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神域第三大戦 カオス・ジェネシス103

「……それは、どういう?」
「お主が死者だからだ。死人の言葉にルーは耳を貸さん。だから何かを言いたいのであっても、早々に諦めい」
「………!それは…制約か何かなのか」
クー・フーリンは僅かに意外そうに、だが、彼ならそう言っても不思議ではない、とでも言いたげな、諦めをにじませたような表情を浮かべながらそう尋ね返した。ダグザはその豊かなアゴヒゲをすくように撫でながら、す、とその目を細めた。
「制約、か。そうさな……お主も知っての通り、儂の持つ棍棒は生と死を司る。生と死の境目というのは、儂らにとって些細なものだ。故にこそ、我らはその境目に簡単に麻痺していくのだ」
「…神でもそういうことがあるのか」
「なァにを期待しておるのかは知らんが、所詮我らも生命体よ。ドジもするし、欲情もしよるし、恐怖もすれば怠惰もする。それを気にしない者が多いと言えば多いのだがな、あやつはそこの境目をつけたがる。制約ではなく、単にあれの個性だな」
どかり、と腰を下ろしたダグザは、そんなものを持っていたのか、巻きタバコを取り出して火をつけた。一本どうだ、と勧められたので、一瞬躊躇しつつもクー・フーリンはそれを受けとって隣に座した。
「………凪子が、カミサマらしくなく色々背負う嫌いがある、とか言っていたが…」
「何。生死の境というものは、確かに我らにとって些細なものであるが、お主らには大したものであろう?全てが全て、基準を等しくすることは叶わぬ話であるが、そうした境が些細なものではないものも存在するからこそ、奴は区別をつけようとしよる」
「…それで、死人の言葉は聞かない、と?」
「死者とは、本来対話できるものではない。これに関しては、神もそちらへ赴かぬ限りは同じことだ。まぁ復活それ自体もない話ではないのだが…奴は好まぬな」
「自分が死んだときの代替としてタラニスを温存させておいたくせにか?」
ほわ、と、タバコにしては妙に色の濃い紫煙が空を舞う。ダグザはどこか棘を含ませてそう言ったクー・フーリンに、カラカラと笑い声をあげた。

クー・フーリンの指摘はもっともだ。死者とは生者の世界と断絶された場所に赴いたもの、原則的にその世界が交わることはなく、余程の力がなければ死者の世界に赴き、帰ってくることは叶わない。ルーは、その“余程の力”を持つだけの神だろう。だからこそ、その力に甘んずることはない、という意思表示の現れなのかもしれない。とはいえども、確かに彼はタラニスを己の代替品として考えていた、つまり一度復活する意思はあった、ということになる。それは確かな矛盾であるのだ。

そう言いたいのであろうことを汲み取ったのだろう、ダグザは愉快げに肩を揺らしている。
「まぁそう言うてやるな、それを言い出したのはタラニスゆえにな」
「…!?そうなのか?」
「アレでいてタラニスめは繊細なのよォ。何、あの二柱は三位一体。何か思うところもあるのであろうよ。儂が力に物言わせて勝手に参戦しているように、アレも同位体という立場に物言わせて、参戦しない代わりに代替品になることを了承させたのよ」
「……………そう、なのか。なんか…」
「お前まで意外という気か?お前がオレの何を知ってるんってんだ、エェ?」
「わぷっ、」
不意に、ボスン、とクー・フーリンにのし掛かるものがあった。彼が慌ててそれを振り返れば、それはおぶるようにもたれかかったタラニスであった。
タラニスの登場にはダグザも意外そうにタラニスを見た。
「なんじゃ、お主もう出てもよいのか?」
「あんだけずっと浸かってたらふやけちまいますよ。動いてねぇから鈍るし、休憩ですよ、休憩」
「はぁ……まぁ、確かにそうそう浸かることなどないからな、そのようなものか」
「しかし、セタンタの坊っちゃんは一体、何をそんなに語りたいことがあるってんだ?生前に後悔がある…なんて訳でもねぇだろ?あの死に様にしてみてもよ」
「…………何が言いたい」
ダグザの問いを簡単に流し、ぐる、ともたれかかった体勢のままタラニスはクー・フーリンの顔を覗き込んだ。にまにまと笑いながら己を見るタラニスに、クー・フーリンは僅かに眉間を寄せ、その楽しそうな顔を睨み返す。反抗的な態度を示したクー・フーリンに、タラニスの顔はますます楽しげに歪んだ。
「我が御霊はお前の話は聞かないと言っていたぜ。死とはそうした断絶したものであるし、そうあるべきだってな。サーヴァント、だっけか?そうやって人間が死んだ同胞を利用することをこの星が許していても、だそうだ」
「!…アンタらにもバレてたってことかい。光神ルーではないが、俺も焼きが回ったか?」
「というより、今回の状況が我が御霊にとっては恐ろしく譲歩した状況であるってことだ。それだけ一大事でもあり、また脅威でもある。でなけりゃ、お前らサーヴァントの首が繋がっているはずがねぇ」
「……………人間以上に死に対して潔癖なんだな。つまり、なにか?俺がこれ以上我を張って何かを言おうとでもいうのなら、ルーは俺を殺すと?」
「ま、殺すかもなァ。我慢して付き合ってるだけ偉いもんだ、オレが御霊くらい潔癖だったら後先考えずに殺しているね」
「はぁ………なんだよ、暇潰しついでに俺をからかいに来たのか?雷神タラニス」
ケラケラと笑いながら話すタラニスに、クー・フーリンはしばらく付き合ったがしまいには疲れたように呆れたようにそう言葉を返した。タラニスは、にぃ、と笑みを深め、暗にその言葉を否定する。
「いや?御霊は今寝てるからな、御霊の耳が届かないときにお前に話したいことがあったんだよ」
「?俺に…?」
「そ。で、お前が話を大人しく聞くならお前の話をオレが聞いてやってもいい。気が向いたら御霊に伝えてやってもいいぜ?その時にゃ、オレの言葉だからなぁ」
「!」
「タラニス…お主、ルーが自他に対し厳格だからというてそう付け入ることばかりするものではないぞ」
話を聞いてもいい、と提案をしたタラニスをクー・フーリンは驚いたように見上げ、ダグザは呆れたようにそう嗜めた。タラニスは顔をダグザに向け、にや、と笑って見せる。
「良いではないですか御賢老。これはオレにしかできない役回りでしょう?」
「まぁ、そうじゃがなぁ……」
ダグザはあっさりと説得負けしたのであった。
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