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神域第三大戦 カオス・ジェネシス40

「ッ、」
クー・フーリンはその隙を見逃さずにタラニスを蹴り飛ばし、その下から逃れた。凪子がわざわざ幼名で呼んだ意図をどこまで汲み取ったのかは分からないが、彼は離れると同時に深く被っていたフードを脱ぎ去った。現れた顔を見て、軽く後方によろめいていたタラニスはいよいよ目を大きく見開き、動きを止めた。
「………なんてこった、マジにセタンタじゃねぇか」
タラニスの声色には驚きと呆然が含まれているように聞こえた。クー・フーリンは彼が何故そんな反応を見せるのかピンときていないようで、杖を構えて訝しげに様子を伺っている。
一方のタラニスはしばらくクー・フーリンを見据えたのち、凪子を振り返ってじとりと睨んだ。
「…お前、分かっていて呼んだな?」
「……まぁ、それで動揺してくれるかどうかは賭けだったけど」
「…………へぇ」
タラニスは再びクー・フーリンに視線を戻し、しばし考え込む様子を見せた。
「……?どうしたんでしょう…?」
「……あぁそうだ、人間を問いただすことにしたんだったな」
マシュがその様子に思わず疑問を漏らした時に、ふ、とタラニスは思い出したように呟いて藤丸の方を振り返った。
そして向き直ったと同時に、パチン、と指をならしたと思ったら、凪子他四人のサーヴァント全員の首に、魔法陣のようなものが首輪のように展開した。
「!マシュ!」
「ここにいる人間は貴様だけ、ということは貴様がこの使い魔達の使役者だろう。オレの問いに答えろ、そうすれば今かけた死のルーンは解いてやる」
「…!」
「あぁ、言っておくが、使い魔どもは動くなよ。一歩でも動いたらそれは発動する。オレとしてはどちらでも構わないがな」
「………………なんですか」
藤丸は不安げにマシュを見たのちに、ぐ、と拳を握ってタラニスに向き直った。存外度胸がある、危険が高いから来るな、と言ったのに、その約束を守らずにやってきただけはある、ということなのだろうか。凪子はそんなことを考えながら、タラニスに再び視線を向けた。
「そこの2体が、オレの領域に入り込んだのは現象の観測のためだと言った。過去としてのこの時に、起きていたはずの目的の現象とやらが起きていないらしい、ということもな。とはいえ、観測なぞ手段の1つに過ぎないだろう。先の時間軸か、あるいは異なる時間軸からの来訪者のようだが、この時に在らざる者が一体何の用でここに来た」
「…、この時代に異常が発生して、結果、私が生きている世界が崩壊しそうになっている。だから、異常の原因を無くしにきました」
「……………。ったく、頭のオカシナ人間が迷い込んだのかと思ったが、本気で言っているんだから手に負えねぇな」
「!」
はぁー、とタラニスは長いため息をついて頭をがしがしとかいた。そしてすぐにつまらなそうにその手を離すと、再びパチンと指をならして呪いを解いた。
「セタンタに免じて見逃してやる。アイツ最近機嫌悪いからな、八つ当たりでもされたらたまらん。アレの手下でもねぇなら用もない、とっとと失せろ」
タラニスはあっさりとそういうと、最早五人に興味は失せたと言わんばかりにさっさと背を向け、歩き出してしまった。ポカンとした全員であったが、はっ、といち早くマシュが我に返る。
「待ってください、あの、なにか心当たりとか、」
「貴様らの無礼を見逃してやると言っているのに、更なる罪咎を重ねたいか?」
「っ!」
マシュの言葉に、振り返ったタラニスはあっさりした引き際をまるで感じさせないような怒りのこもった目でマシュを睨み据えた。マシュはびくりと肩を跳ねさせ萎縮する。下手に言葉を続ければ、視せんだけで殺されてしまいそうなほどだったのだ。
一方、遅れて我に返った凪子はタラニスの言葉に違和感を覚え、そんな目を気にもせずにマシュ達の前に出た。
「待てタラニス、何故“アイツ”の機嫌が悪い?神々の間で何が起きてる?」
「えっ?」
タラニスは凪子の言葉に、さらに不愉快そうに眉間を寄せた。神々の間でなにかしらの事態が発生している、という凪子の読みは図星だったようだ。
「…………人間には関係のない話だ」
「屁理屈を言うなら、私は使い魔以前も人間ではない。言っただろう、私が観測しに来たのは、“過去の私”でもある。そしてここに私がいないのなら、間違いなく今神々の間で起きていることに私も関わっている」
「ほう?大した自信だな、何故そう言いきれる?貴様は神と同等の存在だとでも?」
「この時期、私は神を殺そうとしていたからだ。その対象が私の記憶ではタラニス、貴殿だ。だがそうでないなら、他の神を殺しにいっている。神に関わっているのは確かだ、であるなら無関係とはいえない。…、“深淵なる内のもの”、この言葉に聞き覚えはないか?」
「……!…………、へぇ、“それ”なのか、貴様」
タラニスは凪子の言葉に驚いたような表情を見せたのち、合点がいった、と言いたげに目を細めてみせた。
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