2017-9-23 23:46
「……ってか待てオイ、MEAD狙ってるとは聞いてねぇぞ」
「ン?」
ふと、“ランサー”はさらっと言われた言葉に思わずそう言葉を漏らした。“キャスター”はきょとんと“ランサー”を見たあと、ぽん、と手を叩いた。
「あぁ、わりと最近分かったことだしな、そういや話してなかったわ」
「このやろーてめぇ」
「いーじゃねぇか、今話したろ」
「……………」
やいのやいのと口論をかもす二人に対し、女王蜂は黙りこくり、何かを考えるように目を細め、眉間を寄せていた。女王蜂にとっては、まるで意図されたかのような三竦み構造が気になっているらしいが、“ランサー”にしてみればここにMEADが絡んできたことの方が気になることだった。
女王蜂が考え込んでしまったのなら丁度いい、この隙に聞いてしまえ、とランサーは視線を“キャスター”に向けた。
「しっかし、なんでメイヴのところが出てくるんだよここで」
「製薬会社だろ、あそこ。アンプルも薬といえば薬だ、可能性は0じゃあない」
「しかし、三竦みってことは、全部違うって可能性があるよな。まだどこかはおまえにも分かってねぇの?」
「どうにも情報が錯綜しててな……どこかに情報を意図的にかき回してる奴がいる。ま、そいつがこの三竦み構造を作った野郎で間違いないだろうな」
「ふぅん………」
“ランサー”は槍を回して肩に担ぎ、ぽりぽりと顎をかく。なんだかさらによく分からないことになってきているようだ。
「………あ」
「??どうした」
「ん?あ、いや、なんでも」
そういえば、よくよく思い返せば数日前にも“ランサー”を狙ってきたらしい刺客に遭遇したことがあったが、あれはChaFSSでも、UGFクリードでも、雀蜂でもないようだった。軽く相手をしてやると早々に撤退していったので後を追うこともしなかったが、もしかしたらそれが、その“情報をかき回してる輩”による犯行だったのかもしれない。
耳ざとく聞き付けた“キャスター”に教えようかとも思ったが、女王蜂もいる場なので“ランサー”は慌てて口にしかけた言葉を飲み込んだ。
“キャスター”は気にするでもなく、ふぅん、と呟いただけだった。
「…ただ、そうさな。6月にメイヴがパーティー開いたろ。そこでこいつが潜り込ませてた雀蜂の構成員、全員消されてんだよな」
「へぇ?」
「!……やれやれ。随分と筒抜けのようだな」
そして、“キャスター”のほうも不意に思い出したようにそんなことを口にした。自分の話をされたことで我にかえったか、女王蜂は苦虫を噛み潰したかのような顔で“ランサー”と“キャスター”を睨んだ。
“キャスター”はおどけたように、ちっちっち、と指を振った。
「そう気にしなさんな、潜り込んでたやつは所属にかかわらず殺されてっからよ」
「!」
「……へぇ。メイヴがそういうネズミを組織を問わず駆除するのは珍しいじゃねぇか」
「だろ?そういう意味ではまぁ怪しいわな。まだこれといって尻尾を見せねぇが」
「……ふむ、成る程。やたらここのマフィアに尾行をされるとは思っていたが、まさか我々をアンプルの産出源などと思っていたとはな」
女王蜂は誰ともなしにそう呟き、肩を竦めた。そして、何故か彼は両手の銃を太股のホルスターへとしまった。
「あ?なんだ、逃げる気か?」
“ランサー”は女王蜂の行動に眉をひそめた。これから面白くなるところだったはずなのに、彼は逃げる様子をおおっぴらに見せてくる。
女王蜂もそれを簡単に察したか、はっ、と鼻で笑うように両手をあげた。
「間もなく警備隊が来るのだろう?生憎今はそういうものに捕まっている暇はなくてね。だが面白い話を聞けた、今後君たちを襲わないと約束しよう。こちらから奪っていった情報は今のでチャラにしてやる」
「!」
「…ずいぶん高く買うじゃねぇか。オレが掴んでいる情報はまだまだあるかもしれないぜ?」
女王蜂の言葉に驚いたのは、“ランサー”だけでなく“キャスター”も同じだったようだ。笑顔を引っ込め、いやに真面目な顔で女王蜂を見る。
女王蜂は気にしてもいないように“キャスター”の方を見た。
「何、貴様はこの街でしか働かないようだからな。この街を雀蜂が出てしまえば、その情報に価値などないだろう」
「……まぁ、一理あるわな。街の外から買いに来る奴もいないけどよ」
「それに、情報が錯綜しているならこちらの情報が多少漏れている方が信憑性を欠き、混乱してくれるだろうからな。今は、別に相手取るものができた」
「へぇ?そいつはなんだ?」
「自力で掴んでみたまえ、情報屋。命の保証はしないがね」
「!」
「どわっ!」
女王蜂は捨て台詞のようにそう言い放つと、どこから出したのか、フラッシュ・グレネードを地面に叩きつけた。
その眩しさを二人はまともに受けてしまい、そのダメージから回復する頃には女王蜂は姿を消していた。