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この街の太陽は沈まない56

――Episode [-4 <アン・ボニー>――



┃ 7/10 22:26:43 ┃

「ッ!」
真っ直ぐに頭を狙って放たれたそれを、アンは反射的に避けた。外れたそれはガァン、と鈍い音を立てて屋上に突き刺さる。
それを振り返って確認すると、それは鉄でできた、矢のようなものだった。
「!」
そして、その矢の羽根とおぼしきパーツが突如、鈍い音を立てて開いた。アンは反射的にその場を跳躍して別の建物へと移動する。その直後、その矢は半径1メートルほどの範囲に電磁波を放った。
「狙撃?それにしても…矢?」
素早くアンは周囲に視線を向ける。その矢の放ち手は存外すぐに見つかった。
鉄製なのだろうか、ゴツゴツとした造形の弓を構え、真っ直ぐに自分を見つめている白銀の髪を持つ男がいた。
「………」
エナメル質か、やけに光を反射するマントのようなものの下に特徴的なChaFSSの制服を纏っていることから見て、ChaFSSの一員であることは確かだろう。戦車を持ってきているらしいことから見ても、どうやらChaFSS側は総力でこの場に来ているらしい。
「…貴方は……ごめんなさい、私、ヘクトールほど詳しくないので」
「何、見たままのものだよ。しがない狙撃主さ」
「狙撃主がそのように目立つものではありませんわ」
「フッ、その言葉はそのままお返しするよ」
む、と、男の言葉にアンは自分の格好を見下ろす。
丈の短いチューブトップに、ストッキングの上にはいたショートパンツ。その色はすべて黒に統一し、彼女にしてはひどく地味な格好で赴いていた。
男はそんなアンの様子にアンの不服に気が付いたのだろう、くすりと愉快そうに笑った。
「目立たないためには、その派手な金髪を隠すべきだと思うがね」
「まぁ。それでしたら、貴方もとても目立ちましてよ!」
アンは狙撃に用いていたマスケット銃を真っ直ぐに男へ向けた。屋上に障害物はない、狙撃ではなく、これはただの銃の手腕の戦いになる。

そう、アンは思った。
だが男はニッ、と口角をつり上げた。

「言っただろう、手を抜かないでいい理由ができたと!」

男はそう言うなりマントについていたフードをかぶり――姿を消した。

「ッ!消えた…?いや、光学迷彩!?」
アンは一瞬混乱したが、あのやけに光っていたマントを思いだし、それが光学迷彩によるものだと判断した。
だが光学迷彩の開発をChaFSSがしていたとは聞いたことがない。ChaFSSは確かに警察組織だが、そのアナロディックなやり方は軍隊らしからぬものであった。現に目の前の男にしても、狙撃主といいながらスナイパーライフルではなく、弓矢を用いる始末だ。
しかし、そうした印象にとらわれ、ChaFSSを見誤っていたらしいことは認めねばならない。それを今どうこう言っている場合ではない。
アンは直ぐ様その場から走り出した。アンを狙っているのだろう、走り抜けた直後、その背後に矢が突き刺さっていく。
「…ッ!」
アンは屋上にある扉部分の背後へと隠れた。とはいえ、いつ“背後”でなくなるかは分からない。
「ッ、ヘクトールごめんなさい。狙撃主が来てしまったわ」
『あ?それで?』
直ぐ様耳につけていたインカムから無線をヘクトールへと飛ばす。ヘクトールはすぐに返事を返してきた。
アンはマスケット銃を屋上においた。愛用の武器だが、今はコストパフォーマンスが悪すぎる。
「それが彼、光学迷彩使っているようで。さすがに見えない狙撃主相手に子どもを追うのは難しいですわ、応援をいただきたいのですが」
『光学迷彩?…なるほど、そんなもんまで持ってきてんのか。あいよ、分かった。メアリーはそっちで使え!』
「ありがたく!メアリー!」
『聞いてた!すぐ行くよ、アン!』
無線から聞こえてきた相棒の声に、アンは薄く笑みを口元に浮かべた。
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