*弱ペダと獄都事変の混合夢小説です。
*獄都夢主が弱ペダ世界で生活します。
*旧箱学三年生で基本荒北君寄りです。
*荒北君と面識有で正体もバレてます。
*今回の出演は福富君。忌瀬視点語り。
*人間と人外の強さに於ける相違点譚。



【:†異なる強さと重なる色の譚†:】



(射し込む光の底に隠していた瞳の色)
(それが意味する処は未だ誰も知らず)



他人とは違うモノが見える世界。
人間では無いモノが見える世界。

ほんの些細な処から色彩は溢れ。
重なり合った視点から光が綻ぶ。

「……うわぁ。やっちゃったなぁ」

それは術の定着が揺らいで不安定な日。
何度同じ術を施しても、瞳の色だけが上手く行かず、人間離れした獄卒特有の瞳の色を誤魔化す為に、使い慣れないカラーコンタクトを着けたのが見事に災いした。

不幸中の幸いだったのが、移動教室での授業で別棟に向かう途中だった事だ。距離的な問題で、早めに移動しなくては授業に間に合わない為、廊下に人の気配は無い。

授業に遅れて仕舞うのを覚悟の上で、私はコンタクトを捜す。私が着けていたものは、獄都で作られている獄卒専用の特注品だ。紛失だけなら良いが、現世の物体で無い以上何が起こらないとも言い切れない。

そう思考した処で、廊下に親しい人間の気配を感じ取った私は、思わず身を固くする。正体がバレている荒北君なら話は早いが、残念な事に、どうやら違うようだ。

「……そこにいるのか喜瀬か? そこで何をしている?」

「あ、福富君。ちょっとコンタクトを落としちゃって。今捜しているとこなんだ」

コンタクトが外れて仕舞った右目を隠し、私は福富君を見上げる。てっきり先に移動教室に行っていると思いきや、まさかの人物との遭遇に内心やや冷や汗が浮かぶ。

「そうか。この辺りで落としたのか?」

「えっ!? いいよ、そんな。福富君まで授業に遅れちゃうよ?」

自然な流れで廊下に腰を下ろす福富君に、私は思わず制止を掛ける。しかし、そんな私の制止など何処吹く風な様子で、福富君はコンタクトを捜す姿勢に入っている。

「問題無い。先生が言っていたが、今日の授業は視聴覚室での映画鑑賞だそうだ」

「えっと。芸術から暗号を割り出して、歴史を紐解くって内容だったよね。でもあれ、レポートが有った様な気がするけど」

「感想文では無く、映画に出て来た作品と時代背景を調べ、当時の歴史についてまとめるものだと聞いている。美術と世界史の二つを学ばせる狙いが有るのだろうな」

「へぇ……じゃなくてっ!! 授業に遅れちゃうよっ!! 私の事は良いから、福富君は先に行ってて大丈夫だからさ」

「いや、良くはない。お前が困っている時点で、大丈夫ではないだろう」

だから手伝おう。そう言い、福富君はコンタクトを黙々と捜し始める。こうなった福富君を止める術は無い。良しとした事を貫く人格者の福富君は、荒北君や新開君とはまた違った面倒見の良さを持っている。

強面で言葉足らずで不器用な福富君だが、その心根はとても真面目で誠実なのだ。

生者の中でも、善良と言われる部類。
その人間の手を獄卒が煩わせていると言う現状に、若干の罪悪感が湧いて来る。

「喜瀬。お前が捜していたのは、これで合っているか?」

「えっ!? 早っ、もう見付けたの!?」

片目を隠していたとは言え、まさか先を越されて仕舞うと思って無かった私は、驚きから声を上げる。福富君の指先には、私の捜していたコンタクトが乗っていた。

「……うん。私ので合っているよ。ありがとう、福富君」

「ああ、見付かって良かったな」

そうして、指先に乗ったコンタクトを福富君から受け取ろうとして、私はコンタクトを落とさない様にと、咄嗟に両手を出して仕舞った。それに気が付いたのは、手の影に隠していた右目が光を得て、珍しく驚いた表情の福富君を映してからだった。

「…………あ」

血の気が引くと言う感覚は久々だった。
気付けば、顔を隠す様に俯いたままの状態でもって、廊下にしゃがみ込んでいた。

見た。見られた。見られた。見られた。
如何しよう。如何しよう。バレた。バレて仕舞ったかも知れない。如何しよう。

「緑……いや、黄緑色の瞳か。その系統の色は、世界的に珍しいものらしいな」

「……え?」

頭上から降って来た言葉に、動揺していた意識が次第に静けさを取り戻して行く。

「喜瀬、その色は生まれつきか?」

「……うん。でも、他の人とは違うから、いつもは色を隠してるんだ。周りに気を揉ませたくないし、驚かせたくないから」

「そうか。ロードはヨーロッパが主流だ。向こうのレースを見ていると、稀にお前と似た瞳の色の選手を見掛ける時が有る」

福富君の短い返答に、私は徐に顔を上げる。鉄仮面と称される強面な表情は、いつもと変わらないながらも、何処か見守ってくれている様な雰囲気を浮かべていた。

「……福富君は、私が怖くないの?」

「怖い? 何故だ?」

「普通と違うのは、怖い事でしょ?」

ほんの些細な隙間から声が零れ。
滴り落ちた先から波紋が広がる。

「違っている奴は強い。他人と異なる意思を持つ者は、その意思を貫こうとする」

だから強い。信念を持つ者は強い。

そう答える福富君は、自分の言葉に強い確信を抱いていた。自身が強いからこそ、高みを目指そうとする者たちの強さが分かるのだろう。型に填まらず。自分たちの意思を、ただ直向きに貫こうとする強さが。

「お前も同じだ。路の上では無く、裏方としてサポートを徹底してくれているお前も、お前だけの強さを持っているはずだ」

「……うん。そうだね」

福富君の言葉に、私は静かに首肯する。

「そうやって、皆を支えられる事が、それが私の強さだったなら、嬉しいな。だってそれは、とても誇らしい事だもの」

獄卒時の任務の際には、前線で怪異と対峙する同僚たちのサポートに徹している。
それが功を奏して、人間時のマネージャー業に活かされている。発揮される能力や強さの種類は違えど、誰かを支える事に長けていると言うならば、それは誇りだ。

「お前の瞳の緑は、芽吹きの明るい色だ。春の名を持つお前に、相応しい色だ」

だから、自信を持て。お前は強い。

そこに他意は無い。仲間を気遣う純真な想いだけが、鼓膜を揺らし、胸に染みる。

「――うん。ありがとう、福富君」

静かに差し伸べられた手を取り、立ち上がる。そこからの風景は、いつもよりも幾分か、色鮮やかに輝いて見えた気がした。

ほんの些細な音色から心が震え。
強くなる意思の在処を指し示す。

他人とは違うモノが見える世界。
人間では無いモノが眺める世界。



(降り注ぐ優しさの前で見せた瞳の色)
(それは直向きな強さと想いを介する)



【:†異なる強さと重なる色の譚†:】



《続》





>>>>次回予告



「ねぇ、『先祖返り』って知ってる?」


それは、神様の約束とは異なる呪い。
異なる血脈が混ざり合い交ざり合い。

世代を越えて覚醒した一人の血脈は。
生きている衝動と歓喜に翼を広げる。


「なまじ本物の翼を持たなくても、風を上手く捕まえられるから、変なモノに目を付けられやすいんだよ。あの子は」


獄卒の不安を置き去りにしたままで。
自由奔放に天真爛漫に路の上を走る。

人間の肉体で産み落とされた血脈は。
両翼と共に何処まで走り続けるのか。



《次回》
【:†見えない翼を追い掛ける譚†:】



(※すいません。次回予告とか書いてますけど続きません。次回は後書きです!!)



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