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この街の太陽は沈まない73

――Episode ? <クー・フーリン・オルタ>――



┃ 7/10 16:24:07 ┃

 「……!」
UGFクリード全体をヘクトールに任せ、別行動をとっていたオルタは、いりくんだ路地裏の奥で雀蜂の構成員数人と言葉を交わす珍妙な格好の男を見つけていた。

実はここ数日、オルタはメイヴと行動を共にしていた。オルタはずっと、メイヴが赤いアンプルに関心を示したことが引っ掛かっていた。言葉を言い換えれば、関与しているのではないかと疑っていた。
だが確たる証拠もないし、なによりメイヴはその辺りのことにはヘクトール並みに気をきかせる。オルタがこっそり探ろうとしたところですぐに張れてしまうだろう。
だからあえて、表立ってメイヴと行動を共にしてみた。メイヴがオルタを良くも悪くも好いており、近くにいれば自分にぞっこんになるのは分かっていた。ChaFSSがUGFクリードを追っているらしいことを利用して、アリバイ作りに協力してほしい、と言えばメイヴはあっさり了承した。べたべたされるのは好きではなかったが、メイヴの行動を阻害するには丁度いい。
そうして数日メイヴに近付き、その間にMEADの動きを探ってみたところ、どうにもなにかMEADは新製品の開発をしているらしいことが掴めた。それも、赤いアンプルに関わる、新製品を。

やはり、メイヴはなんらかの形で赤いアンプルに関与している。そう確信したオルタは、今度は自分に喧嘩を売ってきている雀蜂の動きを客観視することにして、ヘクトールの作戦実行日である今日、街のなかにいる雀蜂の動きを張っていたのだ。そうして、冒頭の男を見つけたのだ。

見かけない風貌の男だ。あれだけ目立つならば、雀蜂に関与している人間として報告に聞いていそうな気もする。
「………聞いてねぇってことは」
オルタはポツリ、と呟く。
聞いていないということは、報告に上がっていないということ。つまりこれまでUGFクリードが張っている間に雀蜂と接触をとらなかった、ないし、こちらに見つからない範囲にいた、ということになる。
そして偶然にも、雀蜂の重要人物で報告に上がっていない人間もいた。肝心の雀蜂のリーダーだ。雀蜂のリーダーが誰であるのか、UGFクリードは掴めていないでいた。
うっすら聞こえてくる言葉を聞く限り、どうやらその男は雀蜂の構成員に何かを指示しているようだった。ここまでお膳立てされれば、子どもでも気がつく。オルタにだって、当然予想がつく。
「…やつか」
オルタは、にぃ、と口角をつり上げた。

あれが、雀蜂のボスだ。

そう結論付けたオルタは、男が構成員と別れて一人になったところで、少し後ろから男のあとを尾行した。



 「…何かオレに用かな?尾行をするならもう少し上手くやってほしいものだが」
しばらく後をつけていると、男が自分に気がつき、人気のない方に誘導しているらしいことに気がついた。それはそれで都合がいいので、気にせずそれについていった。そうして袋小路に行き当たったところで男が振り返った。男は嘲るようにそう言ってきたが、自分についてきていたのがオルタであることに気が付き、驚いたようにその目を見開いた。
オルタは、にぃ、と口角を歪めて笑って見せた。
「よォ。世話になってるな」
「…これは驚いたな。そこまでUGFクリードは人手不足なのかね」
男はしばし呆然としていたが、すぐにその表情を引っ込め、呆れたようにそう言った。

この街の太陽は沈まない72

「……チッ。逃げられちまった」
「………まぁいいさ、オレたちも逃げるぞ。ChaFSSにあいつらが追ってる案件を嗅ぎ回ってることがばれるのも面倒なことになる」
「ほーい」
“ランサー”は残念そうに女王蜂が消えていった方を見た後、早々に別の路地へと駆け出していった“キャスター”を追うべく、槍を折り畳んでしまって、地面を蹴った。



 「うわ」
万屋に帰りついた二人は、“キャスター”がまず開口一番にそう言葉を漏らした。その顔は普段の端正で落ち着いた赴きが予想できないほど露骨に歪んでいる。
そんな“キャスター”の視線の先にあるのは、“ランサー”が女王蜂を蹴り飛ばしたことで破壊された扉の残骸だ。げ、と、“ランサー”はその時のことを思い出す。あの時は発砲を阻止するためにも手段を選んではいられなかった。
「あー…わり、さっきの野郎に室内で襲われたからつい」
「……おまえが修理しろよ」
「あー、ついでにいうとナーサリーも壊されてっぞ、中で」
「………だよなぁ。まぁ、そっちはまだ予想がついてた…」
“キャスター”はじとりと“ランサー”を睨んだあと扉の修理を言い付け、ナーサリーも壊されたと言われると、深々と疲れたようにため息をついていた。
とはいえ“キャスター”は早々にその辺りのことには諦めをつけたらしい、扉のなくなった入り口から店の中へと入っていった。
「……さて、オレはもう一仕事するかねぇ」
“ランサー”は道路に散らばったままの扉を見下ろしそう呟くと、店内のカウンターに荷物を放りおき、破片へと手を伸ばした。


「……なぁそういや“ランサー”よ」
“キャスター”が不意に“ランサー”へと問いかけた。
「お前、さっき女王蜂のところでなにか言いかけてたよな」
「ん?あぁ…オレもこの前、所属不明のやつに襲われたんだよ。あっさり逃げてったから、よそのチンピラにでも絡まれたかと思ってたんだが」
「……かき回してる輩の関係者……って線の可能性はあるな」
“キャスター”はもっていたファイルをぱたり、と閉じ、組んだ指を唇に添え、考え込む仕草を見せた。“ランサー”は、くわえていたタバコの煙を、ふぅー、と吹き出す。
「なんか特徴はあったか」
「いや、なーんも。年も格好もバラバラ。体術には多少精通しているみたいではあったがな、ま、そんだけだな」
「…………なぁ、“ランサー”」
「おう、なんだ、“キャスター”」
「往々にして、情報をかき回すことのできる奴っていうのは、全部の情報に手を届かせることができる立場の人間であることが多い」
「………??おぉ」
「ChaFSS、UGFクリード、そして雀蜂。その三者の情報を掴むことができるのは、この3つのうちの、どこに近い存在だと思う?」
「あ?………まぁ…雀蜂は外部組織だし関係組織も特にねぇんだよな?なら、雀蜂はとりあえず論外だろ。となると残りはUGFクリードかChaFSSだが…どうにも、UGFクリードじゃあねぇ気がすんな。オルタの奴がそんなまどろっこしいことするか?そもそも、目的はなんだ。UGFクリードは今回の件では結構被害も出てる方だろ」
「だよなぁ。そうなると、ChaFSS関係者が一番怪しいよなぁ、“ランサー”?」
「……………、まさか」
“ランサー”はなにかを含むような口ぶりの“キャスター”の言葉に、ややあってから“キャスター”を振り返った。浮かび上がったのは、一つの可能性。
「……だが、被害が出てるのはUGFクリードの構成員だけじゃねぇ、むしろ街の住人の方が割合としてはずっと多いぞ」
「だが、動機はある」
「なんだと?そりゃなんだ」
「………ま、とりあえずはここまでだ。あとは想像に任せる、オレもまだ確たる尻尾が掴めた訳じゃねぇ。…が、今回女王蜂の話を聞いてみて、オレはその可能性が高いと踏んだ。精々気を付けろよ“ランサー”、敵は存外、近いかもしれねぇぜ?」
「……………おう。わかった」
“ランサー”はそう返答すると、吸っていたタバコを握り、消した。

この街の太陽は沈まない72

「……ってか待てオイ、MEAD狙ってるとは聞いてねぇぞ」
「ン?」
ふと、“ランサー”はさらっと言われた言葉に思わずそう言葉を漏らした。“キャスター”はきょとんと“ランサー”を見たあと、ぽん、と手を叩いた。
「あぁ、わりと最近分かったことだしな、そういや話してなかったわ」
「このやろーてめぇ」
「いーじゃねぇか、今話したろ」
「……………」
やいのやいのと口論をかもす二人に対し、女王蜂は黙りこくり、何かを考えるように目を細め、眉間を寄せていた。女王蜂にとっては、まるで意図されたかのような三竦み構造が気になっているらしいが、“ランサー”にしてみればここにMEADが絡んできたことの方が気になることだった。
女王蜂が考え込んでしまったのなら丁度いい、この隙に聞いてしまえ、とランサーは視線を“キャスター”に向けた。
「しっかし、なんでメイヴのところが出てくるんだよここで」
「製薬会社だろ、あそこ。アンプルも薬といえば薬だ、可能性は0じゃあない」
「しかし、三竦みってことは、全部違うって可能性があるよな。まだどこかはおまえにも分かってねぇの?」
「どうにも情報が錯綜しててな……どこかに情報を意図的にかき回してる奴がいる。ま、そいつがこの三竦み構造を作った野郎で間違いないだろうな」
「ふぅん………」
“ランサー”は槍を回して肩に担ぎ、ぽりぽりと顎をかく。なんだかさらによく分からないことになってきているようだ。
「………あ」
「??どうした」
「ん?あ、いや、なんでも」
そういえば、よくよく思い返せば数日前にも“ランサー”を狙ってきたらしい刺客に遭遇したことがあったが、あれはChaFSSでも、UGFクリードでも、雀蜂でもないようだった。軽く相手をしてやると早々に撤退していったので後を追うこともしなかったが、もしかしたらそれが、その“情報をかき回してる輩”による犯行だったのかもしれない。
耳ざとく聞き付けた“キャスター”に教えようかとも思ったが、女王蜂もいる場なので“ランサー”は慌てて口にしかけた言葉を飲み込んだ。
“キャスター”は気にするでもなく、ふぅん、と呟いただけだった。
「…ただ、そうさな。6月にメイヴがパーティー開いたろ。そこでこいつが潜り込ませてた雀蜂の構成員、全員消されてんだよな」
「へぇ?」
「!……やれやれ。随分と筒抜けのようだな」
そして、“キャスター”のほうも不意に思い出したようにそんなことを口にした。自分の話をされたことで我にかえったか、女王蜂は苦虫を噛み潰したかのような顔で“ランサー”と“キャスター”を睨んだ。
“キャスター”はおどけたように、ちっちっち、と指を振った。
「そう気にしなさんな、潜り込んでたやつは所属にかかわらず殺されてっからよ」
「!」
「……へぇ。メイヴがそういうネズミを組織を問わず駆除するのは珍しいじゃねぇか」
「だろ?そういう意味ではまぁ怪しいわな。まだこれといって尻尾を見せねぇが」
「……ふむ、成る程。やたらここのマフィアに尾行をされるとは思っていたが、まさか我々をアンプルの産出源などと思っていたとはな」
女王蜂は誰ともなしにそう呟き、肩を竦めた。そして、何故か彼は両手の銃を太股のホルスターへとしまった。
「あ?なんだ、逃げる気か?」
“ランサー”は女王蜂の行動に眉をひそめた。これから面白くなるところだったはずなのに、彼は逃げる様子をおおっぴらに見せてくる。
女王蜂もそれを簡単に察したか、はっ、と鼻で笑うように両手をあげた。
「間もなく警備隊が来るのだろう?生憎今はそういうものに捕まっている暇はなくてね。だが面白い話を聞けた、今後君たちを襲わないと約束しよう。こちらから奪っていった情報は今のでチャラにしてやる」
「!」
「…ずいぶん高く買うじゃねぇか。オレが掴んでいる情報はまだまだあるかもしれないぜ?」
女王蜂の言葉に驚いたのは、“ランサー”だけでなく“キャスター”も同じだったようだ。笑顔を引っ込め、いやに真面目な顔で女王蜂を見る。
女王蜂は気にしてもいないように“キャスター”の方を見た。
「何、貴様はこの街でしか働かないようだからな。この街を雀蜂が出てしまえば、その情報に価値などないだろう」
「……まぁ、一理あるわな。街の外から買いに来る奴もいないけどよ」
「それに、情報が錯綜しているならこちらの情報が多少漏れている方が信憑性を欠き、混乱してくれるだろうからな。今は、別に相手取るものができた」
「へぇ?そいつはなんだ?」
「自力で掴んでみたまえ、情報屋。命の保証はしないがね」
「!」
「どわっ!」
女王蜂は捨て台詞のようにそう言い放つと、どこから出したのか、フラッシュ・グレネードを地面に叩きつけた。
その眩しさを二人はまともに受けてしまい、そのダメージから回復する頃には女王蜂は姿を消していた。

この街の太陽は沈まない71

「やれやれ、よく動く」
呆れたように男はそう言って、がちり、と音をさせてマガジンを落とした。手早く取り出した新たなマガジンを装填し、すぐにその銃口を“ランサー”に向けた。
「てめぇこそ、大した身のこなしだ。おかげであんたの名前に目処がついたぜ」
「ほう?」

「――女王蜂」

“ランサー”が口にした言葉に、男はニヤリと笑みを浮かべただけだった。だが、嘲ってこないあたり、どうやら当たったらしい。

女王蜂。その名称が当てはまるのであれば、彼は、雀蜂のリーダーだ。

「“女王蜂”なんざわざわざ名乗るくらいだ、女かとも思ったんだがね」
「ハッ、短絡的なことだ。戦い方に捻りがないとは思っていたが、なるほどそのザマでは無理もない話か」
「てめぇがボスなら丁度いい。一つ、気になってることがあるんだがよ」
「答えるとでと思うのかね?」
「まぁいいじゃねえか、てめぇにも益のある話だ」
「……?」
“ランサー”は男、女王蜂が雀蜂のボスとわかると、槍を下ろし、ポケットから煙草を取り出した。女王蜂はそんなランサーに訝しげに眉間を寄せたが、彼も片方の銃を下ろした。
“ランサー”は情報屋の主軸ではないとはいえ、彼の組織の情報をつかんで見せた“キャスター”の同居人兼仕事仲間だ。これから口にする情報に価値があるかもしれない、と考えでもしたのだろう。その上で、一旦戦う姿勢を引っ込めつつも槍を握ったままの“ランサー”に合わせ、向ける武器を一つにしたのだろう。
どこまでも計算尽くの男だ、面白味のない、と思いながら、“ランサー”はタバコに火をつけた。
「赤いアンプルの存在は、あんたも流石に知ってるだろう?5月にゃこの街に入ってたんだからよ」
「………ふん、まぁな。くだらんものが流行っていることだな、人の欲とは恐ろしいものだな」
「おまえら雀蜂は、度が過ぎた裏組織を見つけては潰す、悪の世界において独自ルールで人を裁く死刑執行人みてぇな組織だ。迷惑っちゃあ迷惑だが、自己ルールに徹底してる分目的は分かりやすい」
「……………」
「そこで、だ」
「!」
不意に、別の声が会話に割り込んできた。女王蜂は咄嗟にそちらに銃を向ける。
こつ、こつ、と、杖をつきながら暗がりから二人のいる通りに出てきたのは、“ランサー”と同じ顔。つまり、“キャスター”だ。騒ぎを聞き付けたのだろうか、“キャスター”の登場には“ランサー”も驚いたように彼を見た。
「よォ。なにしてんだ?」
「そりゃこっちの台詞だ、バンバン大騒ぎしやがって。3分後には警備隊員がかけつけてくるぞ」
「げ。そりゃ面倒だな…」
「……そこで、なんなのだね、“キャスター”とやら」
女王蜂は下げていた方の銃を“キャスター”に向けた。警備隊が来るのであれば、場合によってはChaFSSまで出てくる事態になりかねない。相手も早々に決着をつけたいのだろう。
“キャスター”は目深に被ったフードのしたでにやり、と笑い、人差し指をたてて唇に当てた。
「お前さんたちの目的は分かってる。“赤いアンプルを流している組織を潰すこと”、だ」
「…………」
「さっきはアンプルなんぞに騙される方が馬鹿、みたいな口振りだったが、あんたはドがつくお人好しみてぇだからな。裏組織潰しも、無辜な民を守るため、なんだってな?」
「…………そんなことはどうでもいいことだ。何が言いたい?オレの目的が、あのアンプルの流通元を潰すことだったとして、それがどうかしたかね?」
キャスターはくるくると指を回し、それを女王蜂へと向けた。
「いや、お前さん、一体”誰“を追ってるのかと思ってよ」
「…何?」
「一ついいことを教えてやろう。ChaFSSは赤いアンプルの流出源をUGFクリードだと考えている。一方、UGFクリードはおまえたち雀蜂がそうだと考えている。そしておまえは、製薬会社のMEADがその犯人だと思ってる。だろう?」
「……………誰を追っていると聞いておきながら、知っているようじゃあないか」
「いいや、知らねぇさ。少しは疑問に思わねぇのか?この街のツートップの組織とテメェ、三者が全員違うものを敵だと思っている。しかも、わりと三竦みになるように、だ。MEADはChaFSSの母体であるCPAとも、UGFクリードとも繋がりのある会社だからな。随分ときれいな形に誤解すると思わねぇか?」
「………!」
そこまで言って、女王蜂の表情が歪んだのが“ランサー”にも分かった。

この街の太陽は沈まない70

「そぉらっ!!」
「っ、」
静かな、さびれた集合住宅街の路地裏で、鉄のぶつかる音と発砲音が交互に響き渡る。
「ちィ、ちょこまかと――!」
“ランサー”はひらりひらりと攻撃をかわしていく男に舌打ちをした。
彼は、「勝手に漁られたものを取り返しに来た」と言っていた。それはつまり、雀蜂の情報に他ならないだろう。そしてさっさと立ち去らずに店に残っていた辺り、情報を調べた本人である“キャスター”の口も封じるつもりだったであろうことは、“ランサー”にも容易に想像できた。同じ屋根の下で暮らしている自分もその対象であろう事も。
だが男は、恐らく自分を殺すつもりはあるだろうに、どうにも決め手に欠ける戦い方をしてくる。慎重なのか確実を取りに来ているのかは知らないが、なんの面白味もない。
「オレを殺してぇんなら、もっと気合いいれなァ!!」
「っ!!」
“ランサー”はそう一喝すると、一気に距離を縮め、槍を思い切り男へと叩きつけた。あまりに速い打ち下ろしだった。
男はわずかに目を見開き、咄嗟に交差させた両方の銃でそれを受け止めた。今さら気がついたが、男の銃には銃口の下の分に刃がついていた。随分と変わった銃剣を使うものである。
槍と刃が拮抗し、ミシミシと金属が悲鳴をあげる。
「チッ、野蛮な男だ。さながら貴様は獣だな――!」
――そうして、その攻撃に男も頭脳戦は通用しないと悟ったか。男は“ランサー”の槍をはじくと瞬間的に回し蹴りをくりだし、そうして僅かにあいた“ランサー”の脇腹へと銃剣を突き刺すように飛び込んできた。
「そうこなくっちゃあな!」
ぎらり、と“ランサー”の目が光る。“ランサー”は振り上げた足で男の銃剣を上へと弾き、後ろ手に地面に突き立てた槍に身体を預け、もう片方の足で男の顎を蹴りあげた。
「ッ、」
唇でもきれたのだろう、わずかな血が宙を舞う。“ランサー”はそのまま槍を軸にして後転すると、すばやく引き抜いた二丁拳銃を男に向け、ためらいなく発砲した。
男は蹴り飛ばされた衝撃をそのまま流して同じように後転し、そのまま低く伏せて上体を狙っていた“ランサー”の弾を避けた。そうしてその体勢のまま、地面を蹴って砲弾のような勢いで飛び出してくる。“ランサー”は放りあげたデザートイーグルをがちりと歯で噛み口でもつと、空いたその手で槍をひっつかみ、男の剣部分での攻撃を槍で受けた。
片方の刃は槍にぶつかり停止した。が、男は反対の腕を、ぶつかったことで固定された腕の方に乗せ、銃口を“ランサー”の額にピタリと当てた。
「っとォ!」
“ランサー”は咄嗟に上体をのけぞらせた。躊躇いなく撃たれた弾丸が、わずかに首を掠めていく。かすったような痛みのあと、じんわりと首が熱をもつ。
“ランサー”は、ニィ、と笑うと、再び槍を軸にして足を振り上げた。その攻撃は察していたのか、男はすばやく後ろにとびずさりかわした。
“ランサー”はそのまま槍を支えにして身体を回し起こした。