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神域第三大戦 カオス・ジェネシス98

「1つ疑問なんだけど、三度目襲撃をかけたときは恐らくお前さんの時間制限で撤退したんだよな?その時バロールは追ってこなかったのか?」
凪子はペンをくるくると回しながらそう尋ねる。さらに嫌なことでも思い出したのか、さらに不愉快そうな顔をルーを浮かべていた。
「追っては来なかった。お互い、深手は負わせてやっていたからな」
「お互いかーい、まぁ成程。それで、それ以降は?」
「四度目の戦いがそれから1週間後…ちょうど1週間前だな。その時には深遠のはあの様になっていたぞ」
「つまり三度目の時に見かけたっていう戦いで敗北して、眷属にされたのか。一週間ペースくらいで衝突しているから、相手の転送周期がそうだと?」
「いや?転移の魔術の行使を数回見ていれば、再発動までの時など分かるだろう」
「………ソダネ」
凪子はさらりとそう述べたルーに、なんとも言えぬ、といった表情を浮かべつつも軽く受け流した。連発できない魔術を再発動できるようになるまでどれくらいの時間を要するのか、など、本来そのように見てわかるほど単純なものではない。ではないのだが、ルーは分かってしまうらしい。そんなことをこの万能に言っても仕方ない、と凪子は胸の内で呟きつつ、書いたメモを見下ろした。
これまでルーはバロールと四度戦い、その戦いは時間制限による引き分けあるいは痛み分け、という形で決着がつかずにここまできた、ということのようだ。凪子はカラン、と音をたててペンを放り投げると、ざばり、と水をかけわけルーに向き直った。
「今お前が話したことを考えると、次もまた本拠地に襲撃をかける、という方向性で考えている…と、とっていいのかな?」
「……………そうだな」
「どこかトラップを張った場所に誘き出す、というのは?」
「前回、奴は貴重な転移をわざわざタラニスを潰すために使ったのだ。深遠のを使っているのか他に何か使っているのか――方法は何にせよ、奴もなんらかの情報網を所持しているのは確実だ。私とタラニスがこの場にいることも知れているだろう。…その場合、なにか待ち伏せを設置しても勘づかれる可能性が高い」
「…まぁ、向こうも急がなければならない……っていう感じでもなさそうだしな。待ち伏せしているなら行かなければいい、となるか。死の呪いも仕込んでいたわけだしなぁ」
「……………襲撃か……」
淡々と進む凪子とルーの会話に、ポツリ、とクー・フーリンは呟いた。
実力の拮抗する敵の、それも本拠地での襲撃など、奇襲であったとしても容易くとれる手段ではない。ある意味では、追い詰められた末の最後の手段とすら言えよう。
その呟きが聞こえたのか、ルーがクー・フーリンをちらと見、フン、と鼻を鳴らした。
「遠距離攻撃が効かず、恐らく待ち伏せも功をなさない。そして奴の本拠地には復活の要とおぼしき物がある。であるなら、それが手っ取り早いだろう」
「あ、いや、反対だって訳じゃねぇ、よ。…………」
しゅん、とクー・フーリンはルーが並べた言葉に居心地悪そうに萎縮したが、それでも何か言いたげに目を伏せていた。
その様子を見ていた凪子は、にやにやとした笑みを浮かべてつつ、ひょい、とルーの視線に割り込む。
「手っ取り早く、か。急かされてるのはどちらかというとお前の方か?」
「…私が焦っている、といいたいのか?」
「そうではないにしても、長期戦に持ち込むつもりはないんだろう?」
「…………奴の存在が安定し、移動制限がなくなったとしたら、不利になるのは私だからな」
「!」
「……なんだその顔は。相手が何者であったとして、己の実力を過大も過小も評価しないというだけだ、当然だろう」
明確に己の方が不利だ、と口にしたルーを驚いたようにクー・フーリンは見たが、そんな表情を凪子越しに見たルーは淡々と一蹴するのみだった。
ちゃぷん、と、ルーの動きに合わせて水が跳ねる。
「……それに。私の推測が当たっているのであれば、そう放置していい存在ではないだろう。早くに決着をつけるに限る。この時代の貴様が敗北して2週間、それでわざわざ異なる世界の貴様をつれてくるくらいなのだからな」
「…あぁそうだ、聞こうと思ってたんだ。なんでカルデアに私のことを言わなかったんだ?事態に対してこの特異点の驚異レベルが低いというのも説明がついたかもしれんだろうに」
『えっ?』
「…………」
「なんでそこで驚くんだよぉ」
凪子はルーの言葉に思い出したようにそう尋ねた。昨日の最初のカルデアとの対話のときに、ルーが抑止力にも似た星の意思が介入しているらしいことを、話さなかったことについてだ。
凪子は何気なく、己の疑問心にしたがってそう問うたのだが、ロマニはともかく、ルーまでも驚いた表情を浮かべるので思わず突っ込むように言葉を挟んでしまった。ルーはしばしぱちぱちと瞬きを繰り返したあと、掌を額にあて、今までになく深く長いため息をついたのだった。
「……これでも気を使ったつもりなのだがな」
「ほぇ??」
「忘れているようだが、私はブリューナクを通して貴様の生き様を見ている。……魔術協会、なる魔術師の組織との長きにわたる争いもな」
『………!』
ルーの言葉にロマニがはっとしたように息を飲んだ。対して凪子は、あぁ、と、そんなこともあったねとでも言いたげな軽さで相槌を返す。
凪子は過去、魔術協会にその存在を補足されたことで、封印指定をくらい、追い回されたことがあったのだ。数世紀にわたり続いた争いは、いい加減堪忍袋の緒が切れた凪子が追跡者を全滅させたことで一度終息し、今は都市伝説的に賞金首となっているような状況にある。
「…あぁまぁ……えっ?それが何?」
「…昨日も言ったが、貴様は本当に鈍いな。カルデアとやらは、その組織や活動を聞く限り、魔術師に近い組織であろう。つまり、その魔術協会とやらに通じているものもいるだろうさ。己らと異なる存在を標本として採集しよう、などと、悪趣味な神のような愚かしさを持つ組織のようだからな。余計なことを知られない方がいいだろうと思ったが、どうやら余計な世話だったようだな」
「あっ、そういう!?あー……なるほどね…?というかそんなこと考えてくれたのか、お前優しいな!?」
「愚弄しているのか、貴様」
説明を聞いてようやく理解した凪子に、ルーはあきれたようにため息を重ねた。
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