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この街の太陽は沈まない67

胴体の背後にあるハッチを開き、大の大人一人がぴったり入ることが出来る程度のコックピットに両足を突っ込む。撃たれていない方の足をコックピットのシートベルトを足にひっかけ、戦車から振り落とされないように身体を固定した。
アーチャーはそうして上半身をハッチから多脚戦車の上に出すと、サブマシンガンを取り出した。身体を戦車に入れている以上、今の体勢から弓は射てない。現状の装備では矢が一番種類が多岐に及び状況に合わせやすいのだが、撃たれたのは自分の不手際だ、文句は言っていられまい。
「見つけましたわ!」
「!」
ちょうどそこへ、物陰からアンとメアリーが飛び出してきた。合流してタッグをくんで来たらしい。
「うわ趣味悪ッ」
「生憎と設計デザインは別の男でね。文句はそちらにお願いしたい」
「…しかし……参りましたわね。これでは子どもは確保されてしまいそうですわ」
「よっとォ!」
アンが少し苛立ったように呟いた。確かに、あちらからしてみればうまくいかない展開ばかりだ、苛立ちもしたくなるだろう。
そしてさらにそこに、大型多脚戦車に乗ったライダーが飛び込んできた。これではあちらが圧倒的に不利だ。
「……これは…」
「はーっ、拙者の守備範囲外………」
「ライダー、それどころではないだろう。…だが、交渉といかないか、アン・ボニー、メアリー・リード」
「悪いけど、お断り。そんなのしたところで、ボスに殺されそうだ」
そこでアーチャーは二人に交渉を提案してみた。こちらとしては情報が手に入り、ことの真相が何であるのか、真犯人が誰であるのか、それが分かることが最重要事項だ。それさえ分かるのであれば、必要以上に戦う必要はないかもしれない。
だが、その提案はあっさり断られてしまった。理由も理由だけに、それもそうか、と納得するしかない。それだけUGFクリードのボスは苛烈だと聞いている。
断られたからには、これ以上は譲渡はできない。
アーチャーはサブマシンガンを向けた。
「…では、君たちを拘束するしかないな」
「…っ」
ライダーもその様子を見て、つまらなそうにコックピット内へと引っ込んだ。ガチャン、と派手な音をたてて、戦車のサイドからマシンガンが顔を見せる。
アンとメアリーの二人は一瞬顔をひきつらせたが、お互いに背中を預けあうと各々の武器をアーチャーとライダーに向けてきた。諦めるつもりは、ないようだ。
「…そう来なくてはな」
アーチャーは一人そう呟き、サブマシンガンをアンへと向けた。


その刹那。
アーチャーと、ライダーと、そしてその間にたつアンとメアリー。その三者が作る二つの隙間の間に、黒い影が走った。


「…!?」
瞬間的に、その場にいた四人の意識がその二つの影に奪われる。
それは向こうも同じだったようで、二つの影はぴたりと動きを止めた。
「!!ボス!?」
メアリーが驚いたように叫んだ。
深い紺の髪と、白い肌に刻まれた毒々しい赤い入れ墨、そしてそれよりも遥かに深い色の赤の目。
「クー・フーリン・オルタ…!」
二つの影のひとつ。
それはUGFクリードのボスその人だった。
「…ChaFSSに……貴様の構成員か。それにここは………」
そうして、もう一つの影。土気色なのではないかと思うほど浅黒い肌に、それと正反対のベリーショートに刈り込まれた白い髪、くすんだ色の黄色い目。
両手に巨大な銃を引っ提げたその男は、一人納得したように呟いていた。
「…貴様、何者だ!」
アーチャーはその男を見るなり、反射的にサブマシンガンを彼へと向けた。直感的に理解した、彼と自分は絶対に相容れない、と。少なくともこの場において、そう直感するような相手であるならば、彼は間違いなく己の敵であろう。
男もアーチャーの方を見、ふっ、とニヒルな笑みを浮かべた。
「名乗るほどの名前はないよ。随分と前に捨てたのでね」
「……ッ……」
「…そいつは“女王蜂”だ」
男は名乗ることはなかったが、ぼそり、と吐き出すようにオルタの方が口を開いた。そしてその口から飛び出してきた言葉に、アーチャーは目を見開いた。
「女王…蜂……?!」
「雀蜂のボスの名称じゃないですの…?!」
驚いたのは、アンとメアリーの方も同じだったようだ。あっさりネタばらしされたにも関わらず、男はさして気にした様子もなくこちらの様子を伺ってきていた。

――理解が追い付かない。
雀蜂のボスらしい人物がなぜ今、現れたのか。そしてUGFクリードのボスたるクー・フーリン・オルタはなぜ一人で彼と戦っていたのか。


「逃がすかァ!!」

「!」
そうして、さらに二人を追うように飛び出してきた影が1つ。その影はアーチャーを認めて一瞬驚き、そしてどこか安堵したようににやりと笑った。

「ランサー!?」

彼らを追って飛び出してきたのは、行方不明になっていたランサーその人だった。
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