学校の演劇部の後輩宛てに作った台本を手直ししたもの。
実際には使われませんでしたが。
行間ごとに結構細かい動きの指示が書いてあってやりづらいかなと思ったんですけど、
キャラクターの設定自体が後輩をモデルにしてたので特に意識しなくても指示通りになるというオチ。
「まるで自分のことみたいです!」とか言われましたけど。ああそうだよとは言いませんでしたなんとなく。
大いなる馬鹿騒ぎ
「深刻な問題がある。」
「何ですか。」
「部員が居ないんだ。」
「居るじゃないですか。隣に。」
「二人しか居ないだろう。」
「部員がいないというのはですね。部長も含めて全ての人間が部に所属してない事を言います。」
「まぁ実際少ないっすからねー。部員。」
「確かに演劇をやるような人数ではありませんね。」
「いやまぁ、人数は良いんだが。(あんまり良くないけど無視)」
「じゃぁ何が深刻な問題なんすか?」
「(実に悲しいことに)女性役をする部員がいないんだ。」
「…(じぃー)。」
「…(じぃぃ)。」
「おい。なぜこっちを見る。(びくびく)」
「(やだなー)何言ってるんですか部長。」
「そうっす。部長この間の文化祭の女装――(バシッ)」
「シャラップ!」
「ふがふが(痛いっす部長)」
「(半年前だぞ)大体何であのことを覚えてるんだ貴様ら!」
「何でって、全校生徒の目の前でやったのは部長でしょう。」
「実名は出しとらんだろ!」
「見てたら知り合いは気付きますよ。」
「(遠目からは)キレイだったっす! 部長ならできるっす!」
「お前ら。実情を知らんな? 近くで見たらすね毛が見えんだよ!」
「「うっわー。」」
「すね毛。」
「すね毛。」
「何その俺がすね毛でキモイって顔。」
「いっそこのこと女性役がない劇をすればいいじゃないですか。」
「台本がない。」
「あ、一つ上の先輩って女ばっかだったっすね。」
「だから台本も女性役が多いものしか残ってないんだ。(ロミジュリは流石に嫌だ)」
「新しい台本降ろせばいいじゃないですか。」
「誰が作るんだ誰が。」
「俺! 俺が作っす!」
「…(えー)」
「…(お前つくんの?)」
「あれ。何すかその絶望に満ちた目。」
「お前の台本熱血ばっかで正直キツイ。」
「同感です。この間、書かせたら『走れメロス』書いてきましたし。」
「メロスの何処が悪いんすか!」
「え。どこがって…全部?」
「全てですね。」
「酷っ! 鬼っ! 悪魔っ! お前のかーちゃん――(ぐはぁっ)」
「良いから黙れお前。」
「あい(ひりひり)」
「…(コホン)…ここにお前が書いた台本がある。」
「あ。懐かしー。(ぺらぺら)」
「…。」
「…。」
「え。ナニソレ。俺だけ締め出し!?」
「駄目だ。くさい。」
「無理ですね。」
「人の話聞いて!?」
「だって。お前コレはいくらなんでも。」
「そうですよ。人間が演じる範囲で書いてください。」
「ちょ、なんで二人で見せ合いっこ!? そこまで言わなくてもいいじゃないっすか!」
「さぁてと台本の件だが。(ガン無視)」
「部長が書いた台本はこの間使いましたしね。(同じく)」
「無視!? 無視っすか?!」
「僕の台本使いますか? ミュージカル形式でしたけど。」
「そうだな。」
「…もういいっす。」
「お前の台本はこっちか。」
「ええ。そうです。」
「…。」
「…。」
「何か問題がありますか?」
「女役入ってるぞ。」
「…そうでしたっけ?」
「めっちゃ入ってるっす。『娘その一』。」
「あー。(そんなこともあったようななかったような)」
「どうする?」
「―――(めんどくさいが仕方ないですし)とりあえずですね。何でもいいから部員を探しましょう。」
「結局そこに落ち着くのか。」
「ええ。食事で誘うなり、待遇で誘うなり、助っ人扱いで誘うなり。何とか勧誘しましょう。」
「了解っす! 友達に聞いてみるっす!」
「まぁ、こちらも聞くだけ聞いてくる(おそらく無理だが)」
「こちらでも探してみます(無理に決まってますけど)」
「それでもってとりあえず時間は流れたわけだが。」
「嫌に説明的ですね。」
「仕方ないだろう作者がナレーション入れないんだから。」
「それもそうですね。いかがでしたか? 代役探し。」
「それを俺に聞くのか?」
「ああ。そうですね。出てくるはずありませんよね。」
「だよなぁ…。お前は?」
「捕まえられるはずがないでしょう?」
「俺が悪かった。」
「(ガラリ)こんにちはーっす。」
「おお。来たか(無駄に明るい)」
「どうでしたか。女性役探しは。」
「 全 滅 っ す 。 」
「…(駄目だ爽やかに言い切った)」
「…(せめてもう少し落ち込むぐらいすれば良いのに)」
「(仕方がないコレも試練だ)どうする。」
「いっそこのこと今度の大会は欠席とか出来ませんか。(むしろそっちの方がありがたい)」
「えー。そんなのつまんないっす。」
「いやまぁ欠席したいのは山々なんだが。」
「山々なんだが?」
「そうなると去年よりも活動してないから部費が削られる。」
「…。それが何か。あんまり部費って使ってないじゃないですか。」
「お前ら…。この衣装を一体何処から持ってきてると思ってるんだ?!」
「「部長の手作り。」」
「(俺は後輩をこんな子に育てた覚えはない…っ)おにーさんは疲れたよ…。」
「微妙なボケは受け付けておりません。」
「でも実際この間の衣装とセットは皆で手作りしたじゃないすか。」
「あとは皆で持ち寄りですね。」
「…衣装は一着で一万円とかあるんだぞ。」
「え。」
「大会だってタダじゃないんだぞ。エントリーするだけで金がかかるのもあるんだからな。」
「そうでしたっけ?」
「メイクだって消費するだろ。ヒゲ隠し使うだろ。絵の具も画用紙もただじゃないんだぞ。
小道具だって一体いくらすると思ってるんだ…っ。(心の叫び)」
「…(うっわー)」
「…(あっちゃー)」
「カワイソウなものを見るような目で見るんじゃない。」
「すみませんでした。部長。」
「お金の大切さがわかったっす。」
「そうだろう! とりあえず大会は出るんだ! エントリーもしてるし!」
「了解っす!」
「なら女性役はどうしましょうか。」
「そこだよなぁ…(振り出しに戻る)。」
「そこっすねぇ…。」
「え…。女装?」
「「「うわぁ。」」」
「…。」「…。」「…。」
「…お前してみるか。女装。」
「イヤです。断固拒否します(誰がするか)」
「…おま」「さすがに俺でも無理っす(精神的に)」
「…だよなぁ。」
「…顧問に相談しますか?」
「相談してどうにかなるのか?」
「なりませんね(即答)」
「…(なら言わなきゃ良いのに)」
「さすがにそろそろ練習始めんとまずいぞ。」
「そうですね。」
「ミュージカル形式だからなぁ…。
曲流してバックは暗幕でスライドか映写機使えば、セットは要らないだろうから別にいいんだが。」
「いきなり出来るようなものでもないですからね。」
「……コレって、実際のところ、歌うんですか?」
「…歌う?」
「(明らかに女性パートなのに)これを?」
「…(まぁ)」
「…(歌うだけなら)」
「…(とくに問題は…)」
「『差し出された少女の小さな手がとても大きく見えたー』」
「『遠い空見上げてーこの胸を焦がすー』」
「『浮かぶのは彼女のー愛らしい笑顔だけー』」
「…。」「…。」「…。」
「…(えーっと)歌わなきゃ判らんな。」
「(めんどくさいことに)そうですね。」
「…変声期過ぎた男にはきついぞ(ソプラノじゃん)」
「大丈夫じゃないっすか?」
「何処が?!」
「だって、アイツこの間カラオケで大塚愛のさくら――(げふぅ!)」
「ソレ以上言った瞬間に殴り飛ばしますよ。」
「もう殴った!(しかもアッパーっ)」
「そんな些細なことはどうでもいいんです。」
「些細?!」
「まぁ歌が上手くてちゃんと合うんだったら問題ないか。」
「(余計なことを)ちっ。」
「舌打ち!?」
「で、役だが。」
「…役はナレーションと、少女と、少年と、モブ一杯っす。」
「ナレーションが歌わなくて、後は皆歌いますね。」
「そうか。ならお前が(自動的に)少女役か。」
「イヤです。(あんたがしろ)」
「俺だって嫌だ。(発案者がやれ)」
「こういうのは部長がやるべきでしょう。示しとして。(後輩に押し付けんな)」
「そんなの燃えないごみに出してきた。(先輩を立てろよ)」
「夢の島まで行って拾ってきてください。(誰に向かって言ってるんですか)」
「やだ。(お前)」
「…(今なんか、言外の会話があったような)。」
「…(じぃ)。」
「…(じーっ)。」
「(なんかぞわぞわする)何で俺のほう見るんすか。イヤっすよ。」
「僕もいやです。(こっち見んな)」
「俺も嫌だ。(やなこった)」
「…(諦めの悪いやつめ)」
「…(ごそごそ)。」
「…(真似してごそごそ)」
「…おい。何故全員おもむろに衣装を持ち出す。」
「いや実際に着付けてみれば早いかと思いまして。(逃がすかチクショウ)」
「此処で抵抗しないと男が廃るっす。(巻き込まれてたまるか)」
「…(こんにゃろ)」
「…(絶対嫌)」
「…(死んでも嫌)」
「衣装を傷つけたら弁償してもらうぞ。(損害賠償付きで)」
「安心してください。すぐに済みます。(諦めたら一瞬で)」
「誰でも一度は通るかもしれない道っす。諦めて欲しいっす。(俺は通りたくないけど)」
「誰が諦めるか。(諦めたらそこで終わりだっつーの)」
「ソレはこっちの台詞です。(先輩のクセに情けない)」
「とにかく着せたもん勝ちっす!(やるんなら二人でやってください!)」
「恨むなよ!(一人で逃げんな)」
…(ただいま変身中。)
(貴様! 制服に手をかけるな!)
(掛けなきゃ着れませんよ。)
(ぎゃ! 俺の衣装取ったの誰っすか!?)
(ふははは取られる方が悪いのだ!)
(その腕をどけなさい。ぶっ飛ばしますよ。)
(此処で引いたら何されるかわかんないっす!)
…(変身終了。)
「…。」(学ランが脱げて上に女モンの上着装備。)
「…。」(スカートにリボン装着。)
「…。」(上下装着済みの上にメイクまで装備)
「「「あはははー。」」」
「…(何故だ。あの暗がりで何が…っ)」
「…(何時の間にリボンまで…っ)」
「…(勝った…っ)」
「って笑ってる場合じゃないし!」
「何でですか。」
「そうっすよ。笑ってる場合っす。」
「じゃなくて! 何で俺だけ完全装備!?」
「まぁ。運とか。」
「運!?」
「経験者のほうが何かといいと思うっす。」
「経験者とまで!? 俺か! 俺が女装すんの?!」
「では無難に決定されたところで、練習しましょうか。」
「了解っす!」
「ちょ、ま、待てやコラ!」
経験者経験者って俺はただ文化祭のファッションショーで一瞬着ただけであって別にそこに深い意味は何にもなかったわけなんですよわかってるそこのところっっって言うかあれも女子に脅されて半ば強制イベントだったわけでほら他にも居ただろミニスカート履かされてる奴とか正統派お嬢様のコスプレしてた奴とかさぁ。
「っは?!」
「あ。おはよーございます部長。」
「おきましたか。おはようございます」
「ええ?!」
「随分うなされてましたが。どんな夢見てたんですか。」
「は!?」
「『経験者ってなんだ!?』って叫んでたっす。何のことっすか?」
「…夢オチ!?」
「…(じぃぃぃ)」
「…(じー)」
「(視線が痛すぎる)心の平穏のために黙秘シマス。」
「そうですか。(つまんない)」
「ああ(必死)」
「わっかりました。なら次の大会の話したいっす!」
「あ、ああ、そうだったな。(あっれーなんかデジャヴ)」
「そういえば、もうそんな時期でしたね。(面倒なことに)」
「そうだ、たしか、使える台本探して――(ちょっと待て俺)」
「コレのことっすか?」
「ああそれだ。配役とセットを確認しようとおもって。ソレで確か、深刻な問題が―――。」
「…(深刻な)」
「…(問題、ねぇ)」
「…(駄目ださっきも同じ会話をした覚えが…っ)」
ぺらぺらぺら
「…(ああなるほど)女性役がありますね。」
「ふりだし?!」