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神域第三大戦 カオス・ジェネシス90

マーリンはにこにこ、とわざとらしさすら感じる笑みを浮かべて見せる。
「なぁ長老、貴殿方は勝機のない闘いに無謀に挑むタイプじゃあないだろう?どんな方法で防ぐつもりだったんだい?」
「……呪いの代償として瞼を開く担ぎ手が減ったというのなら、担ぎ手がそれなりに重要な位置を占めてるってことになる。つまりそれがいなきゃ、常時開いてるものでも、開け続けていられるものでもねぇってことじゃねぇのか。なら、開けさせなけりゃいいだけだろ」
黙ったままマーリンを見据えるルーに、躊躇いがちにクー・フーリンは口を開いた。
マーリンとて思うところがあって試すような事を言ったのは容易に想像がつく。どれだけのレベルの答えであれば十分であるのかも、分かれば答えやすいというものだ。試すような事を言われたのだから、言い返すのもお互い様だとも言えはしよう。
ただ彼が、あまりそれを気分のいいものには受け取れなかったというだけの話だ。だからクー・フーリンは思わず考えを漏らしてしまったのだ。マーリンはつまらなそうに唇を尖らせたが、ぷっ、とタラニスが吹き出した声に思わず一堂はタラニスに視線を向けてしまった。気付けば、ダグザも隠しきれない笑みを浮かべていた。なにか可笑しな事を言ったのだろうか。
タラニスは肩を揺らして笑いを耐えながらも、面白そうにクー・フーリンを見た。
「…………お前ホント思考回路我が御霊と同じだな、いっそのこと感心するぜ…ふ、くくっ、」
「いやいや言うてやるなタラニス……んっふ、ダメじゃこれ言っとることが全く同じで笑いしか出ん!だっはっは!!」
「ふざけている場合か貴様ら、叩きのめすぞ」
しまいに二柱は声をあげて笑いだしてしまった。タラニスは不敬との意識もあるのか必死に耐えようとしているのが伺えるが、ダグザは耐えることを諦めたか遠慮なく笑っている。ルーはつとめて冷静に言葉をかけたが、その表情はむっつりとしていて遠くを見る目をしていた。そこにはどこか諦めすら見えてくる。
笑いの合間の言葉を聞く限り、クー・フーリンの提案がルーが取った方策そのものであったようだ。思わずサーヴァント陣も顔を見合わせる。
『…ええと、とても、シンプルな策ですね…』
「……それが一番手っ取り早く、確実な手段だというだけだ。開かれなければ奴の邪眼は意味を為さないが、一度開かれればそれは抉り出したとて効果は消えない。塞ぐことが一番の防衛だからな、あれは」
ルーはあくまで冷静にそう言葉を返した。淡々と冷静に語られてしまえば笑うに笑えないものであるし、ルーの言葉はその実的を射ているように感じられた。
なにせかの邪眼は貫かれ、ひっくり返った果てに後方の味方を殺したのだ。貫いた程度で効果は消えないことは明らかだ。
仕切り直すように、うぉっほん、とダグザが咳払いをした。
「ナァニ、ルーとてそう物理でどうにかするだけの神ではない。いやあまぁ、大体のことは物理でどうにかしてしまえるやつではあるのだがな?…きゃつの邪眼の効果を一時的に封じる手は、あるにはある」
「……だが、使わない?」
「これは私と奴の問題だ。可能な限り他のものを巻き込むつもりはない」
『…つまりそれは、某かの犠牲を必要とする方法、ということですか?』
ロマニがぼそりと口にした言葉にルーが彼に視線を向けた。ギロリ、とその目がいやに光る。
「貴様らに語る道理はない。貴様らを介してアレに勘づかれても困る」
「……確かに、こちらは通信機を介してバロールの介入を一度許してしまっていますからね。ではこれだけ。それは、確実なものなのですか?」
「……、私にとってはな。使い魔である貴様らが耐えられるかどうかなぞは知らん、貴様らの死の呪いへの耐久性次第だ」
ルーは淡々と、静かに答えた。あまりの落ち着きように、相手が神という本来ならば礼をとらねばならぬ相手であることをしばしば彼らは忘れそうになる。

対等に語ってきているわけではない。だが同じ地平で対話をしてくれている。決して同じ視点にはいないが、立場は同じ。確かに立場に差があるのに、垣根がない。
それがあまりに神らしからぬ態度であることは明白だ。それはダグザにも言えることで、ツートップがそうした態度をとるからかタラニスの態度すらも鳴りを潜めている。それが彼ら個々の神の性格故の特殊性なのか、あるいはそこまで追い詰められているのか、判断できるものはその場にはいなかった。

一人、人間のロマニだけは、その異常さに底根が冷えるような感覚がして仕様がないようで、握りしめた拳は僅かに震えていた。
それに気付いたのか気付いていないのか、ルーは、はぁ、と小さくため息をついた。
「それより、いい加減本題に戻ってもよいか翁」
「おお、よいよい、すまなんだなルーよ。最悪の策を使うにしろ、マーリンとやらの防衛術を使うにしろ、どちらにせよお主らに多少の耐性があるかどうか確かめねばならぬ。すぐに死なれてもこちらも寝覚めが悪いしの。実力を疑うだのそういう低次の話ではなく、耐えられるのかどうか、ただそれだけの耐久確認だ。それが必要なのは分かるな?使い魔の英雄共よ」
「…………承知している」
ルーの言葉に思い出したように、改めてクー・フーリンらに向き直ったダグザは、悠然して言葉をかけた。纏う空気が変わったことを察し、サーヴァント陣には僅かに緊張が走る。
了承の言葉を返したクー・フーリンにダグザは満足そうに微笑み――

――ずっと背後に寝転がっていた、身の丈を越える棍棒を軽々と肩に担いで立ち上がった。

「ではお主らの耐久試練と参ろうか!」
『……えっ、まさか、ダグザ神と闘えと!?』
「それが一番確実じゃろうて。即死の呪いへの耐性を知るにも儂が適任じゃ。序でに、どれだけ立ち回れるのか見せてもらおうではないか」
はっはっ、と高らかに笑いながら、返答を待たずにダグザは足を踏み出した。外でやろう、というジェスチャーに、驚いていた面々も慌てて外へと足を向けた。
一人、クー・フーリンだけ、ダグザは肩を叩いて引き留めた。驚いたように振り返ったクー・フーリンに、ぐ、と顔を近づけたダグザは楽しそうに笑う。
そこに一切の悪意も他意もない。純粋な楽しさだけが、そこには存在した。
「お主がどれだけの“英雄”たるのか、楽しみにしておるぞセタ坊」
「…っ、」
クー・フーリンの返答を待たず、ぽんぽんと再度肩を叩くと、彼はさっさと洞窟の外へと出ていってしまった。残ったタラニスとルーは見学する気はないようで、タラニスは眠るように目を閉じ、ルーも動く気配を見せなかった。
「………、………」
一瞬、ルーとクー・フーリンの視線がかち合う。クー・フーリンは少しばかり迷う様子を見せたのち、にっ、と挑発的な笑みを浮かべてみせると、すぐに身を翻し、ダグザのあとを追って出ていった。
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