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この街の太陽は沈まない58

「く……ッ」
ぎちぎちとスナイパーライフルが鈍い、嫌な音をたてる。切断される様子はなさそうだが、何度も食らえば壊れない保障はない。
男はマントを脱ぎ捨てたようで、ChaFSSの制服姿だった。色々と装備しているようだが、ナイフを隠し持てるような大きさの装備はなかった。
「一体どこからそんなものを…ッ」
「何、はじめから持っていたとも」
「はじめから?」
意外にも会話に乗ってくる男を気味悪く思いながらも、アンは男を探る。男は最初からナイフを持っていたと言う。だが、そのような装備があったとは、思い返しても思えない。
そこではた、と、気が付く。先程まで持っていて、今持っていないもの、それがある。
「………まさか、弓?!」
男はアンの言葉にニヤリと笑い、交差していたナイフを振り払うようにして、アンを弾き飛ばした。
「ぐぅっ…!」
弾かれた拍子に体勢を崩し、もんどりうって尻餅をつく。アンは足を大きく円を描くように回し、その勢いで身体を起こした。
男が今持っていないもの、それはあのゴツゴツとした弓だ。置いてきたのかとも思ったが、この状況で装備を放置するというのはいささか妙だ。サイズ感から考えて、ナイフ2つを弓の本体とし、鞘の一部を改造して弦を張ることができるような構造にしていたのだろう。
男はくるくると手の中でナイフを回し、逆手に持ち直した。
「…あぁそうだ、ついでだから一つ聞いておこう。君、青い髪に赤い目の青年を見た覚えはないかね」
「……?さぁ、知りませんわ。なにか関係あるのでして?」
「…そうか、ならいい」
「質問なら、私の方もしてもよろしくて?」
「…内容によるがね」
男はそう言いながらも、アンの言葉を待たずに地面を蹴った。素早く繰り出されるナイフを正確に、スナイパーライフルを犠牲にしてしのぐ。
「オレンジ色の髪で赤い瞳の青年を見た覚えはありません?」
先程アンに訪ねてきた男は、間違いなく今回の件に絡んで行方不明になるなり消息をたつなりした人物なのだろう。そう思ったアンは、ついでにラーマのことを聞いてみることにした。
ChaFSSが行方を知っているとは思わないが、最近ChaFSSがこちらを探っているらしいという話は聞いていた。なにか見たかもしれない。
「…………君の口ぶりからすると、広報担当のラーマのことか。最近見た覚えはないな」
そう期待してのことだったが―その上、ばっちりバレてしまったが―、どうやら知らないようだった。
アンはナイフを抑えながら肩を竦めた。
「あら、そうですの。それはよかった。ところで、さっきの貴方の仰った青年はChaFSSの方かしら?」
「さぁ、どうだろうな。それにしても、君がこちらの顔を知らないとは意外だな」
「生憎と私、仕事をする相手に二度会う機会がないものですので!」
「!」
アンはそう言うと、思い切りスナイパーライフルを下から振り上げた。男は顔をそらし、後ろへと跳んで距離をとった。
「アン!!」
「!ナイスタイミングですわ!」
さて、どうしたものか、接近戦になれてはいない、とアンが思ったその丁度のタイミングで、聞きなれた相棒の声が耳に届いた。
階段を上ってきたらしい、扉を派手に蹴り開けて、カトラス剣を持った相棒、メアリーが姿を見せた。彼女なら近接戦闘に慣れている。
「チッ」
男は小さく舌打ちしたが、焦った様子は見られない。
「アン、こいつ、生け捕りだって」
「生け捕り?まぁ…確かに、気になることはいくつかありますものね」
「ほう、それはそれは」
男はメアリーの言葉に意外そうに目を見開き、どこか楽しそうな表情で腰を低く落とした。
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