かなり加筆修正加えました。
他人の目っていうのは、自分の目とは違うもの。
良い意味でも、悪い意味でも。
好きで、こんな性格になったんじゃない。
世界のかたち
自分はどちらかというと、男よりも女にもてるタイプで。
それに普通の女子よりもずっと背が高い。
声もソプラノなんて夢のまた夢、アルトよりも低い声。
おまけに、髪の毛も短いから。
「御姉様、おはよう。」
「ん、おはよ。」
こんな風に呼ばれたりする。
何時の間にか、某歌劇団のスターみたいな扱いになってた。
別に誰からなんと言われようと気にせず放置してたら悪化した。
「御姉様、次、移動教室だよ」
「解ってるって。」
さらりと次の授業を教えてくれた女の子の頭をなでた。
別に他意は無いんだけど。本当に感謝の意味だけで。
でもまぁ。
「御姉様に触ってもらった!」
「え?マジ? いいなぁー。」
私が去ったあとに、こんな会話が出来上がってたりも、する。
別に、そんなつもりでしたわけじゃないのに。
触ってもらったって、何ソレ。
親しい友達に言えば、それはアンタが悪い、だそうだ。
そういう外見でそういう言動で、そういうことをやればそうなる。だって。
じゃぁどうすりゃいいの。
ふぅ。周りに聞こえないぐらいのため息が出た。
以前なら良かった。去年までは、小さいころからずっと一緒の友達が居たから。
今のクラスはそうじゃない。馴染まないといけないんだけど、こういう扱いをされるたびに息が詰まる。
周りから何時の間にか性格を作られて。
我関せずで歩いてきたのが、さらにそれに輪をかけた。
自業自得だってのは良くわかってる。
そりゃ、髪の毛なんか気にしないよ。それなりに生えてれば良いし、邪魔にならなきゃもっといい。
服だって、ひらひらしたスカートよりも、動きやすいジーンズとか。
そんな基準で選んでいくから靴は自然と男物。
負けず嫌いだったから、喧嘩は強くなっていったし。
小さい頃は女子よりも男子と遊んでたから、自然と口調は男っぽいし。
でもさ。
私だって可愛いもの好きだし。
こう、さすがにピンク色とまではいかないけど。
黄色とか、水色とか、パステルカラーの配色は好き。
綺麗な便箋、メモ用紙。
小物や、クッション。食器とか、お弁当箱とか。
かっこいい人を見れば、いいなぁとも思うし。
憧れの先輩の話がわからないこともない。
でも、そんなものはいつだって一番遠くにある。
気高くて、オンナノコに優しい。
勉強もスポーツも万能。
慌てるなんて、みっともないまねは、絶対にしない。
そんなわけあるか。
気高くなんかないし、女子に優しいわけでもない。友達に優しいだけ。
スポーツなんて、大の苦手。ドッチボールなんてありえない。
英語や古典、数学とか、問題を当てられると毎回がびっくりして慌ててる。
なんなんだ。この外面。
「オネーサマ!」
「ん、なんだ?」
「ほらほら、見て! カワイーでしょ?」
「ん。可愛い。」
「いる?」
ほら、と差し出されたキーホルダー。
ハートマークが乱舞してるけど、キャラクターもののソレは確かにカワイイ。
うん。ちょっと欲しい。
そう思って返事を返そうとしたんだけど。
「えー。」
「そんなカワイーの、似合わないって。」
「御姉様は十字架とかだよねー。」
冗談か何か知らないけど、よく一緒に居る子がそういう。
「私も、結構こういうタイプは、好きだよ?」
「まぁまぁ、そう気を使わずに。」
…本心だって。
何でだろ。
言ってるんだけどな。
どうして。信じてくれないんだろう。
「別にソイツだって、似合うだろ。そーいうの。」
だれ?
「あー、ちょっと、何勝手に話に割り込んでんの!」
「べっつにー?」
クラスの男子だ。
坊主頭の、そんなに女子とは仲良くないタイプ。
斜め後ろに居る子だ。
「コイツだって、そういうヤツ、似合うんじゃねー?」
「馬鹿じゃないの? もうちょっと考えた方がいいって。」
似合う?
私にも、似合う?
――――――――――――本当に?
「うっせーな、御姉様、御姉様って。」
めんどくさそうに近くの女子に近づいて、胸に刺してあるピンを一本失敬する。彼。
ビーズが組み合わされているソレは、綺麗に輝いてて、本当に可愛かった。
「ちょっと、何すんの。」
「うっせーって」
そのまま、私のほうに近づいてきて。
手を、伸ばして。
光を、髪に。
「ほらな、やっぱり似合うじゃねーか。」
笑う笑顔は、小さいけど。
誇らしげに笑ってた。
「ちょっと! 何してんの!」
「へいへい。」
がちがちだった、私の世界。
コチコチの、私の足。
初めて、似合うって。
恥ずかしくって、嬉しくって。
部屋の中の、かえるのクッション。
鞄の中の、いちごのメモ用紙。
髪に、一本のピン。
初めて、産声をあげるような。
誇らしいような。
似合う? 似合ってる? 本当に?
私のがたがたの、世界観。塗りつぶしていった、強烈な色。
熱を持った頬の、指す意味って…何だっけ。