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この街の太陽は沈まない72

「……チッ。逃げられちまった」
「………まぁいいさ、オレたちも逃げるぞ。ChaFSSにあいつらが追ってる案件を嗅ぎ回ってることがばれるのも面倒なことになる」
「ほーい」
“ランサー”は残念そうに女王蜂が消えていった方を見た後、早々に別の路地へと駆け出していった“キャスター”を追うべく、槍を折り畳んでしまって、地面を蹴った。



 「うわ」
万屋に帰りついた二人は、“キャスター”がまず開口一番にそう言葉を漏らした。その顔は普段の端正で落ち着いた赴きが予想できないほど露骨に歪んでいる。
そんな“キャスター”の視線の先にあるのは、“ランサー”が女王蜂を蹴り飛ばしたことで破壊された扉の残骸だ。げ、と、“ランサー”はその時のことを思い出す。あの時は発砲を阻止するためにも手段を選んではいられなかった。
「あー…わり、さっきの野郎に室内で襲われたからつい」
「……おまえが修理しろよ」
「あー、ついでにいうとナーサリーも壊されてっぞ、中で」
「………だよなぁ。まぁ、そっちはまだ予想がついてた…」
“キャスター”はじとりと“ランサー”を睨んだあと扉の修理を言い付け、ナーサリーも壊されたと言われると、深々と疲れたようにため息をついていた。
とはいえ“キャスター”は早々にその辺りのことには諦めをつけたらしい、扉のなくなった入り口から店の中へと入っていった。
「……さて、オレはもう一仕事するかねぇ」
“ランサー”は道路に散らばったままの扉を見下ろしそう呟くと、店内のカウンターに荷物を放りおき、破片へと手を伸ばした。


「……なぁそういや“ランサー”よ」
“キャスター”が不意に“ランサー”へと問いかけた。
「お前、さっき女王蜂のところでなにか言いかけてたよな」
「ん?あぁ…オレもこの前、所属不明のやつに襲われたんだよ。あっさり逃げてったから、よそのチンピラにでも絡まれたかと思ってたんだが」
「……かき回してる輩の関係者……って線の可能性はあるな」
“キャスター”はもっていたファイルをぱたり、と閉じ、組んだ指を唇に添え、考え込む仕草を見せた。“ランサー”は、くわえていたタバコの煙を、ふぅー、と吹き出す。
「なんか特徴はあったか」
「いや、なーんも。年も格好もバラバラ。体術には多少精通しているみたいではあったがな、ま、そんだけだな」
「…………なぁ、“ランサー”」
「おう、なんだ、“キャスター”」
「往々にして、情報をかき回すことのできる奴っていうのは、全部の情報に手を届かせることができる立場の人間であることが多い」
「………??おぉ」
「ChaFSS、UGFクリード、そして雀蜂。その三者の情報を掴むことができるのは、この3つのうちの、どこに近い存在だと思う?」
「あ?………まぁ…雀蜂は外部組織だし関係組織も特にねぇんだよな?なら、雀蜂はとりあえず論外だろ。となると残りはUGFクリードかChaFSSだが…どうにも、UGFクリードじゃあねぇ気がすんな。オルタの奴がそんなまどろっこしいことするか?そもそも、目的はなんだ。UGFクリードは今回の件では結構被害も出てる方だろ」
「だよなぁ。そうなると、ChaFSS関係者が一番怪しいよなぁ、“ランサー”?」
「……………、まさか」
“ランサー”はなにかを含むような口ぶりの“キャスター”の言葉に、ややあってから“キャスター”を振り返った。浮かび上がったのは、一つの可能性。
「……だが、被害が出てるのはUGFクリードの構成員だけじゃねぇ、むしろ街の住人の方が割合としてはずっと多いぞ」
「だが、動機はある」
「なんだと?そりゃなんだ」
「………ま、とりあえずはここまでだ。あとは想像に任せる、オレもまだ確たる尻尾が掴めた訳じゃねぇ。…が、今回女王蜂の話を聞いてみて、オレはその可能性が高いと踏んだ。精々気を付けろよ“ランサー”、敵は存外、近いかもしれねぇぜ?」
「……………おう。わかった」
“ランサー”はそう返答すると、吸っていたタバコを握り、消した。
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