『
Please give to me.』シリーズ
クリスマスの話です。
脇役にずっといると、ずっとずっとそこに居続けますね。
踏み出すことにも躊躇するようになる。でも、そんなに誰かに手を引いてもらえれば。
「クリスマスパーティ?」
「そ。まぁ、彼氏または彼女ナシのさみしー人間同士の慰め合いなんだけど。」
「…その言い方だと行きたくなくなるわね。」
「そういわずに、ね?」
12月24日というと、世の中で言うクリスマスイブだ。
私には彼氏が居たためしがないし、家族は全員無宗教派なので、教会にも行かない。騒いだりもしない。
別に重要なイベントという記憶は無いのだけれど、世の中ではどうも違うらしい。
「プレゼント交換もする予定。予算は千円ぐらいを目安に。」
「ふーん。場所は?」
「近くの小さい飲み屋さんあるでしょ? あそこ借りるの。」
「…未成年じゃなかったっけ。私たち。」
「大丈夫。先生同伴だから。」
やれカラオケ行こう、買い物行こう、家に集まって泊まろう。などなど。
別にクリスマスだからってそこまで盛り上がらなくてもと、よく思う。
「で、行く? 行かない?」
白い包み
「メリークリスマス!」
クラッカーを鳴らしてから、皆で乾杯。
集合時間通りに行けばもうすでにほとんど来てて。
異様な盛り上がりのままパーティーがスタートした。
はじめの方は皆でワイワイやっていたんだけれども、段々と分かれていく。
中央で異様に騒ぐ人。
少人数でおしゃべりする人。
ご飯を食べるのに専念する人。
私は中央に行くようなタイプではないし、話す相手も残念ながらこの場にはいなかった。
どの場所でも馴染めず、仕方なく隅の方で出されてる料理を食べた。
つついてるのがケーキでもなく、ローストチキンでもなく、おでんってところが、何か虚しい。
クリスマスだからって、何かあるわけでもない、か。
微かにだけど、期待して損したかもしれない。
ふぅ、と、疲れたようにため息をついた。
箸を手放して、壁にもたれかかる。
……来なきゃよかった、かも。
かさりと、プレゼントの袋が鳴いた。
「よっ、何で隅っこにいんの?」
「…ねぇ、さっきまであの中心で絡まれてなかったっけ?」
「逃げてきた。」
ほうじ茶をお変わりしたところで、何時もの彼が声をかけてきた。
さっきまで、中心で、オレンジジュースの早飲みをしてた、彼。
たくさんの男子や女子に囲まれてた、主役。
「お前もあっち行けばいいのに。」
「疲れそうで嫌。」
「そうか? けっこー楽しいぞ?」
しばらく、期末の話だとか、先生の噂話だとかを話していたら、ふいに視線を感じた。
紛れもなく隣の彼からの視線。
「…何?」
「いや、珍しーなーって思ってさ。あんまりこういう所、来るようなタイプじゃねーだろ?」
「――――別に、そうでもないわよ? 折角だから気分転換もかねて、ね。」
嘘。
確かに、こういう大勢でどんちゃんやるような場所には来ない。
今回も断ろうと思ってた。全員が行くわけでもないし。
でも。
「ふーん。そっか。」
一言、彼はそう呟いてから、食べ終わった焼き鳥の串を置いた。
つられて私も箸を置く。
その直後、手をつかまれた。
「なら、やった事ねーのにもチャレンジしろよ」
「え?!」
ぐいっと引っ張られて、騒ぎの中心へ。
ちょ、ちょっと!! ストップストップ!!
私、こういう場所だと、何していいかわかんないってッ!!
「あー、やっと帰ってきた!」
「お。新顔。何? チャレンジャー?」
「そうそう!」
勝手知ったるなんとやら、で、どんどん話を進めて行く彼。
周りもそれと同調する。
「待って! 私、早飲みなんてやった事無いって!」
「大丈夫だって! 勝負って言うよりもノリだから!」
「そんな人事みたいに!」
ぐいっと、ジョッキのオレンジジュースを渡される。
周りの女子も男子もいっせいにジョッキを持つし。
視線を彼に向けて、必死で訴える。
それに気づいてか、彼がふわりと笑った。
「だいじょーぶだって。な?」
肩に手をトンと置いて。
安心させるように笑って。
「何事も経験!」
にっこり笑って、彼も同じオレンジジュースの並々入ったジョッキを持った。
経験、ね。
――――そうね。隅っこに居たって、しょうがないものね。
「いっくよー!! レディー…GO!!」
ジョッキに口をつける。
苦しいのを我慢して飲み干していく。
流れ込んでくる甘酸っぱい感覚。
一緒になる熱、鼓動。
騒ぐ人たち。
キラキラまぶしい場所。
ああそうか。
これなんだ。
「――――っぷは!」
「おー、早い早い! おめでとー五位です!」
無事、飲み終えて、結果は五位。
彼は三位。
「な? やれば出来んじゃん?」
「―――ちょっと気合が要るから遠慮したいわ。」
甘酸っぱい気持ち。
騒ぎの中心。揺れる感覚。
キラキラ光る場所。
――――――これが、貴方の場所。
騒ぎもようやく一段落したところで、何人かがマイクを持って騒ぎの中心から出てきた。
皆からプレゼントを回収していく。
私も持ってきた白い包みを渡した。
「じゃぁ、最後のお待ちかね! プレゼント交換に移りまーす!」
説明する声もどこか遠く、ぼぅっと成り行きに身を任せてた。
人に酔ったみたいに、体が熱い。
久しぶりの感覚に、戸惑いながらも、何故か楽しい。
―――やっぱり、来て良かったかもしれない。
ゲンキンだなぁ、私。
苦笑して、くじ引きの行方を確かめる。
持ち寄ったプレゼントに番号札つけて、番号のくじを引くという、オーソドックスなもの。
司会は私の友達も含めて三人。
一人がくじ持ちで、一人がマイクもって当てて行って、もう一人が進行。
くじを持ってる友達がにやりとこちらに向けて笑った。
「…?」
とりあえず、手を振り返しておいた。
…なんなんだろう。今の笑顔。
なんとなく、怪しい感じがする笑顔につい首を傾げて考える。
そうこうしてるうちに、残りが数人になって、彼が出てきた。
意外。もうちょっと早めに済ますかと思った。
なにやら真剣な面持ちで出てきて、箱に手を伸ばす
「―――18番! 18番のプレゼントお持ちかえりー!」
手渡されるのは、白い包み。
…私の?
―――嘘。ナニコレ。何の因果?!
「じゃぁ、次は一番隅っこで逃れようとしてる貴方!」
「別に逃げようとしてるわけじゃないんですけど。」
「言葉のあやです。さぁこっちこっち!」
軽く混乱してたけど、当てられたなら仕方が無い。
人を掻き分けて、前に出た。
くじ箱の友達がにやりと、また笑う
「何? さっきも笑ってたけど…何か付いてる?」
「いーえ? 別に。」
ほいっと、差し出された箱にまっすぐ手を差し込んで、一番最初に触れたものを掴む。
6番だった。
「―――成功。」
「何が。」
「6番はね…」
「ハイ、こちらが6番になりまーす!」
言葉をさえぎり、隣の人にスーパーのビニール袋を渡される。
中身はきちんと包装されてたけれど、なんとなく、デジャヴ。
そのまま話の途中で元の場所へ戻された。
…なんだろう。一体。
「よ。おかえり。」
「………もう開けていいの? プレゼント。」
「いやー、待ちきれなくって。」
元の席で彼が白い包みを開いてた。
ソレはやっぱり、私が持ってきたプレゼントだった。
白いマグカップセットと、手作りクッキー。
ひょいと、彼がクッキーをつまみあげる。
「良い匂いしてたからさ。これ、お前のだろ。」
「―――そんな事で?」
「こんなに美味いもの間違えるわけねーだろ?」
それから、私のビニール袋を見る。
「それ俺の。」
「え?!」
「お前の友達、話わかる奴でよかった!」
って言う事は。何。
あの笑顔の意味はこれ?!
仕組んだわけ?!
「またビニールで悪ぃけど、中身はちゃんとしただろ?」
ああ。
このデジャヴ。――――ホワイトデーの。
「この間のリベンジも兼ねて…トリック オア トリート!」
「…まだ根に持ってたの?!」
「だってよ。俺アレ、スゲェ悩んだんだぜ?」
眉を寄せて不機嫌になる。
いや、確かにアレはちょっとやりすぎたかなぁって思ったけど!
「リベンジ完了ってな!」
嘘。
嘘みたい。
まさか。
考えてた事が、本当になるなんて。
顔が緩む。
頬が火照る。
ねぇ。
実は、貴方においしいって言ってもらうの、結構うれしいのよ?
それに。
誘われたとき、名簿を見て、貴方が居たから。
「あー、今日来てよかった!」
私も。
―――行こうと思って、よかった。