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この街の太陽は沈まない61

「はあぁぁぁっ!!」
雀蜂というのは、随分無口な集団であるらしい。銃弾飛び交う中を平然と走り回り、剣で相手を切り刻む。そんな旧世代的な、ある意味で野性的な戦い方をするメアリーを、大抵の人間は恐怖し、泣き叫ぶものだった。だというのに、雀蜂の連中は悲鳴をあげないどころか、声ひとつあげない。仲間が死んでも振り返らない。怪我をしても怯みもしない。
まるでロボットを相手にしているかのようだ。まぁ、ロボット相手の戦闘などやったことはないが。
『恐れを知らない、というのは厄介ですわね。士気が上がることはないですが、下がることもないようで』
はぁ、とため息をつきながらぼやくアンの声が聞こえる。メアリーは同意を返すように、少し離れたところで狙撃をしているアンに対して親指をたてた。
アンの狙撃による援護を受けながら、メアリーは相手との距離を一息の間に詰め、その心臓にカトラス剣を突き刺した。防弾チョッキもヘルメットも、メアリーの大剣の前には大した意味を持たない。防弾チョッキは紙のように切り裂かれ、脳天に叩き落とされる様はさながら夏のスイカ割りのようだ。
「…でも確かに、怯まないってのはやりにくいね…!」
そうして力の差を見せつけようと、雀蜂に怯む様子はない。強いていうなら、メアリーとの一対一は避け、なるべく距離をとろうとするようになった、という程度だろうか。警戒はしているようだが、諦めそうな様子は毛頭ない。
『メアリー、少し下がって、囲まれますわ』
「りょうかい!」
アンの言葉にメアリーは一旦追撃の手を止め、少し後ろへと下がった。メアリーの後退と入れ替わるように、フォーメーションを組んだ味方が前に出る。
時間にしてはそこまで経っていないだろうが、襲撃から息をつく間もなく戦っていた、少しは息を整えるべきだろう。
『アン、今、手空いてるか?』
『ヘクトール?どうしました?』
そこへ、ヘクトールから通信が入る。個人通信のようだがメアリーにも聞こえるということは、二人がペアを組んでいることを配慮してのことなのだろう。
メアリーは油で滑りの悪くなったカトラス剣を手持ちの布でぐいと拭きながら二人の話を聞いた。
どうやら、ChaFSSがこの現場に来ているらしい。ChaFSSといえば、カルデアスの街の守護者的存在だ。表だってぶつかり合うことは少ないが、UGFクリードの対局にある存在なので、一応幹部であるメアリーもよく知る相手だ。ヘクトールはどうやら、その一人とその者が保護しているらしい相手の捕獲をアンに任せようとしているようだった。
さすがは守護者というべきか、こんなことも嗅ぎ付けていたとは。そう感心しながら二人の会話を聞いているとき、ふと、メアリーは雀蜂の背後、工場の正面入口にたつ人影に気が付いた。
『メアリーごめんなさい、少し離れますわ』
「大丈夫、ぼくも一騎討ちになりそうな相手が出てきたから」
『へ?…ちっ、セイバーか。こりゃ全員来てるかもしれねぇな、ChaFSSの奴ら』
メアリーの言葉に同じものに気がついたらしいヘクトールがそう毒づいた。同じく気がついたらしいアンも、メアリーに頑張って、と声をかけ、自らの仕事へと向かっていった。
フードを被ったその影は、直剣を高く掲げ――。

「エクス――カリバー!」

そうして、そんな掛け声と共に、その剣を勢いよく振り下ろした。その攻撃は、見たことがある。
『総員、物陰に退避!!』
ヘクトールが指示を怒号で飛ばす。メアリーはそれを聞くよりも早く柱の影に隠れ、剣が振り下ろされると同時に発生した、電磁波の衝撃波を回避した。
「出たよ、聖剣ビーム」
ぽろりとメアリーはそんな言葉を漏らす。フードの人影の主、それはChaFSSを率いるリーダー、通称セイバーだ。彼は古の聖剣をもじった兵器を振るうのであるが、その兵器は剣とは名ばかりのもので、斬撃に充填させた電磁波を乗せ、相手を麻痺させる衝撃波を放つものであった。まるでそれがビーム攻撃のようにも見えるので、メアリー達はそれを聖剣ビームと揶揄し、警戒しているのだ。
先程の攻撃で、セイバーのことをよく知らなかったらしい雀蜂は結構なダメージを受けたようだ。逃げ遅れたらしい味方もちらほら痺れている様子が見てとれる。
セイバーは剣を地面に突き立て、顔をあげた。
「ChaFSSだ!!カルデアスの街の平穏のため、君たちを全員この場で拘束する!」
『…なるほど、あちらさんも完全には見えていねぇんだな』
「ヘクトール?」
『よく分からねぇから、俺たちも雀蜂もひっくるめて捕まえる気だ。捕まるんじゃねぇぞ、メアリー!』
「言われずとも!」
メアリーはヘクトールの言葉に、細かい事情のことはよく分からないが、物陰から飛び出した。思惑がなんであれ、この場においてChaFSSがUGFクリードの敵であることには違いがない。セイバーの聖剣ビームにはエネルギーを充填する時間が必要だ。それまでは、彼は直剣を持つ、ただの剣士にすぎない。剣同士の戦いであるならば、少なからず勝機はある。
「邪魔はさせないよ、セイバー!」
「メアリー・リード…いいだろう、来たまえ!」
カトラス剣を引っ提げ、勢いよく距離をつめるメアリーの行動を彼は予想していたらしい。にっ、と、好戦的な笑みを浮かべ、同じように地面を蹴った。
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