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神域第三大戦 カオス・ジェネシス99

『あの、自分は魔術協会からの異動ですが、そういう話は聞いたことがないような…?』
『凪子さんのことをか?』
『はい』
恐る恐る、と言った声がロマニの後ろから聞こえてきた。ルーの推察通り、魔術協会に関係するものがスタッフにいたようだが、彼女は知らない、との言葉を投げてきた。ポリポリ、と凪子は少しばかり拍子抜けしたように頬をかく。
「一応賞金首なんですけどねェ、忘れてくれるならそれに越したことはないけど。まぁ、一回大人げなく派手に叩きのめしちゃったことがあって、それ以来半世紀に来るか来ないか、みたいな感じになったから、魔術協会でももう都市伝説レベルなんじゃあないかな。大分前の話よ?」
「賞金首、ってお前…」
『………あっ、もしかして、それってあの捕縛に成功したら開位の位階と莫大な賞金が手にはいるっていうやつじゃ』
『位階!?』
「おー、多分それそれ」
――魔術協会からしてみれば、凪子は絶好の研究素材であり、また得体の知れない存在である。人間でないものでありながら、時計塔に出入りしていたとの記憶も、魔術を使えることも分かっている。魔術協会としては、さっさと凪子を管理下におき、好き勝手研究に使いたいのだ。それ故の封印指定である。勿論、そんなことを凪子が受け入れるはずもなく、時計塔と全面的に対立し大騒動を起こしたのがざっと200年前のことだ。

能天気にそう語る凪子に、ルーは再び大きくため息をついた。
「………全く。まぁ故に、余計なことは知られない方がよかろうと思ってだな、私は!」
「あぁ、うん、悪かったってごめんって…ほんとごめんて…すまねぇって…」
『……ええと、それで、彼女の正体、というのは…?』
仕切り直すようにそっと口を挟んだロマニに、思い出したように苛立ちを見せたルーと謝り倒していた凪子は、互いに矛と盾を収めた。
ルーが促したので、凪子が口を開く。
「なんかねぇ。ルーの推測によると、私は“星の意思の代行者”らしいよ」
『ほ…っ!?』
「アンタなら抑止力は知ってたな。地球、そして人類の抑止力…ガイアとアラヤよりもより星の意思に近いもの、なんだそうだぜ」
『は、ほ、ちょっと待って!?どういう…!?』
凪子の言葉と、続いたクー・フーリンの言葉に、ロマニはあからさまに動揺を見せた。喧しい、とルーに睨み付けられ口は閉じたものの、驚いたように見開かれた目が凪子やルーを忙しなく追って動き回っていた。
ルーはそっ、と指を凪子へと向けた。
「この時代の深遠なる内のものが関与していたこと、そしてここに春風凪子が跳ばされたこと。こいつらの関与は恐らく、この事態に星の意思が介入していることを意味している。人理定礎とやらの異常では表出していなくても、敗北したら平行世界から呼びつけて使役する、という程度には、星にとっては一大事である、という話だ」
『………!』
「…人理定礎はあくまでこの人理焼却に関連する事柄……それ以外の事が起きている、と捉えていいんだろう」
ぽつり、とクー・フーリンが呟いた。あくまでカルデアが特異点の重要度を定義するのは、人理焼却によって揺らいだ人理定礎への影響度が基準だ。そこから外れているならば驚異ではない、と観測されても不思議ではない、と言いたいのだろう。
クー・フーリンの言葉に、ロマニはようやく落ち着いたように表情を引き締めた。
『………成程。確かに…星の生命と人理の生命は、異なるといえば異なるものだ。しかし、星が抑止力を超えて動く、というのも信じがたいが、それでも人類の未来について異常はきたさない、というのは一体どういう……??』
「………考えがないわけではないが……語るには信憑性が無さすぎる、事の次第はこの際いいだろう。問題なのは、星にとってバロールは敵である、ということだ」
『!』
「それは確かに。じゃなかったらバロール殺させに行かないもんな」
「貴様らはここでのサーヴァントの召喚がイレギュラーだった、と言っていたな。そこから見ても、恐らく星の力は弱まっていると見ていいだろう。であるならば、残された時間はそう多くない。話は脱線したが、私が早期決着を考えている理由はこれで分かったな?」
「すんませんでしたようわかりました」
ルーはそう言い切ると、ふん、と息をついた。話の腰を折られたことをよく思っていないようだ。ルーを焦っているのかと煽ったのも話の腰を折ったのも凪子なので、凪子は素直に頭を下げた。その言葉にルーはどこか満足げに頷いた。存外この神も分かりやすい性格をしているものである。
コホン、と再び仕切り直すように、ロマニが1つ、咳払いをした。
『…成程、事情は分かりました。話してくださり感謝します。彼女の事については、なるべく記録が残らないように配慮します。残したところで信用もされなさそうな話ですが…』
「まぁ確かにな……」
『……では、襲撃を行う、と』
「あぁ、本題に戻ろうか。いずれにせよ、奴が再び転移が可能になる前、6日以内には動く。私とタラニスが回復次第、事は起こしたい」
「んぁ、オレもか我が御霊」
ルーに名前を呼ばれ、今までずっと蚊帳の外にいたタラニスは意外そうに声をあげた。なんだかんだ興味を示さないなりに、話は聞いていたらしい。
ごろり、と寝返りをうって己の方を見たタラニスに、フッ、とルーは挑発的な笑みを浮かべる。
「当たり前だ、卿が襲われた以上、隠して温存していても意味がなかろう。卿も、何もせず死ぬのは癪だろう?」
「ハ、違いない」
その笑みに答えるように、タラニスも挑戦的な笑みを浮かべて見せた。
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