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神域第三大戦 カオス・ジェネシス42

「で?」
「んっ?」
「何故貴様が、わざわざ、人間の使い魔なんぞの容を取ってまで人間の味方をしているんだ、という話だ。オマエ、一人の人間を死なせないためだけにオレを殺せる程度の力はあるんだろう?利害というが、一体何の利があるというのだ?」
タラニスの言葉は、心底不思議そうな響きを持っている。そもそも彼に、人間の為に何かをする、なんて発想がないからなのだろう。
凪子はふぅ、と息をはいた。
「さっきあの子が、世界が崩壊しそうになっている、って言っただろ。でも実際はもうとっくに崩壊してんだ。どうやら魔術的な仕業らしいんだがな、とにかく、全世界が燃えて、すべての生命が生き絶えている。私を除いて」
「…!」
タラニスはぴくり、と僅かに反応を示した。死を司る立場だ、すべての生命の死というのには興味があるということなのだろうか。
ちら、と、藤丸達の方になんとなしに視線をやると、マシュや藤丸は暗い顔をしていた。そういえば外の世界の様子を聞きたがっていた、と誰かに聞いたような気がする。知っていたことであるだろうが、当事者の口から語られる重みは違うということだろう。
凪子はタラニスに視線を戻し、ヘラ、と笑った。
「さすがにそれは退屈でなぁ。燃えてるのは鬱陶しいし、楽しみもない。だがその状況で私に助けを求めてきたやつがいた。だからそいつを助けようとしているし、その為に人間の手助けもしてる」
「ふん。存外貴様は人間臭い思考をするのだな」
「生憎、今の私は神よりも人間の方が付き合いが長い。似る部分があるのは仕方なかろう。お前さんにとってはつまらなく見えるかもしれないが、得体の知れないやつに居住環境を好き勝手されるのも癪だろ?」
「…確かに、それはあるな。その為なら何でも利用するということか」
「ま、そういう見方もある。私は器用だが万能を自称するほどでもないからさ、できないこともまだあるし、できないなら素直にできるやつの力を借りるって訳だ」
「ふん…………」
タラニスは凪子の言葉を聞くと、僅かに目を細めてしばし黙った。何を考えているのかは分からないが、じ、と目を見つめてくるので逸らすに逸らせずその目を見返すしかない。
気が済んだのか、タラニスは不意にブスブス、と遠慮せずに指で凪子の頬をつついてきた。
「聞いていた話よりかは随分人間臭いが、思慮深くもなっているな。ハリネズミのようなモノだと思っていたが、知性はあるらしい」
「誉め言葉として受け取っておくとしましょ」
「しかし、さっきの話振りでは貴様は貴様の主を認知していないようだが、それでも助けてやるとは随分とオヤサシイことだな?」
「ちょいと原因解明にも行き詰まってたんでね。仮に、その雇い主も彼らも私の敵だと判明したなら、そのときに倒せばいい訳だし」
「…成程な。性質は変化すれど本質は変わらず。多くの時を過ごした果てであっても孤独であることに変わりないということか」
「!………」
ピクリ、と、今度は凪子が反応を見せる番だった。
身体が跳ねてしまったので、じとり、と恨めしげにタラニスを睨めば、タラニスは楽しそうに歪んだ笑みを浮かべている。いたずらが成功したとでも言いたげな顔色だ。
タラニスも凪子の記憶より思慮深く頭の回る存在であったと認識を改めていたところだったが、それに加えて物凄く性格が悪い、も付け足さねばなと凪子は内心毒づいた。
「……オアイニクサマで、そちらと違って同類も同位体もいないんでぇ〜」
「ハッ、言うじゃあねぇか。まぁいい、成程良く分かった。なかなか興味深かった」
「!なら、なんか見返りくれるの?」
タラニスは凪子がわざとらしく言った言葉を鼻で笑いながらも、身体を起こしながらそう言ってきた。良くは分からないが、彼の欲を満たすだけの話はできたらしい。
期待半分でそう問い返せば、タラニスはにや、と笑った。
「神々の間で何が起きている、と貴様は言ったな。戦争だ」
「!」
「オレはまだ直接参戦はしていないがな。徴集はされている、今は待機期間だった。お前らを最初に疑ったのは、その敵方の奴等の使い魔じゃねぇか、ってことだな」
「……戦争、なんて言い回しをするということは、大規模なのか」
よいせ、と起き上がり腰布とマントについた土やら何やらを払っているタラニスに、凪子は後ろから問い掛ける。タラニスはぐ、と首だけで後ろを振り返り、凪子の方を見てニヤと笑った。
「そうさな。ま、単なるいさかいでないことは事実だ。かの戦争を彷彿とさせるような面々だからな、面白そうだから早いとこ参戦したいところなんだが」
「お前さんは確か戦争も司ってたろう。なのになぜ待機してる?」
「単純な話、それ以外の役目があるからだ。だから今は人間なんぞに構っている暇はない。それは他の奴等も同じだろうな。異常とやらを探るのは勝手にすりゃあいいだろうがな、生きたい気持ちがあるならこちらの領域に首を突っ込まねぇことだな、皆気が立ってるからわざわざ気には止めねぇぜ」
タラニスはそう言うとふいと首を戻し、そのまま凪子の返答を聞くことなく森の中へと消えてしまったのだった。
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