スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

神域第三大戦 カオス・ジェネシス95

「……………………………」
「…マシュ?」
一方の藤丸たちは、ダ・ヴィンチの指示のもとトラップ作成に勤しむヘクトールを手伝いをしていた。
深遠のの要石が持つ防御呪がどこまで適用されるのかが未知数であるため、藤丸とマシュがトラップを作ることはできない。だが素材を取りに行く手伝いくらいはノーカンだろう、という憶測のもと、リンドウと共に素材を取りに森に繰り出していたのだ。
藤丸は指示されたものを集めながら、ふ、と浮かない表情のマシュに気が付き声をかけた。マシュは藤丸の言葉に驚いたように顔をあげ、あわあわと取り繕うに手を振ったが、隠し立てをしても無駄と思ったか、すぐに手を下ろした。
「どうした?マシュ」
「…いえ、その………」
「…凪子の提案に抵抗があるのかな」
「!」
心配そうに尋ねる藤丸の問いに言い淀んだマシュだったが、ぽつりと呟かれたリンドウの言葉にハッ、としたようにリンドウを見た。藤丸もあぁ、と合点が言ったように、僅かに困ったような表情を浮かべながら何度か頷いた。
「……………その、凪子さんが我々とは違う……人間ではないのだとは、分かっているつもりではいるのです。でも………」
「…行為としては殺害に値するから抵抗がある?なら、無理に来なくても良いのだよ。君達が最優先することは生き残ること、なんだろう?」
遠回しに、殺すような行為を見たくないのなら来なければいい、というリンドウに、藤丸は首を横に振る。
「……誰かにやってもらうからいいって、話じゃ、ないと思うんです」
「……それは過ぎた感傷だよ。君達のそれは、あの子の“外見が人間に似ているから思っているだけ”のことだ」
「…え?」
木に巻き付いた蔓を回収しながら、どこかトゲのある声色でリンドウの放った言葉に二人は思わずリンドウを見た。言い方がキツくなった自覚はあったのか、リンドウは気まずげに視線をさ迷わせたのち、じっ、と二人へと視線を向けた。
「今までの話から推測するに、君達の今までの敵は魔神柱なるものに召喚されたサーヴァント、であったのだろう?君達はそのサーヴァント達を、殺してきたんじゃないのかい」
「ッ!!」
「死者の再現体であり、おおよそ生命体とは言い難いサーヴァントは殺せて、心臓を抉り出した程度で死ねない者の心臓を抉ることには抵抗がある。それは何だか奇妙なことだとは思わないかい?」
「……それ…は……………」
リンドウの言葉に、責める色はない。ただ純粋に疑問なのだ、とその穏やかな顔は語っている。
リンドウは、ふい、と視線をそらすと蔦の回収を再開した。
「“見てくれが人間に似ている”というのは両者共通するところだろう。倒さねばならない敵であることも共通する。君達が直接手を下せるような相手でもない。生者か死者かの違いでその抵抗に違いがあるというのなら、サーヴァントはおおよそかつて人間であったのとは違い、あの子は完全に異なる生命体だよ。あの子は…私たち人間が案ずるようなことが通るような存在じゃない」
「…ッ、リンドウさんは、何も思わなかったのですか!?あんな…っ死ぬために…あらゆることを試したなどと言われて……っ!」
静かに言葉を重ねるリンドウに耐えきれないものがあったのか、堤防が決壊したようにマシュが叫んだ。その顔は悲痛に歪み、ただただ凪子が積極的に死ぬことを渇望したことか苦しいとでもいうように震えていた。
リンドウはマシュの叫びに、ゆっくりと顔をあげた。視線は虚空をとらえている。
「……君や私にとって、生きていることがどうしようもなく尊くて、価値があるように。あの子にとっては、一時期死がそうだったのというだけのことだよ」
「!」
「我々に、永久の命を持つものの絶望を、はかりしることはできない。………あの子は…私を死なせないために死神を殺しに行く、なんてことをした。あぁ私の死は、あの子にそこまでのことをさせてしまうほどなのかと、どこか嬉しくも思いながら私は震えたよ。神殺し、なんて…………」
「り、リンドウさん……」
リンドウの声が僅かに震えを帯びる。リンドウはその場にしゃがみこみ、掌で顔をおおった。
「同時に気付いた。あの子は永遠に失う痛みだけ背負っていく。誰もあの子より後に死んではくれない。出会う全てのものが、あの子を置いていくんだ。神を殺しても無駄だった、防げなかった、あの子はどうあがいても他者から死を奪うことができない、あの子は!永遠に…置いていかれる痛みから…孤独の絶望からは逃れられない…!そのあの子が、同じように死にたいと、絶望から逃れたいと願うことをどうして責められようか…!」
「………っ」
掌から漏れ聞こえる声はひどく悲痛を帯びていた。カタカタと僅かに震えながら、そっ、とリンドウは掌を顔から放す。
「…だから私はあの子を責められない。…その程度で死ぬことも気が狂うこともできないというのなら。あの子が構わないというのなら、私はもう止めないことにしたんだ。…我々は所詮有限の命なんだ。必要以上に…あの子に失う痛みを背負わせたくない」
「……………ご、ごめんなさい…」
「、マシュ、」
震えた声色で謝罪の言葉を漏らしたマシュに、はっ、と藤丸はマシュを振り返った。マシュの顔色はひどく青ざめていた。
リンドウはそんなマシュに、困ったように笑った。
「…君が悪いのではないよ。ただ、あの子が悪いのでもない。………どうしようもなく異なる…遠い存在なんだよ、私たちと、あの子は。ただ、どうか…彼女が死を尊んだことを、有限の命を失わせないために己を蔑ろにすることをよしとすることを…理解してくれとは言わないが、否定しないでやってほしい。まぁ、そんなことを言って、私にも彼女が己を蔑ろにすることを耐えることはできないのだから、己にできないことを君に頼むのは、最低だし、酷な話なのだろうけれど」
「リンドウさん……。マシュ…………」
項垂れる二人を前に、藤丸はおろおろとしながらも、だが確かにマシュをそっと抱き締めた。
<<prev next>>