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この街の太陽は沈まない69


話は変わるが、“ランサー”はとても足が速い。バイクや自動車は怪しいが、自転車に乗るくらいだったら走った方がずっと速いし楽、というのは本人の言葉だ。両足についたしなやかな筋肉が地面を蹴る際の跳躍を助け、次の足を出すその回転を容易にさせる。
そして、“ランサー”は動体視力もよい。彼がこのご時世に飛び道具ではなく、槍を愛用するのはそれが理由のひとつだ。さらに、“ランサー”は、自分は射撃がそこまで得意ではない、と思っている。なんでも、標的を目で見定めて、そこからわざわざ銃の標的を設定し直す、そのワンテンポが億劫なのだそうだ。だからそのワンテンポのない、ナイフや槍を好むのだ。


それ故に、引き金が引かれた直後に撃ち出された弾を避けることは、“ランサー”にとってできないことではなかった。

「!」
男は一瞬驚いたように“ランサー”を見たのち、にやり、と小さく笑って今だ薄暗い路地裏の方へと飛び込んでいった。
逃げるつもりか、あるいは暗がりから狙撃でもするつもりか。
どちらのつもりでもいいが、まどろっこしいものは好まない。
「逃がさねぇよ」
“ランサー”は低い声でそう呟くと、彼を追って勢いよく地面を蹴った。



 路地裏は“ランサー”にとって庭のようなものだ。足音の反響からどこにどれだけ行っているのかなど、手に取るようにわかる。
“ランサー”はそうして足音を頼りに男の位置を探り当て、十字路に差し掛かった彼の走る先に飛び出した。
「!…成る程、地の理はそちらにあるというわけか」
「おう。そっちが喧嘩を売ってきたんだ、逃げんじゃねぇよ坊主」
「おや、挑発はしたが喧嘩を売ったつもりはないのだがね。余程堪え性のない性格と見える」
「は、伝わらねぇ冗談しか言えねぇくせして偉そうにしてんじゃねぇよ、たわけ」
「まぁ、どちらにせよ貴様がほいほいとついてきたのはこちらにとっては好都合だ」

――カチャン、と、スライドが滑る音がした。

“ランサー”はその音が耳に届いたのとほぼ同時に高く跳躍し、男がいた道の、それ以外の3本の道に飛び出してきた雀蜂の銃撃をかわした。男は待ち伏せ作戦を取っていたようだ。
そのままくるくると空中で回転してさらにそこから高度を高め、“ランサー”から見て両サイドにいた雀蜂に、目にも止まらぬ速さで引き抜いた二丁のハンドガンで適当に撃ち抜いた。
「!」
それぞれ胴と足に着弾した雀蜂は派手に出血し、その場に崩れ落ちた。先述した通り、“ランサー”は銃撃は得意ではない(と思っている)し、好きでもない。だからこそ、「どこにあたっても相当の威力が出るように」破壊力に特化したハンドガンを使っていた。たとえば、今使っているデザートイーグルは狩猟銃として用いられることもあるし、オートマグに至ってはボディーアーマーキラーとすらいわれる代物だ。“ランサー”のように扱いに長けた人間が持てば、相当の殺傷力が産み出されてしまうだろう。
「よっと」
ランサーはその二丁をホルスターに戻すと、跳躍ざまに放り投げていた槍を空中でキャッチし、もう一人、己の背後にいて、今は呆然と自分を見上げている雀蜂に空中から襲い掛かった。
逃げる間もなく、雀蜂の胴体を赤い槍が貫く。“ランサー”はそうして、男が自分に銃口を向けていることに気が付いていたので、槍を死体ごと振り上げ、回転の勢いで男に向けて死体を投げつけた。
「!」
バン、という破裂音が聞こえ、空中を飛んでいく死体が小さく跳ねる。丁度よく盾になってくれたようだ。
男は数歩下がり、飛んできた死体との直撃を避けた。ランサーはくるり、と槍を回し、下段に構えた。
「…で、なにが好都合だって?まどろっこしい女々しい男だな」
「……ふむ。何でも屋を称するだけはある、ということか」
男はそう言って小さく肩を竦めた。
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