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神域第三大戦 カオス・ジェネシス100

「…いや、お前さんらがいいのならいいんだけど、いいの?」
凪子は意外そうにそう言った。今まで温存させていたのは、万が一の際に器とするため、とタラニスは語っていた。だというのに参戦させる、というのは、今回で決着をつけるという意思表示なのか、あるいは他に意図があるのか。
じ、と己を見る凪子の視線をルーは受け止め、真っ直ぐに見返した。
「あぁ」
「行っていい、ってんなら遠慮なく参加させてもらうとするかね。そうさな、こちらは3、4日の内には回復しきる」
迷いのないルーの返答と、タラニスのあっさりとした言葉に、口出しは無用かと凪子は肩を竦めた。
それより、と、ルーが凪子の額を小突いた。
「春風凪子、貴様の方はどうなっている?」
「ん、ヘクトールが今せっせと足止め用のトラップを作ってくれてるが、それも2、3日の内に完成する。あとの問題はどこに連れていくか、だな」
「場所か。オレの森にしたらどうだ?もう何もねぇが」
「卿の森か」
ルーの問いかけに凪子は簡潔にそう答えた。いわば仕事の話だからか、至って真面目に答えている。課題として挙げた転移場所については、意外にもすぐにタラニスが提案してきた。 タラニスの森、そして何もない、と言うところから見るに、居住地のあの森もバロールの襲撃で手酷いダメージを負わされたのだろう。
ダメージが負わされたとはいえ、仮にも神域だ。そう簡単に使っていい、と言うとは思わなかった凪子は目を丸くしてタラニスを見た。
「え……え、いいの?」
「ハ、また機能するようにするにゃあ修理がいる。どうせ後で直すんだ、今の状態から多少壊れたところで大して手間は変わりゃしねぇよ。元々オレの領地だ、閉じ込めるのも他の場所よりしやすいだろう」
「……それは純粋に助かる、リンドウの森の一角を借りようかと思っていたところだったから」
「…ではそれでよいな。他に何か問題は?」
「現状、特にはないかな。使っていいなら明日にでも設置と下準備をしに行く。何か問題が生じたら共有するよ、そちらはお二方の回復待ちだけか?」
「……翁がサーヴァント共に手解きをしたい、とは言っていたな。カルデアの、そちらもやることがないなら翁に付き合ってやるといい。アレは優秀な戦争屋だからな。その上で当日の作戦を練るとしようか」
『成程…こちらはそれで構わない、クー・フーリン、君は?』
「…そうさな、改めて戦力の確認をしておくのはありだろう。急いですることもこちらはないしな」
淡々と、スムーズに話は進む。一通りの打ち合わせを終えた面々は一旦解散とし、通信機を携えてクー・フーリンは洞窟を出ていった。
出て行き様、何か言いたげにルーを振り返ったが、なにも言わずに彼は出ていった。言いにくいことだったのか、あるいは凪子やタラニスがいるから口を閉ざしたのかは分からないが、後者の可能性に思わず互いを見やった凪子とタラニスの視線がかち合った。その事でお互い同じ事を考えていたらしいことを悟った両者は、プッ、と互いに小さく吹き出した。
唐突に息のあったかのような行動を見せた両者に、ルーはげんなりとした表情を浮かべる。
「…なんだ貴様ら、気色の悪い」
「あんらぁ、ひんどいの。……ま、でもお前さんがらしくもなく色々私に気を使ってくれたんだ、私もらしくもなく気を使うとしよう」
「何?」
「このところ、キャスター、お前さんと話したそうにしてるのには気付いてんだろ?ルー」
呆れたようにしながらも寝る体勢に入ろうとしていたルーだったが、凪子の言葉に僅かに目を見開き、そちらへと視線を向けた。言葉の軽さには似合わぬ、いたって真面目な顔をしている凪子をしばし見つめたのち、ふっ、と自嘲気味に笑って見せる。
「……………成程?だが、余計なお世話というものだ、春風凪子。…奴は死人だ。死人と語ることはない」
「…」
「それは彼の魔神とて同じことだ。語らうことも、貸す耳もない。……死とはそういうものであり…そうあるべきものだ。例えそうして死者を利用することが、この星の意思であったとしてもな」
「…………そう、かい」
「……………」
「…私は寝る。あまり騒いでくれるなよ」
余計なお世話、といったように、これ以上耳を貸す気はない、と言わんばかりのルーに、凪子はひとまず押し黙るしかなかった。そのまま目を伏せたルーを見て、再びタラニスと視線がかち合うと、今度は両者は互いに肩を竦めあうのだった。



―――――

「…………そうか、また来るか。善哉。何やら奇妙な仲間も増えているようだ」
「………………………」
――暗い、日の射さない森の深淵地に、その姿はあった。少し離れたところには、無感動な表情を浮かべた深遠なる内のものが膝を抱えて座り込んでいた。
短く借り上げられた薄緑の髪が風に揺れ、浅黒い肌と紫色の装束は森の闇に溶け込んでいた。奇妙な眼帯を装着した左目は深く閉ざされ、開かれた右目は毒々しい赤い光を放っている。胡座をかいたその者は、くっくっ、と楽しそうに肩を揺らした。
「耳障りな声だと思っていたが、何、面白いことがあるものだ。あれがわざわざ新たに仲間を持つとは!貴様を黙らせたというのに、平行世界からまた連れてくるというのも、随分この星もしぶとく抵抗するものだとは思わないか、ええ?」
「…………………………」
どうやら深遠のに話し掛けたようだが、彼女は一瞥するばかりで言葉を返すことはなかった。つまらなそうにその者の目は細められたが、あまり気にしてはいないようだ。
「………フン、まぁいい。少しは面白くなってきたというものだ。なぁルーよ、貴様はどんな面白さを俺様に見せる?クク……第二の戦いの再戦、いいや、まさに第三の戦いと言ったところだな。どこまで此方の思惑を見抜いているのか…お手並み拝見と行こうじゃあないか」
「……今日は一人でよく喋るな」
「……眷属にしたというのにそうした軽口をなお叩き続ける貴様の頑丈さには恐れ入ったがな。どうやら平行世界の貴様はルーの味方についた。自分を殺す、ってのは、どんな気分なんだろうなァ?」
「………さぁ。死なないから知らん」
「ハッ。だが向こうは“死ねる身体にされている”らしいぞ?ふふ、ふはは!楽しみだなァ、星の代弁者?」
「…………………」
笑い声をあげるその者―――バロールを、深遠なる内のものはただ、静かに見つめるばかりだった。
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