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神域第三大戦 カオス・ジェネシス28

「………テメェ、俺がサーヴァントだといつ気がついた?」
「サーヴァント。そういう呼び方をするのか。耳慣れない言葉だな…すまない、聞いたことがない。生身の肉ではないようだから、死者蘇生の類いではないのだろうと思っていたけれど」
「…っ」
クー・フーリンは僅かに苛立たしげに目を細めたが、リンドウは鋭い目で射ぬかれても全く気にするそぶりを見せなかった。
「君と、そこのルインを持った戦士がどういう存在なのか、私にははかりかねるものだけど…ふふ、死者を使役するなんてよほど未来の人類は人手が足りていないらしい」
「………」
「話がそれたね。貴方の正体、だったかな。そんな簡単な問題でよかったのですか?アルスターの英雄、クランの猛犬殿」
「…!」
クー・フーリンは一瞬目を見開いたのち、ちっ、と小さく舌打ちをした。彼が苛立ったのは、何をもってリンドウが見抜いているのか、掴めないからだろうと凪子は推測した。
そしてリンドウも同じく察したようで、また困ったように笑った。
「私自身、なぜ分かるのか、についてはどうにも説明が難しい。なんとなく分かるのだ、としか言いようがなくてね。それにそちらのルインを持った戦士は、正直全くわからない。随分遠いところの人のようだね。…後ろに多くのものが見えるから、何かを守護していたのだろうということは分かる。そうだな…そこそこ位も高いようだ、それに、誰かとの一騎討ちで亡くなったのかな、その人物からの執着を感じる」
「………へぇ、こいつはたまげた。こりゃ、さっきの占いも侮れないかもしれないねぇ」
ヘクトールはぴくりと眉を動かしたのち、へら、と笑って言葉を受け流した。彼の逸話を思えば、守護の役割を担った、との解釈はあながち間違いではないだろうし、王子であったのだから位が高いというのも合致する。最期については、言わずもがなだ。
ふぅ、と、クー・フーリンはため息をつき、だがすぐにニヤリと笑った。
「まっ、アンタを信じると言ったからな。信じるとしよう、マスター、行くか?」
「うん、行ってみよう」
「わぁ即断。…なんだか、その子は妙になにか分かっているみたいだから、あとは彼女に話を聞くといい。どうやら私には話したくないようだからね」
「………ふん」
凪子は一瞬キョトンとしたあと、むす、とした表情を浮かべた。やはり隠し事はできぬということらしい。
「…あ、そうだ、霊脈」
ふ、と藤丸が思い出したように呟いた。各々立ち上がって出立しようとしていた面々はあぁ、と手を叩く。そういえば召喚サークル設置のための霊脈を探してもいるのだった。
「霊脈?…あぁ、そういえば召喚サークルがどうの、と言っていたね。森を荒らさないと約束できるのなら、この森に作るといい。他の森は他のドルイドが管理している可能性もがあるが、ここは私の森だからね」
「え…い、いいんですか?」
「構わないよ。君もこの森のことは覚えているだろう?案内してあげるといい」
「へいへい」
「なぁ」
見送りのためだろうか、立ち上がっていたリンドウが背を向けた凪子のマントの裾をつかんだ。凪子は一瞬肩を跳ねさせたあと、ゆっくり振り返る。
「…今、ここにいる君は、ここ20日ほど私の前に姿を見せていない」
「…………」
「きっと君が、あれだけの話で目安がついているのも、君が私の前に姿を見せないのと関係しているんだろう?何をしようとしている?」
「…お前なら見えてるんじゃないのか?」
「ずるいことを言わないでくれ」
「………」
凪子はじ、と自分を見つめてくるリンドウの目を見返し、ふっ、と小さく笑った。その笑みは、どこか自嘲的であった。
「…そうだね。ただ、悪足掻きをしにいっている」
「………悪足掻き………まさか、君は、」
「怒ってくれるな、私も若かったんだ」
「………、……………。そうか」
リンドウは悲しげに顔を歪めたが、まるでどうしようもないと分かっているかのように、諦め気味にそう言って手を離した。凪子も薄く笑んでリンドウの肩を叩くと、そのまま住居を出ていった。
「…なんなんだ?」
「あぁ、すまないねこちらの事情で…。……あの子をよろしく頼むよ」
「……、お邪魔しました」
藤丸たちはなんだか意味深な二人の会話に首をかしげつつも、一先ずリンドウの住居を出ることにしたのだった。



 凪子は出て少し離れた岩場の上でしゃがみこんでいた。
「おい、春風。知ってることがあるならちゃんと話しやがれ」
「はいはい分かってるよ。一先ず召喚サークルを確立しにいこう、この先に泉があるけどその近くに地脈も走ってたはずだから」
凪子はぼやきながらも立ち上がり、四人のところへひょいと飛び降りてきた。こっちだよ、と凪子が指し示す方に、四人はついていく。
「なぁ、あのドルイドの能力、アレはちっと異常だろ。どういう仕組みなんだ?」
なんだかんだ気になっていたらしいクー・フーリンが凪子にそう尋ねる。凪子は、うーん、と小さくぼやく。
「まぁ多分、千里眼の類いなんだろうと思うぞ。過去、現在、未来、すべてを、あいつは見通せる。過去はあんまり得意ではないみたいだけどね」
「過去、現在、未来全てをですか…?!それだけの実力を持つドルイドなら、もっと名を残していても不思議ではないはずです、ですが聞いたことがありません」
「そりゃそうだろうなぁ。あれだけの力を持っていて、代償がないと思うか?」
「………それって、」
凪子の言葉に、はっ、と藤丸は息を呑む。凪子は振り返らない。

「あいつの寿命な。あと二週間もないんだ」

凪子は振り返らないまま、ぽつり、とそう言った。
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