『
Please give to me.』シリーズ
人って、案外単純なんだって話。
些細なことで、浮き沈みしますね。気持ちって。脇役でも主役でも、それは一緒。
百歩譲って。バレンタインデーは認めよう。
アレはちゃんと「バレンタイン司教」って言う人の追悼から始まった行事だったはず。
しかし。ホワイトデーは無いと思う。
アレは日本のお菓子会社の陰謀だ。
スーパーの一角の、白い棚。
買い物の途中で発見したその場所は、でかでかと「ホワイトデーの贈り物に」というビラが付いていた。
マシュマロに、ホワイトチョコレート。
確かにバレンタインに渡すチョコレートは黒っぽい茶色が多い。
だからって白。ホワイトデートか。名前は安直な様な気がする。
ま、私には関係ない。
所詮、女子にとっての祭りはバレンタインだけ。
きっちり頼まれた人数分を作り終えた人間にはさして関係ない。
そういえば。
自己主張激しいビラを通り過ぎて買い物かごをレジに置いてからふと思い出した。
友達以外に、あげたっけ。
マシュマロと、クッキー。
何かの恩返し
ようやく暖かくなってきた学校の行き道で、考え事をするのはもはや癖だ。
今日の時間割の事。
昨日の先生の話。
友達の会話。
なんでもない事を考えて、ボーっとしているうちに学校につく。
それがいつも。
運動部でもないのに朝の早い時間に行くので、はっきり言って人通りゼロ。
運動部にしてはやや遅く、それ以外にしてはかなり早い時間。
たまに会社に行く人とすれ違ったりするぐらい。
プレイヤーで音楽を聴きながらいつもの道のりを行く。
流行の曲とかじゃなくて、何世代か前の曲。
良くそれで「もう少し世間を知りなさい!」と友達に言われるのだけど。
ごくごく普通の通学、だった。
「おっはー!」
後ろから、声をかけられた。
おっはーって、なんて古い。
しかも、声から判断するに男子。
まぁ、とりあえず関係ないだろうと、何の反応も示さなかったら、後ろから肩を叩かれた。
「おはよ。」
「…おはよ。」
見知った顔だった。
「おっはーって、あれ私に向けたの?」
「そうに決まってんじゃん。」
「朝の挨拶にしては古くない?」
「別に良いじゃん。」
いつかの、バレンタインの男の子。
クラスのムードメイカーで、明るい、いかにも運動部の男子。
脇役の自分を覚えててくれた子。
「――運動部の朝練、もう始まってるんじゃないの?」
「まー、そうだけど。足の怪我で出席しなくてもオッケー。」
「堂々サボリ?」
「そーゆーこと。」
にっ、と人懐っこい笑顔を向ける。
「早いなー、お前。いつもそう?」
「まぁ、大体は。」
そのまま歩き出す。
別に「一緒に行こう」とも言ってないのに、自然に。
「曲、何聞いてんの?」
「――ビートルズとか。クイーンとか」
「…誰?」
「洋楽の人。」
ちょっと変な説明かもしれないが。
どうやら知らない分野だったらしい。彼は情けないような面白いような奇妙な顔になった。
「―――まぁ、それは置いといて。」
やや焦りながら、彼がエナメル地の鞄の中を漁る。
ごっそごっそと、物音を立てながら。
「ほら。」
差し出されたのは、白い袋。
スーパーの、ビニール袋。
「何。」
「何って、今日は十四日だろ?」
「―――ああ、ホワイトデー。」
その中身はお返しか。
でも、いくらなんでもビニール袋って。
「別に気を使わなくて良かったのに。」
「いいじゃん。あれ、美味かったし。一週間かけて食った。」
「え。生ものなのに?」
「……あれ? 全部焼き菓子じゃないのか?!」
違うって。
「クッキーは焼き菓子。でもマシュマロは生。加熱処理一切無し。」
絶句する彼。そんなに意外だろうか。
「冬場でも一週間は辛いでしょ。一週間は。」
「まぁ、腹壊してないし…。」
「ひょっとして鉄壁?うわ、すごい。」
「褒めてもらってる気が、って、それはどうでもいい!」
ぐい、っと袋を押し付けられて、受け取る。
「一応中身は普通に使える奴選んできた。」
かさりと開けてみてみると、シャープペンと、芯と、あと何故かハンカチ。
「俺、チョコレートとかあんまり詳しくないし。」
ちょっと自分の表情が崩れるのが解った。
悩んで買ってきたのは明白で。
お菓子にしようか、それとも、と、悩んでいる姿までもが目に浮かびそうで。
何か、たのしくて。
「――私はこっちの方が嬉しい。ありがと。大切に使うわ。」
「おう。使っとけ」
妙に照れくさそうな顔が、嬉しかった。