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神域第三大戦 カオス・ジェネシス94

「防壁ですか、ならば!」
「!」
攻撃は阻まれた子ギルであったが、直ぐ様次の手を打ってきた。地面に新たに出した鎖を潜らせ、防壁を下から突破したのだ。
ダグザは即座に後方に下がることで鎖の手からは逃れた。直後、狙い撃つように放たれたクー・フーリンの炎からも移動することで逃れていく。
「…………む、これは…」
急遽激しくなった攻撃を器用に避けながら、ふ、とダグザが思い立ったように小さく呟いた。足を止めようとする仕草を見せたが、両者の攻撃がそう簡単には許さない。
「むっ!?」
そうしてある地点までダグザが下がったとき、メキメキと音をたてて、ずぼっ、とその足が沈み込んだ。
足が落ちる程度の小さな落とし穴だ。クー・フーリンが、生み出した木々で作り上げていたようだ。ロマニが逆だ、と言ったのは、“木を生やせて捕らえる”のではなく、“落とし穴に沈めて捕らえる”という意味であったらしい。
「スリサズ、イサ!」
落とし穴に落ちたのを確認した直後、クー・フーリンはさらにルーンを放った。遅延、トゲを意味するルーンと、停滞、氷を意味するルーンで、ダグザの足に噛み付いた木が凍結して固まった。
ダグザの動きを止めることに成功し、直後に子ギルの鎖がダグザの上体を縛り上げた。
「…お?おお!確かにこの鎖は…ほっほ、大したものだな」
足止めしつつ、生き残る。その当初の勝利条件はクリアした状態になるわけだが、ダグザの様子を見るに、まだ終わっていないようだ。
「――――ヌゥン!!」
「ッ!!?」
すぅ、と深く息を吸い込んだダグザが、捕らえられたのと逆の足を振り上げ、勢いよく叩き下ろした。その衝撃に地面に亀裂が走り、勢いよく地面が弾けとんだ。
―なんとダグザは、足踏みをしただけでナパームが着弾したかのような衝撃を地面に起こしたのだ。その攻撃によりダグザの足を捕らえていた落とし穴に意味をなさなくなり、足元の拘束からダグザは容易く逃れてしまった。
ダグザは上体を縛り上げられたまま、背中を通して両脇で棍棒を抱え、四人に向き直った。
「ふむ、中々よいではないか。しかし、先の誘導を奴にするにはちと火力が足らんな」
『…………ッ』
落とし穴へ誘導していたことには流石に気付かれていたようだ。表情を引き締めたロマニに、ダグザはカラカラと笑う。
「まぁそれはルーの輩がどうとでもするじゃろうて。しかし、器用にルーンを使いこなすものじゃのう、セタンタよ」
「……恐れ入ります」
『……しかし今の表情を拝見する限り、力不足でしょうか』
ロマニの言葉にダグザはきょとんとした顔を見せる。だがすぐにあぁ、と思い至ったように肩を竦めて見せた。
「いやまぁ、単体で当たるという意味ではあまりに弱いがな、深遠のの言っていたように、お主たちの強みは連携なのであろう?そうであれば、そうさな、及第点であろうよ」
『そうですか…』
「まぁ、タラニスめのいう、面白くはあるが落とし穴がある、というのも分からんでもないが、なっ!」
「っ!?」
ダグザは何気なく己を縛り上げる鎖を手に取ると、そう言い終えるなり、勢いよくそれを射出項から引っ張った。射出項の中、つまりギルガメッシュの蔵の中でそれは固定されていたわけでは無かったのか、ダグザの引きに勢いよく鎖が蔵から引きずり出され、縛り上げていた部分がそれにより大きくたわんだ。

確かにギルガメッシュの鎖は神性の高いものであればあるほど、捕らえて離さないのだろう。だがそれは恐らく、標的のする抵抗に対してのみ、であるのだ。鎖自身がが隙間を作ったのであれば――標的から離れしまえば、捕らえることは勿論不可能になる。

ダグザは拘束の締め付けから、鎖が引き寄せる力によって自身を拘束しているらしいことに気が付いたのだろう。引き寄せ続けているということは、固定しているということではない可能性が高い。
「ふむ、やはりそうであったか」
たわんだ隙に俊敏に跳躍して抜け出たダグザは、驚いたようにその光景を見ていた子ギルににやりと笑って見せる。そうして、とんとん、と己の頭を指で叩いた。
「もうちっと気を回さねばな、小僧よ。次から捕らえたならばきっちり固定しておくがよい」
「…っ、これは驚きました。あの体勢から天の鎖を引きずり出すことができるほどの力を出せるとは」
「まぁのう、儂、これでも万能神ぞ?そう易々とトゥアハ・デ・ダナーンの最高神を名乗りはせんわい」
はっはっは、とダグザは得意気に笑って見せる。朗らかで、穏やかな性質ではあるが、王も勤め、最高と謡われるだけのことはある、ということなのだろう。
「随分と楽しそうだなァ」
「!凪子」
がさりと音をたてて、ふと、凪子が姿を現した。一人で来たのか、他の面子の姿は見えない。
「おう、そっちは終わったのか?」
「おぉ、一応方針は決まったから、その報告とこっちの調子はどうだろうと暇な私が駆り出されたってぇ訳よ。まぁ、隣のドクターロマンが見えてるはずのダ・ヴィンチの様子見てりゃ、そう酷い状態じゃないだろうなとは分かってたが。どうだいダグザ、邪魔にはならないだろう?」
「ふむ、サーヴァントというのは初めてみるが、まぁ確かに中々やるものよな。及第点というところよ」
自身が来た理由を簡潔に説明しながら凪子はそう問うた。ダグザの返答に、満足げに何度か頷く。
「そちらさんは即死対策が肝要だろうが、それは?」
「一応私の魔術で長老のを防ぐことはできたから、どうにかはなりそうだよ」
「あぁ棍棒のアレかぁ。懐かしいな、ルーに捕まる前に何度か殴られたわ」
「何じゃ、やはり貴様には効かんのだのう、口惜しいわ」
『………何だか彼女とダグザ神を見ていると、色々な価値観が揺らぎそうになるよ……』
「あー。頑張れロマニくん☆」
『腹立つなお前』
即死対策はどうかという話の延長で、ダグザの棍棒の即死が効かなかったという、どこか物騒な話を豪快に笑いながら交わす凪子とダグザのやり取りに、その他の面々はどうにも置いていかされるばかりであった。
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