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神域第三大戦 カオス・ジェネシス39

キイィ、と軋んだ音をさせながら檻の扉が勝手に開いた。のっそり、と億劫そうにそこから上体を出したタラニスは、クー・フーリンをじろと見止めて、ニヤリと笑った。
「面白い芸をするじゃあないか、ドルイド。魔術でウィッカーマンを編み上げる芸当は初めて見た。だが、無礼だぞ。貢ぎ物もなしにウィッカーマンを起こすなど、あまりこいつが不憫であろうが」
「…っ!」
ひたり、とタラニスが触れた部分から、ぞわぞわと木の色が深い色に変わっていく。鉄のような見た目の部分も木に変わっていく。
タラニスはふわりと浮き上がり、ウィッカーマンの肩口に飛び乗ると、すさり、とウィッカーマンの頭を撫でた。まるで親が子供を撫でるかのように。
「それに随分と半端な祈りであることだ。初めから奉るつもりもないくせに祈りなんぞの形をとるから哀れな形に出来上がる。下品で、矮小だ。敬意がないな貴様には。ここまで不遜なドルイドは、いやはや見たことがない。死んで脳が腐ったか?」
「何…」
「ウィッカーマンを“使役”しようなどという思い上がりが間違っている。そうら、オレが手本を見せてやろう」
タラニスの言葉に合わせて、ゴウッ、と火焔が巻き起こる。ウィッカーマンに着火したのだ。
――凪子はそれに、見覚えがあった。凪子はヘクトールの首根っこを掴み、すぐさま藤丸達の方へと走り出す。
「防御体勢ー!」
「えっ?!あ、ハイ!皆さん、私の盾の後ろに!」
「―タラニスの名の元に許可しよう。顕現し再現せよ、そして求めよ、其が本懐を果たすといい。ここに在るは罪人なれば―」
にぃ、とタラニスの口が歪んだ弧を描く。
「―――喰らい尽すがいい、“罪人の血監獄(ウィッカーマン)”」
―タラニスの詠唱が終わると同時に、ウィッカーマンが雄叫びをあげた。正確には、あげたような気がした。木の巨人に声帯はない。編まれた檻の隙間に風が通って音をあげたのだろうか。
燃え盛ったウィッカーマンはタラニスの手から離れ、その腕を藤丸達めがけて振り下ろした。
「それは全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、“いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)”!!」
「!」
マシュは怯むことなく降ってくる腕を見据え、そう高らかと叫び、宝具を発動させた。マシュの盾を基点として、城壁のようなものが姿を現す。
その城壁は容易くウィッカーマンの腕を防ぎきった。炎の熱が上から降っては来るが、大した被害ではない。この隙にウィッカーマンを破壊してしまえば、タラニスの攻撃は防げるはずだ。
「ヘクトール!」
「はいよ!」
「!」
藤丸の言葉にヘクトールが呼応する。ヘクトールは少し後方に下がり、右上段に槍を構えた。
「標的確認、方位角固定。―――“不毀の極槍(ドゥリンダナ)”、吹き飛びなァ!!」
「うわおっ」
カシャンッ、と軽やかな音を立てて直後ヘクトールの右腕の装備から炎が吹き出す。それは射出を手助けする装備なのだろうか、ヘクトールはウィッカーマン目掛け、右手にもったその槍を、炎の勢いを借りながら思い切り投擲した。
凄まじい勢いで空を切り、槍はウィッカーマンの頭部めがけて飛んでいった。凪子の視界で着弾が確認できた直後、槍は巨大な爆発を巻き起こした。
「ワァー」
爆風で強風が吹き荒ぶ。ウィッカーマンがよろめき、後ろ向きに倒れそうになっているのが目に見えた。
凪子はそれを確認すると、すぐにタラニスを探した。今までの動きから見て、黙って見ているだけのはずがない。
「!」
タラニスは果たして、マシュの作り出した城壁の上にいた。ウィッカーマンの攻撃を拒絶的てもタラニスの存在を拒絶できないのか、タラニスは易々と城壁を飛び越えて内側へと降りてきていた。
――その視線は、ある一人に向けられている。
「キャスター!!」
「!!」
タラニスが着地する前に、凪子は警告の声を張り上げた。クー・フーリンがその言葉にはっ、とタラニスに気が付いたのと、着地したタラニスが彼めがけて地面を蹴ったのは同時だった。
「!」
バァン、とはぜるような音をさせて跳躍したタラニスが、一気に間合いを詰める。突きだされた槍をクー・フーリンは辛うじて手にしていた杖で受けたが、衝撃を受け止めきれずに後方へと吹き飛んだ。
「あぁっ!」
その時になってマシュと藤丸はタラニスの侵入に気がついたようだ。ヘクトールの投げた槍はまだ戻ってきておらず、その顔に一瞬焦りが走る。
体当たりされたように飛ばされていたクー・フーリンは背中から地面に落ち、叩きつけられた衝撃で数回はねて転がっていった。タラニスは軽々とそれに追い付くと、その胸を踏みつけて槍を振りかざした。
―このままでは槍を突き立てられる。今すぐに動ける凪子の足であっても、間に合うか間に合わないかは瀬戸際だ。
「―――セタンタ!!!」
故に凪子は、クー・フーリンの幼名を、敢えて叫んだ。
「何っ?」
そしてタラニスは、凪子が予想した通りに動きを止めたのだった。
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