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神域第三大戦 カオス・ジェネシス26

「一先ず、藤丸ちゃんたちと合流してからいこうか」
凪子はそう言うと、藤丸たちと別れた森の方へと歩き始めた。クー・フーリンは慌ててそれについて行く。
「おい、いいのか?別行動の意味がねぇだろ」
「どうせ隠したところでバレる。アイツに隠し事をしたいなら会わない選択肢をとるしかない。だったら、最初からつれてった方が手間が省ける」
「…、そのドルイドってのは、なんなんだ」
凪子は、クー・フーリンの問いかけに目を細めた。本人は気付いていないようだが、その横顔は妙に寂しげであり、なんとなくクー・フーリンはその関係性を察したのだった。
「………友達さ。死んでほしくないと願った程度には、大事だった友だ」



 「……ここだ」
その後、凪子はリンドウという名のドルイドについてそれ以上語ることはなく、藤丸たちと合流すると簡単に説明を済ませてそのドルイドの住み処へとやってきていた。
凪子にとってはもう2000年近く前の話だろうに、凪子はさして迷わずにそこへとたどり着いていた。岩場に生えた大きな木の根もとを利用したらしい、質素な家のようなものがそこにはあった。
「…良く覚えてたな」
「まぁ………ここくらいしか、行く先なかったからね」
凪子は懐かしさに目を細めた。そこは薄れた記憶の中にある場所、そのものだった。その時に戻ってきているのだから当然といえば当然なのだが、タイムスリップなど本来できるはずもないことなのだが、妙な感動を覚える。
「春風さんのご友人のドルイド…ということでしたね。お二人のお会いした戦士の方の話ではとても優秀だということでしたが…」
「さぁな、知らん。他のドルイドを知らないから比べようがない。…ただ、確かにこいつがいるなら、こいつに聞けば大体のことは分かるだろうとは思う」
「へぇ…」
「…………よし」
凪子は深く息を吸い込むと、木でできた扉を叩いた。
「どうぞ」
在宅だったらしい、中から僅かに高い、男性の声が聞こえてきた。凪子は返答を確認すると、迷いなく扉を開けた。
木の根の隙間から日を差し入れているらしいそこは、存外明るい空間であった。片面を木に、片面を岩場におおわれたその洞窟のような隙間に彼は居住地を構えていた。備え付けられた棚には様々な薬草や道具が並び、中央には大きな木の台があった。そしてそこには、6人分のカップが用意されていた。
「(…!来訪を察していたってのか?)」
「好きに座ってほしい。今飲み物の用意が終わるから」
家主は家の奥にいた。青灰色のふんわりと結い上げ、左右に三つ編みに編み込んだ髪の毛を中央でさらに三つ編みに編み込んでいる。白い装束には汚れひとつない。
彼は台所らしい場所で茶の用意をしているようで、入ってきた一行を振り返りもしなかった。
「あの…?」
「私に用があって来たのだろう?力になれるかは分からないが…」
「あっ」
彼の言葉が終わる前に、入ったところで立ち止まっていた凪子がずい、と足を踏み出した。そのままずかずかとドルイドに近寄り―――

―――そのまま、後ろから思いきりハグをした。
「ひゃっ!?」
ドルイドもそこまでは予想していなかったのか、裏返った声をあげる。驚いたように彼はようやく振り返り、自分の後ろにいる人物の姿を見止めて大きく目を見開いた。青と緑が混ざったような、深い海のような色をした目だった。
凪子は先程まで匂わせていた感傷はどこへ放り投げたのか、にっ、と楽しそうに笑った。
「やぁ!」
「あっ、え!?君…えっ、君?!君だったのかい!?」
ドルイド、リンドウは面白いほどに動揺した。凪子はいたずらが成功した子どものようにからからと笑い、ぱっ、と彼を離した。
「いや〜面白いもんが見れた、役得役得。なんだまたそのハーブティか、好きだねぇ」
「来るのが君ならわざわざ淹れなかったよ、相変わらず神出鬼没な…来るのが複数人だから、君じゃないと思ったんだ」
「ふふん、まぁ確かに。私あんま好きじゃないからね、それ。木苺入れてよ木苺」
「図々しいな、欲しかったら取ってきなさい」
「えっと、あの…」
「ああごめんなさい、どうぞ座って」
一気にリンドウと凪子がくだけた会話を始めたものだから、マシュ他四人はぽかんとしてしまう。思わずマシュが声をかければ、リンドウは慌てたようにそう言い、じと、と凪子を恨めしげに見たのだった。
「君のご友人かな?いや…この辺りの格好ではないから、遠くから来た人たちかな。よく見ると君も戦士の格好なんてして……最近しばらく来ていなかったし、何か面倒なことに巻き込まれたのかな」
「んー……」
ホーローのような器にいれた茶を移し、リンドウは机の上のカップにそれぞれ注ぎながら凪子にそう言った。凪子は言葉を濁し、すぐには答えなかった。
リンドウはそんな凪子に肩をすくめ、腰を落ち着けた。凪子はその隣に座り、その様子に他の四人も慌てて腰を下ろした。
「私はリンドウ。私を訪ねてきたのだから、説明はいらないかな」
「マシュ・キリエライトともうします。こちらはマスターの藤丸立香。ええと…」
「その二人は人間ではないね。一人はドルイドのような格好をしているが、ドルイドでもないだろう。マシュ殿も、人にしてはいささか妙ではある。中にもう一人いるように感じる」
「!」
リンドウの自己紹介に、マシュも挨拶を返した。サーヴァント二人については名を明かすべきか迷ったようだったが、その前にリンドウに見抜かれ、ぎょっとしたようにリンドウを見返した。ヘクトールとクー・フーリンも一瞬物騒な気配を纏ったが、くすり、とリンドウは笑うだけだった。
「何、人ならざるものが来るのはそう珍しいことじゃない。この子がいい例だ」
「ソダネ」
「名前を告げられないのならそれもまた構わないよ。私にとってそれはさして重要なことではないから。さて、こんな辺境にどんな御用かな」
リンドウはそう言って自分のカップを手に取り、口に運んだ。凪子もクンクンと匂いを嗅いだあと、ぐ、とそれをあおった。すぐに、げぇ、と顔をしかめたが。
「…マシュー?」
「えっ、あ、ええと…」
「来る前にも言ったけど、メタな話でも突飛な話でもこいつは平気だよ。というか、お前のことだ、なんでここに来たのか、本当は分かってるんじゃないの」
「例えそうだとしても、語ることに意味がある。さ、どうぞ」
リンドウはにこ、と笑って、マシュに話を促した。
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