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この街の太陽は沈まない76

オルタは今までよりも激しく女王蜂を攻めた。洗いざらい吐いてもらうためにも殺すつもりはなかったが、5体を満足に残してやるつもりもなかった。
まどろっこしいことは嫌いだ。だがこの女王蜂は随分としぶとそうだ。多少痛みを与えた程度では口を割らないだろう。まぁ、一、二本腕やら足やらもいだところで、口が軽くなるともあまり思えないのではあるが。
「フッ――」
女王蜂はしずかに息を吐き出すと、勢いよく地面を蹴った。その動きを見て、ぼんやり思考していた頭を現実に叩き戻す。銃剣で攻撃してくる女王蜂の斬撃をメリケンサックで受け、流し、時折反撃する。なるほど、本気になったというだけはあるのか、先程よりも激しく攻めに転じている。
「ッ、」
首元を刃がかすめた。皮膚が切れることはなかったが、着ていたワイシャツの襟がすぱりと裂ける。オルタは楽しそうに表情を歪めると、女王蜂の顔めがけて勢いよく足を振り上げた。
女王蜂は横に顔をのけぞらせてかわし、オルタの膝裏めがけて銃剣を振り抜いた。オルタは素早く足を振り下ろし、女王蜂の銃剣を持つ手に踵を叩き落とした。
「チッ、」
女王蜂は腹立たしげに顔を歪めたが、銃剣を取りこぼすことはなかった。オルタは振り下ろした足を女王蜂の腕に引っ掻けると、その足の筋力だけで身体を持ち上げ、反対の足で女王蜂の胸元を思い切り蹴り飛ばした。
「っ、」
女王蜂はわずかに後ろへと下がり、オルタは蹴った反動で落ちた身体を、横にぐるりと回転させてうまいこと着地した。
女王蜂はその着地したオルタめがけ、引き金を引いた。弾は、なぜかオルタの足元に着弾する。
「?」
オルタは思わず、その銃弾を見下ろした。わざと外されたような気がする。
「――トレース、オン!」
「!?」
それは、女王蜂の罠だった。
女王蜂の言葉が合図だったのか、きらり、と銃弾が光ったかと思うと、その銃弾が爆発した。オルタは咄嗟に両腕で顔と胸元を庇ったが、銃弾の破片だろうか、小さな鉄片が身体の至るところに突き刺さった。
「言っただろう、本気を出すと」
ふふん、と、どこか得意気な空気さえ感じる声色が降ってくる。銃弾に毒でも塗ってあったのか、じくじくと妙な痛みかたをする。
オルタはちっ、と舌打ちすると、ポケットから小型ナイフを取り出し、腕に刺さった鉄片を回りの肉ごと抉りとった。
「ほう?」
女王蜂は意外そうに、だが感心したようにオルタを見た。
鉄片が小さいお陰で、抉ったところで大した傷ではない。オルタは同じ要領で手早く全ての鉄片を取り除いた。その間も女王蜂は攻撃してきていたが、ところどころで隠れながら除去作業を行った。
「(……ま、この程度なら大丈夫だろ)」
傷口の様子を見、べろりと舐めて腕を降る。じくじく痛みはするが、大したことではないだろう。何よりあれは鉄の弾だ。そう多く毒を含ませることはできないだろう。
オルタは銃撃の合間をぬって、隠れていた場所から勢いよく飛び出した。ついでに、懐からもうひとつの武器を取り出す。
ぴたり、と銃口を自分に向けた女王蜂に向けて、オルタは抜き取ったばかりのそれを思い切り投げつけた。
「っ!?」
オルタが投げつけたのは、槍の穂先のようなデザインの刃だ。オルタの武器はメリケンサックだけでなく、実は槍を使うこともあった。最も、最近はメリケンサックが切れたときに使うくらいで滅多に使うことはないので、部下であっても知っている人間は限られるだろう。
オルタはその槍の、まさに穂先だけを投擲武器として使ったのだ。手榴弾などではなく刃を投げてくるとは思わなかったのか、女王蜂はわずかに驚いたようにそれを見、あわてて避けた。その際に身体のバランスが大きく崩れる。
オルタはそれめがけて勢いよく飛びかかった。だが女王蜂も器用にその攻撃を受け止め、巴投げの要領でオルタを蹴り飛ばした。
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