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神域第三大戦 カオス・ジェネシス23

「…しかし、虚数空間の影響を受けないようにした、なんて、どうやったんだい?」
にっ、と、人懐こそうな笑みを浮かべてヘクトールがそう尋ねてきた。
「ん?レイシフト、ってのは、カルデアでの存在をあやふやにしつつ、滞在先での存在証明が必要なんだよな。レイシフト中にその存在は一番不確かになるわけだ」
「まぁそうだね」
「あの虚数空間がなんなのかはよく分からんが…虚数空間は時間の積み重ねがない世界。タイムリープしてるときにそんなとこ通ったらやばそうだからさ。君らの位置はなんとなく把握していたから“一旦全員の存在を私の固有結界の中に固定した”」
「!?固有結界…!!」
ぎょっ、としたように二人が凪子の言葉に反応した。そういえば、以前も誰かに固有結界は稀有な魔術なのだ、といわれたことがあったような気がする。
それはおいといて、と凪子はジェスチャーを交えつつ話を続けた。
「固有結界の基点を私の体内の結界にあるルーの槍に置いて、どちらも結界基盤が表面にでないように展開した。まあ、なんていうかな、メビウスの輪みたいな感じにしたのよ。で、一応さらにその外面に虚数結界を展開して空間を弾くようにした。やー、私虚数魔術はここ100年くらいで練習してる奴だからあんまり得意じゃないんだけどね、短い期間で助かったよ。で、虚数空間を抜けるのと同時に虚数結界を解除、私だけ固有結界外に出てレイシフト構造と時間移動を維持しつつ、色々調整したりなんだりしたりして、まぁ、今に至ると」
そんな感じです!と、凪子はぽんと手を叩いた。そうして二人の方を振り返ると、二人はぽかんとした表情で凪子を見つめるばかりだった。どうやらあまり説明が通じていないようだ。
へにょ、と凪子は眉尻を落とした。
「…ごめんね?フィーリングで魔術使ってるから、これ以上の説明は無理よ??」
「………さらっと言ってるが、とんでもねぇことやってる自覚はあるか?」
ぱちぱちとまばたきを繰り返したあと、ヘクトールはまたへにゃ、と笑ってそう尋ねてきた。脱帽を飛び越えたもはや呆れのようなものがヘクトールからは感じられた。
「んー、わからん!なにせフィーリングだ、ばーっとやってふぁーっとやってワーォってやってるだけだから…」
「余計わかんねぇよ」
「ははは、とんでもないねぇ」
はぁ、とクー・フーリンは困ったように天をあおぎ、ヘクトールは、ほぉ、と感心したようにため息をついた。
結局、あまり通じてはいないようだ。いささか残念ではあるが、“虚数空間を通ったこと自体が凪子の仕業ではないか”とは疑われていないようなので、凪子はあまり気にしないことにした。
「まぁ、余計なお世話じゃないならいいのさ。ただ、本当にこれ、レイシフト成功してるのかね??」
凪子の切り替えていく言葉に、クー・フーリンはわずかに眉をあげ、すぐにひらひらと両手を振った。
「さぁな。本当にここがアルスターサイクルのイングランドなのか……そういや、お前、今は存在証明どうしてんだ?」
「虚数空間通ったときに色々切断された可能性はあるからね、一応今も固有結界でやってるよ」
「まぁ、その辺のことは通信が繋がれば分かるだろうさ。マスター!通信は繋がったかい?」
ヘクトールが声を張り上げ、通信準備に取りかかっていたはずの二人に声をかけた。そういえば、あれから音沙汰がない。うまくいっていないのだろうか。
「通信、繋がりません…!」
「あぁ…やっぱそうなるか」
薄々そんな気はしていた三人は、マシュの報告に三者三様に頭を抱えた。藤丸とマシュは三人の方へ駆け寄ってくる。
「どうしようか」
「今までこうやって通信繋がらなかったときはどうしてた?」
通信が繋がらないとなるともう少し動揺しそうなものだったが、藤丸は随分と落ち着いた様子だった。こうした非常事態に慣れているのだろうか。
凪子はひとまず今までのことを藤丸に尋ねてみた。こういう時は経験に頼った方が早いだろう。
「えっと…繋がらなかったときは大体敵性エネミーに遭遇したりして対処してるうちに、カルデア側が繋げてくれることが多かったと思います。…あと、キャメロットでは魔力干渉が強いところだと通じなくなったりしてた」
「ひとまず、召喚サークルを確立した方がいいだろ。その方がカルデア側も俺たちをマークしやすいかもしれん」
「召喚サークル」
クー・フーリンが耳慣れない言葉を口にした。ぱちぱち、と意識的にまばたきを繰り返す凪子に、はっ、と気がついたマシュが自分の盾を掲げた。
「簡単に言いますと、この地の霊脈に接続して、一時的な拠点にするんです。召喚サークルを確立すれば、カルデアのサーヴァントの方々を戦闘時に呼び出すことも容易になります」
「なるほど、聖杯戦争でキャスターが工房作るのみたいなもんか。つまり強い地脈が必要ってことね。一先ずは霊脈探しがミッション、ってことでいいかな?」
「うん」
「一先ず移動した方がいいだろ、敵性エネミー感知もこっちでやらないといけない以上、こんな見晴らしのいいところは良くない」
「ちょっと待ってな」
次の方針がおおよそ決まったようだ。動揺も少なく、経験則から次にすべきことがすぐ判断できる辺り、なるほど人類滅亡の危機を救わんと活動しているだけはある、ということらしい。
凪子は内心そんな彼らに感心しながら、鞄に取り付けていたコンパスを手に取った。なんだか楽しくなってきたので、積極的に動く気分になってきたらしい。
藤丸とマシュは不思議そうにそれを見た。
「それはなんですか?」
「秘密のコンパスだよ。魔力を通すと起動する」
凪子はそう言いながら魔力をコンパスに通し、方位磁石の状態だったコンパスを探知モードに変える。
ホログラムのように映像がコンパスから照射され、少ししてから辺りの地形を再現していく。
「かっこいい!」
「かっこいいだろ〜!分かるゥ〜?」
興奮したように声をあげた藤丸に凪子は気を良くしながら、さらにそこから感知の精度をあげた。どうやら南の方角に街があるようで、生命反応が多く示された。
「南に街がある。私とそこのキャスターは幸いこの時代の戦士とドルイドの格好に似てるから、そこで一旦情報収集はどうだろう」
「別行動、ということですか?」
マシュが意外そうにそう言うものだから、凪子も驚いてそちらを見てしまう。
「だって、ランサーの彼と君らの格好は浮きすぎるでしょ。え、まさか普段のレイシフトだと藤丸ちゃんはその格好で街行ったりしてんの?違和感やばくね?」
「旅人とかと思われることが多いからあんまり言われたことはないかな…まぁでも、確かに」
「はー…存外気にしないもんなの?人間わからねぇや」
「考えることを放棄するなや」
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