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神域第三大戦 カオス・ジェネシス33

ふるふると肩を震わせる凪子にマシュは慌てたようにいずまいをただした。
「な…何か変なことを言ったでしょうか」
「マシュ、ここでおねーさんからワンポイントアドバイスだ。自分と異なる生命体を相手にするときは、まず自分の人間としての価値観を捨てて考えた方がいい」
「…と、言いますと?」
凪子は、はー、と笑ったせいで苦しくなっていた息を整えると、胡座をかき、頬杖をついた。
「君の言う、“誠意”って、何?って話さ。それ、タラニスにとっての“誠意”なの?何か、奴にとって下等生物である人間の鳴き声に耳を傾けようと思うような、価値のあるものなの?」
「それ…は………」
マシュは驚いたように目を見開いたのち、困ったように視線をさ迷わせた。

分からないのだろう。当然だ。分かるはずがないのだ、違うのだから。

それは同じ生物同士でも同様のことが言える。自分と異なるものなど理解できるはずがないのだ。往々にして、それは忘れられてしまうことではあるが。
「タラニスは、神だ。人間じゃない。君とは違う生命体だ。つまり、人間の感覚では通じない。私の感覚が君たちと違うようにね。だからそもそも対話とか、人間的な方法は考えなさんな。死ぬぞ」
「…!」
凪子がつまらなそうにそう言った言葉に、少女二人の肩が跳ねる。なんとなく、その顔には覚えがあるような気がしたが、とりたてて興味もなかったので追求はしなかった。
「私がアイツを喚び出そうと考えたのは、面と向かって喧嘩を売る以外での奴との接触方法が分からんからであって、話を聞くとか、そういうつもりは皆無だぞ」
『…君のそれは、経験からかい?』
「経験からというより…いやまぁ、経験なのか?神と言われているものと同じ土俵に立てる、なんて考えてると、間違いなく死ぬってだけだ」
「…というより、接触する、ってことは姿容をもっているもんなのか、ここの神は」
ふ、とヘクトールが思い出したようにそう尋ねる。人間は神の似姿とはよく言われる言葉ではあるが、確かにヘクトールの属するギリシャ神話系列では、神が人の前に現れるときは何らかの容に変化していることが多い。本体の姿が実存するものなのか、関与できるような存在なのか、それは怪しいものなのだろう。
恐らく、ヘクトールが気になるのはそういうことだろう。
「…よくは知らん。神話ではおおよそ人間体で描かれているし、私の会ったことのある奴等は全員人間体だった。ただルーなんかは人前に降りるときは戦士に擬態する、みたいなことを言っていたときもあった。まぁ殺せたのは確かだから、天界みたいなところに本体があってコピーを人間界に下ろしている、って感じではなさそう」
「神話サイクルのケルト神話では普通に地上に存在して領土争いとか殺し合いとかもしてるからな。本来アルスターサイクルで出てくることはほとんどねぇんだが…」
「成程ね」
クー・フーリンの合いの手とあわせ、ヘクトールは納得したように何度か頷いた。大体イメージはついた、ということだろうか。
ふむ、と通信の先で大体把握した、と言いたげなダ・ヴィンチが頷いた。
『そうなると、争い事は避けられない感じかな?』
「まぁ間違いなく。奴がそれにどれだけ本気を出すかどうかは、アプローチ次第ではある」
『タラニスと関わらずに様子を探ることはできないか?』
「…どうだろう。この時期はこの時代の私が奴と戦っているはずだから、姿を見せている。できなくはないと思う。ただ、戦ってるってことは、それだけ警戒心は高くなってるし、機嫌も悪くなってる。言っとくが、タラニスはちゃんと強いぞ」
『でもできないことはないんだな?』
念を押すようにそう聞いてきたダ・ヴィンチに、凪子は目を細めた。
「…君らの隠密性の高さによる」
『ヘクトール、クー・フーリン、どうだい?』
できるか?と問うダ・ヴィンチに、両者は顔を見合わせる。すぐにヘクトールが通信の方に視線を向けた。
「………特別俺たちは気配遮断スキルを持ってるわけではないからな、簡単にできる、という話ではねぇ。それに話を聞く限りじゃ、キャスターとは関係性も強そうだしな、より関知されやすくなってる可能性はある。最初の情報収集同様、二手に別れた方がいいような気はするぜ」
『それはつまり、凪子くんと君の二人で、ということかい?』
「嬢ちゃんはいなけりゃ始まらねぇし、キャスターを避けた方がいいしマシュはマスターの防衛、となれば、俺が行くしかないだろ」
「待ってください、そうなると凪子さん任せになりすぎてしまいます」
「さすがにそれは申し訳が……」
頼りきりになってしまうのはよくない、と声をあげた二人に凪子は一瞬キョトンとしたあと、小さく笑った。
どうやら随分この二人は凪子のことを警戒していないらしい。完全な味方ではない凪子任せにしてしまってはもし裏切られても分からないから、と反対するのなら分かる。だがこの二人は凪子にばかり仕事が増えるのはよくないというのだ。
あまりに純真であることは大分理解してきていたつもりの凪子だったが、ここまで無垢となると手に負えないな、と胸の内で思うのだった。
「…誰しも向き不向きがある。下手に関与されて死なれる方がよくない、人類最後のマスターなんだろ?君」
「う…」
「君の命が死んでも代わりがきくものなら、まぁ?勝手にしてもいいと思うけど、代わり、ないんだろ?だったら後方にいなよ」
「でも、貴女は一緒に戦う仲間だ」
「私君の仲間になったつもりないんだけど。言ったよね、持ちつ持たれつって」
「分かってる。それでも、今は味方だし、仲間でしょ?」
「駄目だこりゃ、馬鹿には勝てん」
凪子は頭を抱えた。
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