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この街の太陽は沈まない68

――Episode ? <“ランサー”>――



┃ 7/10 05:44:27 ┃

 「……?」
赤いアンプルの情報を求め、“キャスター”の仕事を手伝いはじめてどれほど経ったろうか。“ランサー”は主に雀蜂の構成員の動きを張っていた。その最中にChaFSSの姿を見かけることはたまにあり、見つかったら面倒なことになるであろうことは簡単に予想できたので、見かける度に遠回りをして避けていた。
今日は深夜から何人かの動きを張っていた。だが彼らも何かに警戒しているのか、他の構成員と合流する様子がなかったので、一休みでもするかと店兼自宅に帰ってきたところだった。

そして異変に気がついた。

「…………」
“ランサー”は吸っていた煙草を口から取ると、持ち歩いている携帯灰皿に押し付けて消した。それを胸ポケットにしまい、店の扉を開けた。
カチャリ、と軽い音がして扉が開く。先程来た連絡によれば、“キャスター”はまだ帰ってきていない。なのに、“鍵が開いている“。
「……」
“ランサー”は黙ったまま、しかし躊躇うことなく“キャスター”の仕事場へと続く入り口のカーテンに手をかけ、それを開いた。薄暗い室内に、どうやら人の姿はないようだ。
「!」
だが、その床に投げ出された腕が見えた。自分のそれよりはるかに小さく、白いその腕には見覚えがあった。“ランサー”はしばらくそれを見つめたのち、“キャスター”の仕事場に足を踏み入れ、それに近寄った。
“それ”は、ナーサリー・ライムの腕だった。屈んで拾い上げれば、少し離れたところに足が落ちているのに気がついた。ぐるりと部屋のなかを見渡せば、ナーサリー・ライムのすべてのパーツが部屋の中に落ちていた。侵入者によって破壊されてしまったらしい。
「大した人形だ」
そんな“ランサー”に、声をかけるものがいた。声は“ランサー”の背後から聞こえてきた。
“ランサー”はさして驚くこともなくそちらの方を振り返った。入り口のところに、塞ぐようにして立っている男がいた。逆光で顔はよく見えないが、ガタイのいい男のようだ。
「まぁ、所詮人形でしかないが」
男は鼻で笑うようにそう言い――手に下げ持っていた拳銃の銃口を“ランサー”へと向けた。その銃口は、ぴたりと“ランサー”の頭を狙っている。


その男が引き金を引くよりも早く、“ランサー”は立ち上がり様にその男を蹴り飛ばした。


「ッ!?」
男はそこまで“ランサー”が素早く攻撃に転じてくるとは思わなかったのか、蹴りを腹部にまともにくらい、後方へと吹き飛んだ。店の入り口に衝突した男は扉を破壊しながら外まで弾き飛ばされた。
「おう、ただの人形だ。だけどなァ、礼儀も知らぬ
輩にくれてやれるほどのものではない」
“ランサー”はこきり、と首をならした。そうして、背中に装備していた折り畳み式の槍を片手で開いて肩に担いだ。
壊れた扉を踏みつけながら外に出、薄明かりのなかで侵入者の顔をじろりと見据える。浅黒い肌、白い髪。派手に露出した胸部には、傷跡だろうか、いくつか黄色いひび割れのようなものが走っている。
男は尻餅をついている体勢から億劫そうに身体を起こした。本気で蹴り飛ばしたつもりだったが、あまりダメージは入っていないようだ。
「…なるほど、貴様は情報屋ではない方か」
「“キャスター”に用か?残念だったな、ウチは無礼者に売るものはない」
「何、売ってもらうつもりなどないさ。お前たちが勝手に漁っていったものを、返してもらいに来ただけだ」
男は悪びれた様子もなくそうのたまってきた。どうにも癪にさわる物言いをする男だ。どこぞの弓兵を思い出させる。
ランサーはぐるりと槍を回し、コンと音をたてて石突きを地面に当てた。
「情報を探られたらわざわざ泥棒するのか?存外小心者だな」
「情報の価値は高いからな。売っているくらいだ、それが分からないほど頭がないわけではあるまい?」
「………。まァいい、情報を漁られて取りに来た、ってことは、てめぇ、雀蜂の人間だろう。ヘルメットを被ってねぇってことは…なんだ、幹部か何かか?」
「何、名も棄てたただの男さ。邪魔立てするなら死んでもらおうか」
男はまともにランサーの問いには答えない。そして、彼はそう言うと、手に持った銃を“ランサー”に向けた。
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