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神域第三大戦 カオス・ジェネシス92

「………………ルーの奴め……」
「…長老?どうしたんだい?」
「ん?いや、何でもないわ」
洞窟の方を見て黙り込んでいたダグザは、マーリンの言葉に洞窟から視線を外した。振り返った先ではマーリン、クー・フーリン、そして子ギルが一堂に並んでいる。奥には安地におかれた簡易通信機からのロマニの姿もある。
ダグザはにやっ、と笑うと担いでいた棍棒を地面にたてた。そしてスッスッと空を指で切り、ルーンのような紋様を描く。
「お主らに儂の攻撃に対する即死阻止の呪をつけた。万が一お主らの方の耐性が低すぎても、一度は死なん」
「それはそれは。随分器用な術を使うんだね」
「こんな武器を用いておるのだ、安全策くらいは身に付けねばな」
『こんな武器…?』
棍棒を掲げながらいたずらっぽく笑ったダグザに、ロマニが僅かに表情をしかめた。知らないのだろう、と察したクー・フーリンは顎で棍棒を指し示す。
「…ダグザの棍棒は、両端に生と死を司る。死の方で殴れば即死し、生の方で殴れば蘇生すると聞く」
『…!』
「ま、そうは言うても運要素はあるがなぁ。所詮これは呪いの1つ、呪いに耐性のあるものは運が良ければ呪いがそれるし、この即死の呪い以上に不死の体質を持つものは殺せんこともある。生の呪いとて同じこと」
『…成る程、であればバロールの邪眼によって殺されたものを、それで生き返らせればいい、という訳にもいかないということか』
「かつての戦いの折に試しはしたが、五分五分と言ったところじゃった。儂のコレと奴のアレ、拮抗する程度の呪いなのだろうて」
ダグザはポンポン、と棍棒を叩きながらそう言った。確かに絶対的にダグザの方が勝るのであれば、死ぬ度蘇生させればいい、という力業が使えるはずなのだ。それを先の会話の時に提案しなかったということは、できないことであるというのは容易に想像できる。
だが、ダグザはさしてそれを気にしている様子はないようだった。
「ま、仮にできたとしても、流石に死なせながら戦わせるというのはなァ…。神ならばまだしも、人の子にそれをしてはその内生死の境を見失いかねん。それに、どうあがいてもこれは呪いじゃ、繰り返せばその内身を滅ぼすだろうよ」
『…蓄積された呪いに耐えられなくなり崩壊する、ということですか』
「恐らく。人間に試したことはないから確かなことは言えん。…が、神の呪いというものは、あの深遠なる内のものとて、2000年捉えられ続けておるもの。…人の身でそう耐えられるものでなかろうて」
「…っ」
静かに放たれた言葉がずんと芯に響く。それはダグザの言葉の重みなのか、凪子が抱えている重みに対してなのか。
ダグザはそんな面々の反応に、にっ、と快活な笑みを浮かべた。どうにもこの神は、神妙な、真面目な話をした後には必ずと言っていいほどおどけた笑みを浮かべて見せる。
「さぁて!話が脱線してしまったの、脱線ばかりしていてはあやつに怒られてしまうな、ではそろそろ始めようか。バロールと相対するつもりで来るがよい、バロールは儂よりも巨人ではあるが、まぁそこは想像で補ってくれ」
神妙になっていた空気を吹き飛ばすようにカラカラと笑い、ダグザはその巨大な棍棒を構えた。本番と同じように、というダグザに、クー・フーリンたちは顔を見合わせた。
「…ドクター・ロマニ。今回は貴方が僕らのマスターとなる。くれぐれも指示とサポート、お願いしますよ」
『……承知している。マーリン、即死耐性の付与と魔力補正は?』
「準備はできてるよ。あとは試して調整かな」
『そうか、よし。本番と同じように、ということは倒すのではなく足止めをしつつ、棍棒の攻撃で死ななければよい、ということだろう。恐らくどこかで意図的に受けなければならないが、それは構わないかい?』
洞窟に来てからどこか緊張した面持ちを維持していたロマニだったが、その指示はテキパキとしていた。特に戦術が得意ということはないだろうが、彼も藤丸同様、経験のなかで学んできたことがあるということだろう。
ロマニの言葉に三者はそれぞれ頷きで返す。
「念のため聞きますが、戦闘中に…ですよね?」
『あぁ。例え防げたとしても、どういう弊害が発生するのか、その確認も兼ねているはずだ』
「オレと坊主はどう動く?」
『……バロールは巨人だそうだね。凪子くんの話ではこの辺りの木々より僅かに大きい程度、と言っていた。過去のデータから計測すると、邪竜と同程度の高さだろう。ならば足をクー・フーリンが、上体を子ギル君が、でどうだろう』
子ギルとクー・フーリンは互いに見合い、頷きあった。
「……そうだな。後はダグザ神の動きを見て適宜指示をくれ」
『分かった』
「作戦会議は済んだかの。では、ゆるり始めるとしようか」
振り返り、向き直った面々にダグザは満足そうに頷くと―――

――その体躯からは想像もできない俊敏さで、一気に間合いを詰めてきた。

『マーリン!!』
「ッ!」
三人が振り払われた棍棒を反射的にそれぞれで避けたところで、ロマニが険しく叫び声をあげた。
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