとは思うぜ。それがお前さんの良さだと思っているから怒りはしねぇけどな、結果よければ全てよし、って訳じゃあないんだ。こちらは春風以外宝具も出しちまった、それは確かに痛手ではあるぜ」
「ヘクトール…」
どよ、と重くなった空気を吹き飛ばすように、ヘクトールが口を開いた。藤丸らもヘクトールの言葉の方が素直に聞けるのだろう、拗ねたような色が僅かに揺らいだように見えた。ヘクトールは槍を肩に担いで、凪子の隣に立った。
「それと。信用をしていないと証明してしまった、ってこいつの言葉はもっと重く捉えた方がいい。相手のウィッカーマンの攻撃と、キャスターを狙った攻撃、それは春風の記憶と機転がなければ防げなかった可能性だって高い。春風がカルデア側についているのは利害の一致と本人は言うが、ぶっちゃけお前さん、ここにレイシフトで来れてしまったんならもうカルデアの力は特別必要ないだろう?」
へら、と笑うヘクトールに、凪子は少し考えたのち、肩を竦めた。
「…戦力として頼りにしている、ということはほとんどないというのはまぁ確かだな。ま、私の前で死なれると寝覚めが悪そうだから生者は守ってやろう、くらいには思ってるけど…」
「だろ?なら、春風が俺たちを手助けしてくれてんのは一重にこいつの好意に過ぎない。仲良くしろ、って話じゃない、そのつもりはこいつにもないようだからな。だが、一緒に戦う気もない、と示しちまうのはよくねぇだろ。あ、まさかマスターその気だったか?そりゃあ汲み取れなくて悪かった、」
「そ!そんなことはない!!」
「………………」
「なら、春風の思いも汲んでやらねぇとだろ。こいつはこいつで、お前さんに危険がないようにと動いてくれてるんだから」
「それは………確かに、そう、です」
「……………、ごめんなさい」
マシュと藤丸はヘクトールの言葉に納得したのか、しょんぼりとそう言って頭を下げてきた。それを確認して、ヘクトールも凪子に向き直る。
「…すまねぇな、春風。俺の判断も甘かった。今回の不手際は俺の対処ミスだ、俺はマスターの質を知ってたわけだからな。そういう訳で、マスターへの怒りはとっさけでくれねぇかな」
こうも謝られてしまっては、いつまでも一人腹を立てているわけにもいかない。凪子は深々とため息をついた。
「………まぁ、別にいいけどさァ。すぐ変わるようなもんでもないだろうし。ただ、ここで発生している異常が人間の出来事ではなく神々の出来事である以上、私がカバーできる限界ってものがある。信用しないでもいいし好きに動くのもいいけど、それで死んでも自業自得だからな、人類背負ってる自覚あるなら多少は先達のいうことに耳を傾けろ。お前が死んだところで私は別に人間を助けようとは思わんからな、そこまでの義理も情もないし」
「あぁ、すまねぇな。っと、神々の間で戦争が起きているっつってたが、それは正史にないことなのか」
ヘクトールの言葉に凪子は頷いて返す。話題が本題に戻ってきた。
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