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この街の太陽は沈まない65

「……ッ!」
メアリーは小さく舌打ちをしたがすぐに行動を再開した。拘束は解かれてしまったが、アンが膝を撃ち抜いている。先程までの動きはできないはずだ。
アーチャーもそれは理解しているのか、メアリーに向かってくることはなく、その場に膝をついた。そして何がしたいのか、そのまま双刀を鞘に納め、腰のベルトから鞘ごとそれを外した。
『ッ、メアリー!飛び道具が来ますわ!』
「えっ!?」
何を考えているかは分からないが、動けない相手なら如何様にでもしようはある。だがそう考えた瞬間に、焦ったようなアンの声が飛び込んできた。言っている意味が分からず、思わず足を止めてしまう。
『それ、弓ですわ!』
そうして足を止めてしまったメアリーにアンが再び焦った声で叫んだが、アーチャーに十分な時間を与えてしまったらしい。はっ、と気がついたときには、アーチャーは柄頭のところで両方の双刀を立ててもっていた。
そこへ、腰の背後に下げていたらしい、両方の柄を包み込めるくらいの大きさの装備品を取りだし、それぞれの柄頭をその末端に取り付けた。それがスイッチだったのか、ガチャガチャとギミックが発動する音がし、下部の鞘の切っ先から上部の鞘の切っ先へと針のようなものが飛び出し、両鞘の間が弦で繋がれた。
「!」
「遅い」
メアリーはとっさにカトラス剣の側面を前に向けて頭と心臓をガードしながら、物陰に隠れるべく横へと跳躍した。だが、隠れるよりもアーチャーが矢をつがえる方が早かった。
アーチャーは鉄製の矢をつがえると、メアリーの心臓めがけて躊躇いなく放った。
「うっ!」
カトラス剣は矢を弾いたが、メアリーはその衝撃でバランスを崩し、ごろごろと転がりながら屋上にあった雨水タンクの影へと逃げ込んだ。ばっ、と身体を起こし、カトラス剣を確認する。幸い、ヒビなどは入らなかったようだ。
「ちっ…」
そのまますぐにアーチャーの方を確認すると、アーチャーも隠れたのか、先程までのところに人影はなかった。とはいえ、血痕が残っているので、追うのは容易だろう。
問題は、あれだけ素早く射ってきた矢だ。屋上は遮蔽物との距離が遠い。アーチャーめがけて進むと、返り討ちに合う可能性も高い。
「アン、あの男、どこ行った?」
『ええ、ちゃんと見ておりましたわ。今は私とメアリー、どちらからも死角になるところに逃げ込んでいますわ。でも、私が側面から援護すれば、メアリーも近づけるはず』
「分かった、合図をちょうだい、アン!」
『了解しましたわ!』
無線で通信を交わし、一先ずアンからの合図を待つ。アンがいた方向に目をやれば、アンがスナイパーライフルを肩に担ぎながら、移動しているのが見えた。
若干不覚はとられたが、まだこちらが有利。
そう考え、ふぅ、と胸につまっていた息を吐き出した。戦闘は慣れたものだが、緊張は常に抱えている。久しぶりの骨のある相手に、いつの間にやら息を止めてしまっていたようだ。
メアリーはそんな自分に苦笑をしながら辺りの様子に意識を向けているとき、ふと、あることに気がついた。


――キャタピラが擦れるような音と、鉄製のものが壁にぶつかるような音が、複数、聞こえていることに。


メアリーの隠れる雨水タンクは屋上の端にあり、少し身を乗り出せば下の様子が簡単にうかがえた。
「アン!!来ちゃダメだ!!!」
そうして下を見たメアリーは反射的に叫び、なるべく屋上の中央へ向かうべく雨水タンクの影から飛び出した。


――直後、メアリーが隠れていた雨水タンクの根本に巨大な砲弾が直撃し、建物が大きく揺れた。
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