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神域第三大戦 カオス・ジェネシス93

マーリンは持っていた杖を地面に突き立て、それを軸に魔法陣を展開した。ぶつぶつと素早く詠唱を済ませ、重複するように陣を展開させていく。
「ぬぅん!」
「うわっ!」
そんなマーリンの動きを許さぬ、といわんばかりに機敏に動いたダグザの棍棒がマーリンの足元を抉り、弾き飛ばす。
だがマーリンは、にっ、と笑って見せた。その直後、三者にそれぞれエフェクトが弾けたような効果が発生する。マーリンの詠唱の方が先んじたということだ。
ダグザもそんなマーリンに、どこか楽しそうに顔を歪めた。その表情は今までの穏やかさが疑わしいほどで、つくづく彼の神の多面性が浮いて見えるというものだ。

ダグザはフォモール族との戦いの折りに、「全ての神々の偉業を私一人でやってのけよう」と宣言せしめ、実現して見せたという。彼を称する「万能」とは、伊達ではないということだ。

「…っ」
クー・フーリンは己が相手取っているものが彼のダグザであることに、今更に恐怖にも高揚にも似た感覚を覚えながらも、走って一定の距離を取りながら杖を構えた。
「ナウシズ!」
遅延のルーン、欠乏のルーンを指先で描き、ダグザの足元目掛けて放つ。
ダグザは横目に確認すると跳躍して直撃を交わした。ルーンは地面に辺り、緑色に輝いたかと思うと、その場から勢いよく木の蔦が飛び出した。
「ほう!」
ナウシズはしがらみ、タロットのハングドマンの意味も持つルーンだ。クー・フーリンはそれを己のドルイドの性質き重ね合わせ、ウィッカーマンの一部とて木々を生やし、捉える縄としたのだ。
「フン!」
跳躍したダグザに追いすがるように伸びる蔦に、ダグザは勢いよく棍棒を振り下ろした。棍棒が直撃した部分が急速に枯れて砕け散った。
「!」
『木々は植物だ、生命がある!だから殺されるのか!』
「バロールの奴めの魔眼は元々植物を殺すことはなかった。だが今は殺すようになっておる。木で足止めするならばもう少し工夫が必要じゃの!」
「っ、ご忠告痛み入るよ…!」
『…キャスター!逆にするんだ、生やすのではなく!』
「逆…。………そういうことか、承知した!」
クー・フーリンは直ぐ様ロマニが口にした策略に一瞬思考を巡らせたのち、直ぐ様言わんとするのとを理解すると子ギルに目配せし、降ってきたダグザの攻撃を避けて距離をとった。
「行きます!」
今度は子ギルの番だ。
空中に開いた射出項から勢いよく鎖が飛び出した。それは真っ直ぐダグザに向かったが、ダグザが勢いよく振り抜いた棍棒の巻き起こした風に僅かに弾かれたわむ。だが子ギルはそれを見越してか、その影になる部分についで開いた項からさらなる鎖を放った。
「!」
真っ直ぐに向かった鎖を、だがダグザは丁寧に棍棒で振り払った。そうしてすぐに、離れたところに陣取っていた子ギルとの距離を一気に詰めた。
「!」
器用に鎖の合間を、凄まじい勢いで駆け抜けてきたダグザに子ギルの反応が遅れ、突き出された棍棒をかわしきれずに攻撃は腹部に命中した。
「…ッァ……!」
パリン、とガラスの割れるような音がし、マーリンの施した効果が発動したことが察せられた。攻撃の勢いに子ギルは後方へと飛ばされ辛うじて着地したが、痺れたかのように動きを止めた。
「…っ、」
『…!死の呪いは防げている、だが同時にかけた魔力補正のスキルは消され、スタンの効果が発生している!』
「成程ね、新たにかけ直すのと弱体解除も必要か…!」
ロマニの即座の分析に、マーリンが毒づくように呟きながら、次いで迫ってきたダグザの攻撃を素早く取り出した剣で受け止めた。
受け止めた衝撃でマーリンの身体は僅かに地面に沈みこむ。
『詠唱苦手だからって正面から受け止める馬鹿があるか!!』
「手厳しいな君は!!」
直ぐ様怒鳴ったロマニにおだけたように言葉を返したマーリンだったが、その腕はぷるぷると震えている。
『キャスター!』
「アンサズ!」
ロマニの言葉に応えるように、クー・フーリンが炎を放つ。迫る炎にダグザも押し合いをやめて後方へ下がり、結果マーリンが解放される。
「さて、ドルイドに感謝しなければ!“ドルイドの権能”!」
マーリンは杖を構え直すと、弱体解除効果のあるスキルを放ち、子ギルを回復させた。口振りから見るに、弱体解除スキルは依り代のドルイドに起因するものであるようだ。
「ドクター!」
『…!子ギル君、押し出して!』
「!…、はい!」
ばっ、とジェスチャーであることをクー・フーリンがロマニに伝える。それを的確に受け止めたロマニは子ギルに同じくジェスチャーを含めて指示を飛ばし、子ギルもすぐにそれを理解し承知する。
「野蛮ですがこれも戦法の一つ…!」
ばっ、と腕を振り上げ、一瞬子ギルが魔力を瞬かせたと思うと、勢いよく大量の射出項が子ギルの後ろに展開する。その項からは、様々な形状の武器が顔を覗かせていた。
原初の英雄、それ故に全ての武具を所有するギルガメッシュの蔵。それが子ギルが本来の召喚時と同様に所有する能力の一つであり、そして彼の場合は宝具であった。
僅かにダグザはその光景に目を丸くしたが、楽しそうにその目を細めた。
「…“王の財宝”(ゲート・オブ・バビロン)!」
宝具解放と同時に腕を振り下ろし、多種多様な武器が勢いよくダグザ目掛けて飛び出した。雨のように降りそそぐ数々の刃を、ダグザはゆっくりと見上げ、ふ、と小さく笑い、掌を向けた。
「―――領域縮小、限定顕現。今一度、我が身を守る盾となっとくれ――“昼と夜の王宮”(ブルー・ナ・ボーニャ)」
『!?宝具か!』
詠唱とは言いがたい短い言葉を発したのち、ダグザの足元に魔法陣のような紋様が展開する。その直後、ダグザを覆うように城壁のようなものが勢いよくそびえ立ち、子ギルの宝具はその城壁に阻まれた。
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