スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

謝辞&次回予告

どうもみなさま。


管理人の神田です。
昨日、「この街の太陽は沈まない」完結とあいなりました!
定期的な更新どころか、もはや定期的に更新停滞しながらの連載になってしまいました。申し訳ありません…。ですが、最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

架空の街カルデアスのお話はこれにておしまい。
この後ダ・ヴィンチちゃんが勝つのか、ChaFSSが勝つのか、UGFクリードが勝つのか、はたまた雀蜂が勝つのか………。その辺りは皆様のご想像にお任せいたします。
黒幕ダ・ヴィンチちゃんはなるべく最後の三者会議までばれないように…と気遣って書いてたんですが、どうだったでしょうね?
自信はないです。

え?何故いっぱいキャラ出せるような設定なのにクー・フーリンが全員出てきた??趣味です。
基本的にキャラ選は趣味です、お察しください。



ところで、前回の謝辞で150前後は余裕で行くのでは…という予想通りに100話を超えてきました。も、もうちょっと短く終わるはずだったのですが…!
特にもっと短くしろボケぇ!みたいなコメントも来ていないので、これくらいでよろしいのですかね…?

遠慮なくご意見等いただけますと嬉しいです。メッセージ、コメントも両手を広げて待ってます。
もちろんリクエスト等もいつでも受け付けておりますよ。
ここでは書きにくい、という方はTwitterの方にでも。
それでも書きにくかったらTwitterでお題箱みたいなものを固定でおいてあるので、そちらにでも構いません。ただ、お題箱の方はすぐには気付かない可能性もあります、あしからず。


今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



さて。
次回作の予告です。

次の連載は、12/15(金)より再開したく思います。
内容は【カルデアのモブ職員視点の話】になる予定です。わりとまだ定まってません。ただ、多分、短編になるかな、と…いや分からないですけれど……。
どうぞぜひ、のんびりとお付き合いくださいませ!

この街の太陽は沈まない113(終)

【Last Episode】



 「失礼します」
「やぁやぁ、病み上がりのところ連れ回してすまないね、大丈夫かい?」

体調が回復したとして、ランサーは朝から本部の様々な機関から聴取を受けていた。彼個人としては精々代表会議でミスを吊し上げられるくらいであろうと思っていたのだが、思いの外CPA本部はことを大きく受け止めているらしい。何を明かして、何を明かさないか、については予めChaFSS内で相談して決めてきていたので、彼らにとってはさぞ実りのない聴取になっているのであろう、と、ランサーは質問に機械的に答えながらぼんやりと考えていた。

―そして最後にランサーを呼び出したのは、ダ・ヴィンチだった。
身体を気遣うようなことを言われたのは本日初だが、原因が原因なので、残念なことに少しもありがたくもない。
ランサーは儀礼的に会釈を返した。
「差し障りはありません」
「そうか。まぁ、座ってくれ。何度も同じ話をしていて飽きているとは思うんだが…」
「いえ」
「まず確認したいんだが、君を襲った人物のことは記憶にない、というのは本当かい?」
「申し訳ありません、事実です」
「ふーむ、そうか」
ちらり、と、ランサーはダ・ヴィンチの表情を盗み見る。彼女は困ったなぁ、とでも言いたげな表情を浮かべていた。
それが、ランサーの言葉通りに受け取ってランサーが気が付いていないことに困っているのか、建前上明らかである方が好都合なのであるのだから困ったふりをしているのか、までは判断がつきそうにない。
「まぁ、命があっただけよしとしよう。後遺症はないかい?」
「幸い、今のところは特には」
「それはなによりだ。UGFクリードのボスと戦闘になったと聞いているけど」
「監禁先から脱出する際に」
「何か気になることとか、あったかい?」
「気になること?………いえ、特には。噂通りの暴力性だとは思いましたが」
「ふむ、そうか。君を見て何か気にした様子は?」
「…向こうも交戦中だったためにろくに相手にもされなかったので…そういった様子は見られませんでしたが」
―やけにUGFクリードのボスのことを気にするな、と、ランサーは内心で眉を潜めた。
今回の事件はCPAないしChaFSSの有用性を示すパフォーマンス。UGFクリードはその敵役として選ばれた役者であるはずだ。そのボスのことを気にかけるということは、UGFクリードを潰すことに関しては、割合本気であった、ということなのだろうか。
「その交戦相手はわかるかい?」
「雀蜂の関係者、ではあったかと」
「女王蜂、ではない?」
「…そこまでは、断言できません」
「……そうか。ふむ、分かったよ、ありがとう」
「終わりですか?」
「あぁ、ご苦労様。気を付けて帰ってくれたまえ」
ついでに、と言わんばかりに交戦相手について聞かれたが、こたえを誤魔化すと特に深入りしてくることもなく、ダ・ヴィンチはあっさり聴取を切り上げた。少なくとも今は、UGFクリードのことだけを意識しているらしい。
ふぅ、とランサーは小さく息を吐き出すと、椅子から立ち上がった。ダ・ヴィンチに意識を向けながらも、礼をし、部屋の扉に手をかける。
「……なぁ、ランサー」
「なにか」
かちゃり、と、扉が音をたてたところで、ふとダ・ヴィンチがランサーを引き留めた。ランサーは念のため扉を少し開けたまま、首だけダ・ヴィンチを振り返る。
ダ・ヴィンチは、窓から外をみていた。外には夕日が輝いている。
「…およそ私は万能だからね」
「?……はぁ」
ダ・ヴィンチはランサーに視線を向け、にっこり、と妖艶な笑みを浮かべた。

「この街の太陽は沈まない。沈ませないとも」


「……………は」

一瞬、気圧された。
穏やかに笑っているはずなのに、その笑みに潰されかけた。

気付かれている。“彼女はこちらが気が付いてることに気がついている”。

ランサーは本能的にそう直感した。その上で彼女は自分を見ながらはっきり言った、「沈ませない」と。
つまりそれは。

「(……邪魔立てするなら次はねぇ、ってことか)」

ランサーは頭に浮かんだ予想に、背筋がそっと冷えるのを感じた。
だがランサーはぺろり、と乾いた口内をそれとなく舐め潤すと、にぃ、と笑みを浮かべて見せた。

「当然。悪となりうる善意も含めた、ありとあらゆる悪意。それらからこの街を守るのがChaFSSの仕事だ。次からは、不覚をとりませんよ、―――何者にもな」

「!」
一瞬、ダ・ヴィンチの表情が揺らいで見えた。

たとえそれが善意から来ているものであっても、悪であるのであればそれを否定し、断罪する。
たとえそれが、万能たるダ・ヴィンチであっても関係ない。次は、見逃さない。

言外にランサーはそう宣戦布告をしたのだ。
今回、ダ・ヴィンチを告発するまでには至れなかった。それが可能でないことはわかっているし、誰もがそれを受け入れながらもよしとはしていないことなど分かっている。
今は耐えるときなのだと。息を潜め、尻尾をつかみ、確実に仕留めるべきなのであると。

そう、頭では分かってはいても、心が黙ったままではいられないと叫んでいた。
だからこそ、ランサーは挑発に挑発で返したのだ。
挑発されて黙ったままではいられなかったし、黙っているほどChaFSSは生易しくはないぞ、と。

オレは、オレたちは、この程度では止まらないぞ、と。

「では、失礼します」
ランサーはあっさりとその挑発の笑みを引っ込めると、礼をし、今度こそ部屋を出た。
「…ふぅん。そうかい」
一人部屋に残されたダ・ヴィンチは、ややあってからそう呟いていた。


***


 「長かったな」
「げ、ずっと待ってたのか?」
「ずっとではないよ。でも仕事ができてね」
「!」
ランサーがCPA本部から外へ出ると、正面玄関にアーチャーとセイバーの姿があった。制服姿に、ChaFSSの警備用の車。仕事中であるのは明らかであったし、セイバーの仕事ができた、という言葉に、自分をすぐに向かわせるために来たのだと理解する。
ランサーはにぃっ、と好戦的な笑みを浮かべた。
「よっしゃ、案件はなんだ?」
「移動しながら説明する、乗ってくれ」
「おぅ」
「…ダ・ヴィンチ殿の聴取はどうだった?」
アーチャーが運転席に引っ込み、ランサーはその後ろの席に座るべく反対側の扉の方へと回り込む。
乗り込む直前、セイバーがそう尋ねてきたので、ランサーは扉を開けたまま、顔だけひょい、とセイバーに向けた。にやっ、とした笑みを浮かべたまま、目を細める。
「あいつ、オレたちが感付いてることに感付いていやがった」
「!」
「…まぁ、予想の範疇だな。それで?」
「はっ。太陽を沈ませねぇだのなんだの、よくわからねぇが挑発してきたから挑発しかえしてきたわ」 「!!…全く、君はもう」
セイバーは一瞬呆れたように目を見開いたが、すぐにくすくすと楽しそうに笑う。セイバーの反応に、へぇ、とランサーは思わず呟いた。
「怒らねぇんだな?」
「何、まぁ多少迂闊ではあるが…舐められても困る。それくらいはいいだろう」
「全く…セイバー、君はたまに大胆で不遜になるな」
それくらいはいい、というセイバーに、運転席のアーチャーが呆れたように言葉をこぼす。ランサーとセイバーは思わず顔を見合わせ、くすくすと笑いあった。そう言いながらも、アーチャーの声には、呆れはなかったからだ。
「さぁ、ではいこうか、ランサー!」
「おうよ!」
パン、と、二人は車の上で手を叩きあった。そうして再びにっ、と笑い合うと車に乗り込み、それを確認したアーチャーは迷いなく車を発進させ、車はすぐに夕暮れの街へと消えていった。


―その街は、平和な街だった。
―その街は、物騒な街だった。

悪意と善意が入り交じり、その境界線はいつの間にかあやふやなものになっていた。

何が善で、何が悪なのか。
護るべきものはなにで、倒すべきものはなにか。


その空に輝く太陽は、果たして本当に太陽か。


万能の博士が掲げる太陽の輝きが勝るのか。

狂った王の振りかざす暴力の破壊が勝るのか。

あるいは悪に落ちた正義の振るう断罪が全てを断ち切るのか。

道は未だ定まらない。
だが、賽は投げられた。動き出した歯車は止まらない。

七人の守護者が掲げる正義が辿り着く先に待つものは、果たして、輝きか、破壊か、断罪か、それともそれ以外のなにものか。


この街の太陽は、果たして。









END

この街の太陽は沈まない112


 「………あはっ」
部屋に残されたメイヴは、二つ分の足音が聞こえなくなったところで、乾いた声でそう笑った。そのまま、ぼすん、とソファーに倒れこむ。
「……ちょっと、本気で、死ぬのを覚悟したわ」
「お前らしくもない。オルタがその気になったら、殺されるつもりだったのか?」
はぁー、と、今までずっと息を止めていたのかと思うくらい長いため息をついたフェルグスが、呆れたようにそんなメイヴを見下ろす。一応フェルグスはメイヴのSPだ。オルタがそうした行為に出れば、フェルグスはきっとオルタとの戦闘に臨んだことになったろう―――そして恐らくは、彼も死んでいただろう。
だがフェルグスにそんなことを気にした様子は見えない。死んでも構わないような人間を守って死ぬなど、あまりに無益のはずだというのに。
メイヴはそんなフェルグスを見上げ、ふ、と薄く笑った。
「…ねぇ、女の一番の幸せって知っていて?」
「さて、どうだろうな」
「それはね、愛しい人の顔を見ながら死んでいくことよ。クーちゃんに殺されるのであれば、それは叶うことよ、なら、殺されるのも悪くはないわ」
「ふむ、成程なぁ。それはさておき、実際のところ、どうなのだ?贖罪の意とやらは本当にあったのか?」
フェルグスはよいせ、と僅かにかがみ、ソファーの背で頬杖をつく。メイヴはフェルグスの言葉に僅かに目を見開いた。
「まぁ!そこまで人でなしではないわよ!レオナルド・ダ・ヴィンチ、本当に気にくわない女!!クーちゃんが負けることなんてあり得ないとは思っていたけれど、あんな女に弱味握られて迷惑をかけたなんて、サイコーに自分に腹が立つ!し、いくらなんでも多少の申し訳なさだって覚えるわ」
「ふぅん。まぁ、なんでもいいがなぁ。しかし、オルタの殺気を浴びたのは久々だったな。相変わらず刺の強い男よ、ふふ」
「………ねぇ、貴方、私が死ぬ気だったら、守らなかった?」
ふ、とメイヴはそう疑問を口にする。それにはフェルグスが目を丸くする番だった。
「おいおい、オレの仕事をなんだと思っている?いくらお前が体以外は最低な女で、命懸けで守ったところで自殺するような結果が見えていたとしても、オレの目が黒い内は死なせん。オレの仕事はそういうものだろうよ」
「………ふふ!好きよ、フェルグス!今晩、どう?」
「はっは、大した女だな、お前は!」
二人は顔を見合わせたのち、声をあげてからからと笑った。



――――

 「………よかったんで?」
MEADを後にし、車に乗り込んだところで、ヘクトールがそう尋ねてきた。オルタはじとり、と睨み付けたが、答えを返すまでは諦めそうにない顔をしていたので、小さくため息をこぼした。
「よいも悪いも、他に何かあったか」
「まぁ、そりゃそうなんだけどな。意外だっただけさ、ボスがこんなすんなり納得するなんて。ボスにとっちゃ、メイヴのお嬢が差し出した賠償なんてなんの価値もないだろう?」
「まぁな」
「だったらなんで。部下や組織を気にしてくれんのはありがたいけどな、らしくないぜぇ?」
らしくない、という言葉に眉間を寄せて睨み付けてやれば、にへら、とヘクトールは笑う。
らしくないのは自覚している。さて、どう説明したものか。
「…………お前、ChaFSSのランサーと呼ばれていた小僧を覚えているか」
「あん?あの髪の青い坊やか。ちょっとボスに似てる気もしたが…」
「一応親族だ、似てもいるだろうよ」
「あら!そうなの」
ChaFSSメンバーが親戚だ、と言ったというのに、ヘクトールはさして驚いた様子は見せなかった。元から知っていた、とは考えにくいから、おおよそ敵に親族がいようと揺るがないと信用している、とでもいったところだろうか。
はぁ、とオルタは再びため息をついた。
「仲がいいわけでも悪いわけでもねぇ。そもそも疎遠だからな。が、あいつを含め、ChaFSSと喧嘩をするのに余計な邪魔が入るのはごめんだ。レオナルド・ダ・ヴィンチ、だったか。まずはそいつを潰さねぇことには話にならねぇだろう」
「……確かに今回、ランサーの坊っちゃんはCPAの関与を疑いにくくさせるために、生け贄にされたようなもんだったからな。中途半端に喧嘩を売れば、親族なんて形で体よく利用される可能性は十分ある」
「オレは破壊するだけだ。戦いを楽しむつもりも、支配をするつもりもない。が、それを利用しようとするような輩に好きにさせるほど、懐は広くねぇってこった」
オルタはそう言って、ニィ、と口角をつり上げた。

そうだ。
どうせ全てが破壊されるだけなのだとしても。その先にあるのが自分の破滅でしかないのだとしても。
それを利用しようなんてことは許さない。
自分の破壊の対象は全てなのだから。

ヘクトールは承知している、とでも言いたげに、同様に口角をつり上げた。
「オジサンとしては全部破壊されるのはちぃっと困るけどな、ま、しばらくはお付き合いしますよ、ボス」
「はっ。好きにしろ」

そうして、二人を乗せた車は街の闇へと消えていった。

この街の太陽は沈まない111

メイヴはオルタの言葉に、にこり、といつも通りの笑顔を浮かべた。


「UGFクリード代表クー・フーリン・オルタ、貴方にMEADの裏株式の8割、髄液とそのワクチンの情報及び利権のすべて、その開発及び製造に携わった、携わっている工場2つ、国外の医薬品生産工場5つ、そしてMEAD取引関係者のデータベースへのアクセス権を譲渡するわ」


そうして、そんな言葉をさらりと述べた。
「い゛っ!?」
仰天したようにヘクトールが言葉を漏らし、さしものオルタも目を丸くした。

確かに言い訳をしろ、つまり有り体に言えば賠償の誠意を見せろ、とは言った。だが今メイヴが挙げた物らが産み出す利益は、MEADの裏側の利益の半分近くをゆうに越えてくる。しかも権利を譲渡する、ということはその利益は永続的にUGFクリード側のものになるということであり、またそうした直接的関係を強く持つことはMEADにとっても危険性を高めることになる。ヘクトールがらしくもなく驚きを見せるのも無理はない。

メイヴはなんでもないように笑みを深くする。
「だってクーちゃんを裏切るような真似をしたんですもの。これでも安いのではなくて?」
「は、はぁ………」
ヘクトールは完全に度肝を抜かれている。今回の案件は実にヘクトールを混乱させているようだ、この数ヵ月で実に多様な彼の表情を見てきたような気がする。
――などと、どうでもいいことに感心している自分も相当動揺しているらしい、と他人事のように思いながら、オルタはメイヴを睨み付けた。
「何が目的だ」
「一つは本当に贖罪の意よ。だから裏側の利権の7割をあげるわ。命は金銭には変えられないでしょうけれど、だからといって絶対に金銭で購えない、というものでもない。もう一つはあの忌々しい女に嫌がらせ程度の仕返しはしてやったけれど、まだ足りないから。その為の投資とでも言えばいいかしら?」
メイヴは怯むことなくオルタの目を見返し、そうはっきりと宣言してきた。
―目を見る限り、嘘をついている様子はない。元よりこの女が自分に嘘をつくことは早々になかったが、だからといって正直者であるわけではない。
オルタはそんな彼女を鼻で笑う。
「ハッ…またUGFクリードを利用する気か?」
「クーちゃんに助けてもらおう、なんて思ってはいないわ。私がクーちゃんを助けることはあっても、その逆はない。言ったでしょう?これは投資だと」
「…………」
「それとも、やっぱり命でしか購えないかしら?」
「………ふん。ヘクトール」
「、おう」
外野に弾かれていたヘクトールが、オルタの声に素早く反応を返してくる。
オルタはくっ、と首をあげ、ヘクトールを仰ぎ見た。
「足りんのか」
「…!まぁ、結構釣りが来る程度には?」
「………ならいい。一先ずはな」
オルタはヘクトールの返答に一旦目を伏せると、すぐにそう答え、身体を起こした。立ち上がったオルタに交渉の終わりを見たか、ヘクトールはふぅ、と息を吐き出し、ソファーにかけていた上着を手に取っていた。
「メイヴ」
「…………」
オルタはわずかに腰を屈めると、座ったままのメイヴの顎を掴み、くい、と上を向かせる。

「次は、ねぇ。何を敵に回そうともな」

そうしてそう、釘をさすように言葉を刺す。
オルタにしてみれば、いつ、どこで、誰と戦争になろうとも構わなかった。何が敵になろうと、オルタは屠るだけだ。それが、彼が自分に定めたあり方だ。
だからメイヴが敵に回るというのであれば、倒すだけだ。今殺さないのは、不釣り合いにもいつの間にか背負うことになっていたものたちへの、ある意味での義理立てでしかない。

そこまで思って、ふと脳裏を過った1つの影。
果たして、自分がヘクトールの言葉通りにCPAとの戦闘を避けることにしたのは、そんな自分にとっては些細な義理立ての為だろうか。
「(…………いや、ある意味では……。…ハッ。オレも大概、“あの二人”と変わらねぇということか。くだらねぇ、ほだされたもんだ)」
「………クーちゃん?」
「帰るぞ、ヘクトール」
「、へいへいっと。それじゃあお嬢、それではまた」
怪訝そうなメイヴの声に現実に戻される。オルタはぴくりとも表情を変えずにそう言うと、メイヴの顔から手を離し、踵を返した。

この街の太陽は沈まない110

「アンタ、その始末に仙桃を使ったろう?なんでだい?」
「?なんでって、いつもそうしてるじゃない。CPA関係者がいたのに貴方がすんなりOK出してくれたのは、確かに少し意外だったけれど」
「…………ふむ。お嬢に自覚はなし、か」
「ちょっと待って、何よ?」
メイヴの顔が不審に歪む。うーん、とヘクトールが困ったように呻いた。彼はわりと本気で困っているようだ。
仙桃が利用されたらしいことを、そういえば報告されていたな、とオルタは今さらながらに思い出す。
「………CPAの間諜なんじゃねぇのか」
「まぁ、それ以外考えられないけどねぇ、ちょいと優秀すぎるというか…調査してもわからなかった、つって死にそうな顔してたぜぇ?」
「………なんとなく察したわ。でもそうね、許可が紙面なのでしょう?なら、贋作はそう難しくないかもね」
「………。と、いいますと?」
そう難しくない、と断言されたヘクトールは一瞬黙ったのち、へら、と笑ってそう尋ねた。それなりに気を使っている許可手法であるのだ、簡単に打破できると言われてしまえばそう気分はよくないだろう。
メイヴは顔に出しはしなかったヘクトールの変化に目敏く気が付いたか、困ったよう笑いながら両手を振った。
「気を悪くしないでね。でも彼女…レオナルド・ダ・ヴィンチはね、学生時代、稀代の天才画家として名を馳せていたのよ」
「!…そういえばそんな話もあったな」
「画家であるのなら、どれだけ仙桃がチェックしているのかはしらないけれど、サインや封蝋のようなものなら、偽造するのは他愛ないことだと思わなくて?贋作が難しくない、というのはそういう意味よ」
「…だけど、CPA関係者がいただろう。なんで奴が贋作作る必要がある?」
「念には念を入れて、CPA関係者だ、というのは貴方にしか分からないような表現を使ったわ。あの天才でも、そこまで察するのは無理なはずよ。それでも贋作を作ったのはパーティーでクーちゃんと接触していたのは見ていたでしょうから、私とそちらの接触を限りなく少なくするためか、仙桃のことで不審を抱かせたかったか…そんなところかしらね」
「………で」
「あぁ、話がそれたわね、ごめんなさい。さしものダ・ヴィンチも仙桃の技は見破れなかったようね、皮肉は言われたけれど証拠は掴まれていなかったわ。あとは普通に、時期を見計らってワクチンの開発に着手、完成させたわ」
「…まぁ、受けたかどうか、と言われたら微妙なところですが、なんでそれをこちらに明かすことはしなかったんで?」
メイヴの告白はどうやら終わったらしい。そうして、ヘクトールがそんな問いを口にする。それにはメイヴよりも先にオルタが突っ込まざるを得なかった。
「何言ってんだ、テメェ?いつからメイヴの下僕になり下がった?」
「や、そんなつもりはねぇよ」
「貴方の言いたいことは分かるわ、ヘクトール。私が早い段階で明かしていた方が、そちらの損害はより少なくすんだだろう、ということでしょう?」
ヘクトールに助け船を出すかのようにメイヴが口を挟む。
「ま、それもありますが」
ヘクトールは僅かに拍子抜けしたようにメイヴを見たが、すぐに笑ってそう返した。
「ごめんなさいね、スパイを始末してもらうまで、監視の目から逃げられなかったの。彼女もまさか、ちゃんと確認してその上で自分が作った贋作で、自分のスパイが証拠を残されずに始末されるとは思わなかったでしょうね」
「…お嬢の依頼状も、文面だけ見ればただの桃の発注書だからなぁ」
「………ふん」
「あぁ、脅迫に使われた名簿はウチのにちゃんと始末させたわ、そこは気にしないで」
「大体事情はわかった。仙桃の奴等も、そういう事情なら仕方ねぇか。これ以上戦力を削るのはウチとしても痛手が過ぎるからなぁ。で、どうします、ボス?」
大体の事情。
メイヴは自らの裏組織との関連の証拠を餌に、CPAの犬となった。
だが、脅迫に使われた名簿も、MEADに潜り込まされたCPAのスパイも消したという。その上今後MEADは開発したワクチンでそれなりに利益を得るだろう。
弱味を握られても、最後にはそれを覆し、成果と利益を掴みとる。
なるほどそれは非常にメイヴらしい。メイヴは自由奔放に見えながらも弱点を克服する努力をすることができる人間だ。彼女が表と裏の両方と付き合いつつ、安定して成立していられるのはこの強かさと優秀さが理由にあるのだろう。

だが、そんなものはオルタには関係ない。

「…で、どう言い訳するつもりだ?」
とはいえ、メイヴを消してしまってはCPAに格好の理由を与えることになる。それはできない。
メイヴとて、そんなことを話したくらいでオルタが納得するとも許すとも思っていないはずだ。その程度が分からないほど、短い付き合いではない。
続きを読む
<<prev next>>