スポンサーサイト



この広告は30日以上更新がないブログに表示されます。

俺と虎

※凍て花×黒バスパロです。

夜、信はいつものように優人へ電話をかけた。信はテスト期間中などをのぞいて、なるべく遠く離れた弟たちとのコミュニケーションを大切にしようとしている。特に、幼い時に離れてしまった優人のことは気にかけており、毎日のように電話やメールを送る始末だ。ちなみに、次男の方は電話しようとメールしようと返事が返ってきたことはほとんどない。

『もしもし、信兄?』
「やっぽー優人。どう?今日の学校生活は」
『今日はね、家庭科で調理実習をしたよ』
「へぇ…なに作ったの?」
『今回はお菓子作りがテーマだったから、簡単なマフィンにしたよ。あんまり凝ったモノ作ると時間内に作り終わらないし、失敗することが多いから』

和尚に預けてからすっかり料理上手になった弟につい苦笑をこぼしてしまう。次男の方は、いつまでたってもカップラーメンと蕎麦から進化せずにいるというのに…。そのせいで、同じ都内に住む信は、たまに次男のアパートに行って夕飯を作ってやらなければならないのだ。

「そっかぁ…出来あがったマフィンは柳元さんと食べたの?」
『うーん…その予定だったんだけどさ…なんか、校門前におなか減りすぎて行き倒れてる人がいて』
「それは…珍しいね…」
『うん、まあ……それで、その人にマフィンあげたら、どうやらその味が気に入ったらしくて……バスケ部のマネージャーになった』
「うん?優人、ちょっと過程を2、3段飛ばさなかった?」
『いや、俺もなんか、いまだに混乱してるから、ちょっとその過程を上手く説明できる自信がない…』
「そう…」

またこの弟は変なトラブルに巻き込まれたんだろう、と信は確信した。どうも優人は昔から、トラブル自体、またはトラブルを巻き起こすはた迷惑な人間に好かれやすく、本人の意思に関係なく、トラブルの被害に会うのだ。まあ、マネージャーになったというだけなら、トラブルとしては軽い方だろう。多分。

「バスケ部か…懐かしいな…」
『まあ、俺がマネやるのは高等部のバスケ部なんだけど。なんか、選手を狙った悪質な盗撮があるんだって、だから中等部で男っていうあんま関係性のない俺が採用されたんだと思うけれど…』
「それは…」

少々厄介かもしれない。信の眉間に微かに皺が寄った。
軽いトラブルだろうと思っていたが、意外と根深そうだ。盗撮されるということは、それほど人気があるというわけだし、マネージャーを希望する女子生徒も多いだろう。それを差し置いて優人がマネージャーをするとなると、とうぜん恨みや僻みも優人に向く。

「……優人、余計な心配かもしれないけれど、くれぐれも気をつけるんだよ?」
『分かってる。女子から不満は向けられるだろうし、俺を経由してあわよくば選手と親密になろうとする人が現れる可能性だってあるしね。なるべく波風立たせないようにあしらうよ』

やはり優人も、そこは懸念しているらしい。まあ、もともと人当たりのいい性格をしているし、父の遺伝を受け継いで、優人も口喧嘩ではそうそう負けない。
だが、兄の立場としては、やはり不安が大きいわけで…。

「優人、何かあったらすぐに俺に連絡するんだよ。俺は、家族を傷つけられるのが大嫌いなんだ。だから、少しでも危険を感じたら、頼ってほしい」
『信兄……』
「……いざとなったら、ユウも母さんも父さんも巻き込んで完璧な包囲網しいて、社会的にも肉体的にも精神的にも復帰不可能にして、観野の名を聞いただけで震え上がるような状態にしてあげるから」
『やめてぇぇええええええ!!あんたたちがそろったら本気でそれぐらいしちゃいそうだからやめてぇぇぇええ!!』
「あははっ、いやだなぁ、優人。愛は必ず勝つんだよ?」
『そんな素敵な台詞に恐怖を掻き立てられる日が来るとは思わなかったよ!!と、とにかく!監督もなるべくフォローしてくれるっていうから大丈夫だよ!!』
「そう?」
『うん!大丈夫!!』

まだ優人が幼い頃は、周りの人々が止めてくれたが、それも今は優人が止めなければいけない立場となった。誰かが止めなければ、この兄は笑顔でさらりと有言実行してしまう。

『ところで…信兄の方はどう?副担任になったんだよね?』
「んー…特に問題ありそうな生徒は今のところいないかな?ただねー…俺の授業いっつも寝る子がいてねー…あははーどうしてくれようね?」
『ほ、ほどほどにね』

すると、部屋にチャイムの音が響いた。

「あ、ごめん。お客さん来ちゃったみたい」
『うん。わかった。信兄無理しないでね』
「優人もね」

手短に別れを済ませ、携帯の電源を切り、首をかしげながら信は玄関へと向かう。時刻はもう7時半を過ぎている。こんな時間に来る来客に覚えはないのだが、はたして一体誰だろう。
疑問を抱きながらも、信は玄関のドアを開いた。

「はーい、どちらさ………ま?」
「えっと…挨拶が遅れてすんません…です。隣に引っ越してきた火神っていうんスけど…って、げぇっ!?」
「………Good evening?火神君…」

それは、信の担任するクラスの生徒であり、信の授業の居眠り常習犯である火神大我だった。

 


とりあえず、あのまま立ち話も何なので、信は火神を家にあげた。適当に火神を座らせ、昨日開けたばかりのコーヒーと、クッキーを用意しつつ、会話をする。

「まっさか、お隣に引っ越して来たのが火神君だったとはね……一人暮らし?」
「最初は親父と一緒に住む予定だったんスけど、入学手続きとか終わってからアメリカに戻ることになっちまって…俺だけここに残った…です」
「ああ、いいよ。敬語苦手なら使わなくて、流石に学校出てまで先生ぶる気はないし」

そのかわり、俺も取り繕わないから。そう言いながら、火神の前にコーヒーを差し出すと、意外そうに目を丸めた。

「先生、学校と若干キャラ違くねぇ?」
「そりゃぁ、生徒の前で「俺」なんて一人称使えないし、あんまフレンドリーすぎるとねぇ…今保護者とかがうるさいから。特定の生徒を贔屓してるーとか言われちゃうしねぇ」
「ふーん。じゃあ、今の状況ってけっこうヤバイんじゃね?」
「これはご近所付き合い」
「……それ、屁理屈って言わねぇか?」
「保護者たちの言い分も十分屁理屈の域だよ。屁理屈には屁理屈で返すのが俺の流儀」

火神は呆れたように溜息をついた。

「ほんっと、あんた学校とキャラ違ぇな」
「あっちもあっちでわりと素なんだけどねぇ…ただ今は、新入生にいきなり化けの皮はがすと脅えられそうだから、表面上は穏やかにしているだけで」
(この教師タチ悪ぃ!!)

火神は、信のとんでもない裏の顔を目の当たりにしたような気がした。実際は裏でも何でもなくて、信の本性の表層部分を垣間見たにすぎないのだが。

「今のクラスの保護者さんたちはわりと友好的だけど、教育実習の時とか大変だったなーモンスターだったよ、モンスター」
「ふーん。大変なんだな、教師っていうのも」
「そう思うなら俺の授業で寝ないでくれなーい?ねぇー?火神君ー?」
「いへぇ!いふぁい!!」

信は火神の頬を強めに引っ張った。

「君さぁ、リスニングは良いけど、筆記、アレなんなの?ギャグなの?マジで採点中目を疑ったんだけどアメリカで一体どんな生活送って来たのかな?ん?」
「にっ、日本の英語が細かすぎんだよ!もっとこう…適当な感じでも通じるし!!」
「開きなおんな馬鹿!言っとくけど、俺のクラスから赤点なんて出さないからね!?期末で赤点取ったら夏休みの半分は補習!!」
「ちょっ、マジふざけんなし!!そんなことになったら俺部活出れねぇじゃねぇか!!」
「ふざけてんのはお前の成績だ!!補習になりたくなかったら、授業で分からない所は聞きに来い!高校生レベルの問題なら英語でなくても教えてやるから!!」

副担任である信は、火神の総合成績もバッチリ知っているのである。あれほど低空飛行の点数を見たのは、次男以来だった。

「とにかく、出されたプリントはやっておきなよ。7割はそこから出されるはずだから」
「ちくしょー…補習なんかになったら、監督にぶっ殺されんじゃねぇか…」
「補習にならないように頑張りなよ。っていうか、火神君って何部に入ってるんだっけ?」
「バスケ部だよ…っつーか、全校朝会で宣言したじゃねぇか…」
「あ、俺そん時出張でいなかったんだよね。へーそっか…バスケか…」

懐かしそうに、しかしどこか寂しそうに細められた目を、火神は不思議そうに見ていた。

「……先生…?」
「ああ、なんでもないよ。じゃあ、明日も部活か。大変だねーまあ、俺も出勤だけど」

土曜日で授業がないとはいえ、教師が学校に来ないわけではない。教師の仕事は意外と多種多様なのだ。

「俺は…ただ、バスケしたいからするだけだし。先生の方がキツくね?」
「まあ、仕事だからね。楽しいことばかりじゃないよ。でも、自分でこの道に進むって決めたから。君がバスケする感覚と一緒かな?好きだから、頑張るし、頑張れる」
「ふーん…」
「ってなわけで、火神君はそれの食べ終わったら自分の部屋に帰ってもう寝なさい。明日も早いんだから」
「いきなり先生モードかよ…ったく、変な人だな…あんた…」

最後にクッキーを二、三枚掴んでお持ち帰りすると、火神は信の部屋から出ていった。ドアの所で「ごちそうさん…です」と、挨拶するあたり、いまどきの若者にしては可愛げがある方かもしれない。
急に静かになった部屋で、信はコーヒーの入ったマグカップを片手に、自室へ戻る。


デスクに置かれたパソコンのすぐ横に立てかけてあるのは、家族の写真と、かつての悪友たちとの記念写真。学生の頃は、こんな腐れ縁なんか、さっさと切れてしまえと思っていたのに、切れるときは、呆気なく切れるもので、お互いの進路を歩み始めてから早一年、顔を合わせる機会もなかった。

「……なんか…久しぶりにあいつらの声聞きたくなっちゃったな…」

久しぶりに、電話でもしてみようか。
信の学生時代を、毎日お祭り騒ぎに盛り上げてくれた、とんでもない悪友たちに。

 


++++++++
おまけ

腐れ縁の夏に電話してみました。

『へぇーバスケ!…いやぁ、ほんま懐かしいなぁ…俺らもあの頃は若かった…』
「今も若いだろ…」
『あ、そういえば、なんや今の高校生はやたらバスケ強い奴らがいるんやろ?』
「え、そうなの?」
『おー、たまに遊ぶストリートのお仲間情報なんやけど…なんか、「キセキの世代」?っていう、帝光中のバスケ部員が、別々の高校に入学したとかどうとか…ネットで「キセキの世代」って検索すれば動画でてくるんとちゃう?』
「ふーん…じゃあちょっと調べてみるよ」
『おー俺もちょっと久しぶりにバスケの試合見てみたくなったわ』


動画見ました。再び夏に電話しました。

「なにこれ怖い」
『若者の人間離れやん!!』
「え、俺らが中学の時のバスケって何?俺らがやってたのって、バスケだよね?」
『落ち着き、信!俺らがやってたのはバスケ!彼らがやってんのはきっとバヌケ!!』
「っていうか、この緑の子ありえなくない!?え、これ物理学とか人間的に可能なの?どうなの?専門家」
『いや、俺べつに理系なだけで物理の専門家や無いんやけど…まあ、不可能ではない。お遊びで長距離から投げて決める奴なんでけっこうおるし…試合中に狙ってやる奴は初めてお目にかかったけどな!!』
「えーえー…優人、今秋田の陽泉通ってて、そこの高等部のバスケ部のマネやることになっちゃったんだけど…まさかいないよね?」
『いや…日本中に学校なんてごまんとあるし、大丈夫やろ』

実はいる。


 

拍手レス

・いつも楽しく読ませてもらってます♪破守大好物です!〜の方≫アリア「は…早口…言葉……」

ラビ「おい、アリアもう顔真っ青になってるさ」

フィア「あーアリアね、普段からよく噛むけど、早口言葉っていわれると余計意識しちゃってドツボにはまるんだよね」

アリア「大丈夫…です……がんばりま、ってスリーサイズも!?」

アレン「………………」

シュッ シュッ

ラビ「悪ぃけど…アレンが向こうで爪やすりでエッジ研ぎ出したから無理さ…」

ロキ「悪いな。俺達も命が惜しいんだ。って、なわけでお題な」

マガリノカナハシノミヤニアメノシタンロシメシシスメラミコト

アリア「あ、の……主要人物の名前ですよね…?」

ロキ「(歴史上の)主要人物の名前だろうが」

アリア「た、確かにそうですけど…」※実在した天皇の名前です

ロキ「……嫌なら、ピカソの名前フルネームで言うか?」

アリア「こちらでおねがいします!」

ロキ「ん。じゃあ、自分のタイミングでいつでもどーぞ。ちなみに、間違える度に、神田がハリセンで引っぱたくからなー」

アリア「ちょっとぉぉおおおお!!あの人ハリセンフルスイングして素振りしてるんですけど!!ハリセンとは思えない音たててるんですけど!!」

フィア「アリアガンバ☆」

アリア「うぅ…こうなったら間違わないでいうしか…!…………マガリノカナハシノミヤニアメノシタンリョ」

スパーン!!

アリア「うっ!マ、まがりのかにゃ」

スパーン!!

アリア「うぅぅ〜!マ、マギャ……!……むぎゃーーーーーーーーー!!!」

神田「っ……!っ……!!」

ロキ「あーあ…神田が笑ってハリセン叩けなくなっちまったからここまでだな」

フィア「拍手どうもありがとー」


・奏流さん≫優人「拍手ありがとうございます、奏流さん」

紫原「ありがと〜」

優人「よかったー見てくれる人いて。黒バスはまっている人他にもいるかなーって、緑、乗せるまでドキドキだったみたい」

紫原「ふーん。で、まだ書く気あんの?」

優人「もうちょっと書いてあるから、それ載せるってさ。いつまで続くかわからないけど」

信「俺も出るんだー。久々の優人との共演!がんばるよ!」

優人「もし暇があったら見てください。拍手、ありがとうございました!!」

俺と巨神兵

※凍て花×黒バスパロです。


家庭科の授業で、帰りが少し遅くなった時のことだった。和尚にも分けてあげようと思って多めに作ったマフィンの袋を抱えて、俺は校門を抜けようとしていた。
言ったところでどうにもならないけど、この学校の正門って中等部から遠いんだよな…。高等部校舎の前にあるから、特に中等部の生徒は通りずらいと感じる人もいるみたいだ。

「……ん?」

校門前についてみると、何やら人だかりが出来ていて、ざわざわと騒がしかった。

(なんだろう…)

ここで、好奇心に任せてしまったのがいけなかったんだと後に俺は後悔する。
人混みの間をするりと抜けて、じょじょにその先頭へと近づいていく。そして俺は、平穏な日常の輪を断ち切ってしまう第一歩を踏み出してしまった。

「……………」

巨神兵がいた。
正確には倒れていた。
いや、そんなことはこの際どうでもいい。デッカ!何コレ本当に人間!?人間だとしても同じ黄色人種じゃないよね、絶対。だって見た感じ2m余裕で超えてんもん。こんな日本人いるわけないもん。
どうしよう。俺、今めっちゃくちゃ小人の気分。っていうか、え、この巨神兵なんで校門前で倒れてんの?復活が早すぎたの?
大混乱中の俺の脳内だったが、とりあえずみんなが校門前で思わず立ち止まってしまった理由はわかった。倒れているものの大きさが規格外過ぎて、声をかけることを躊躇っていることも。もちろん一般ピーポーの俺も例に漏れず、通り過ぎて通行することもできなければ、この巨神兵に話しかける勇気もなかった。
いや、だって、話しかけた瞬間口からあの破壊光線出されたらどうすんの。あんなの数で勝る王蟲ぐらいしか勝てない。っていうか、巨神兵って映画の中では腐ってたから全体像とかよくわかんなかったけど、完全体だとどれくらいでかいんだろう。もし巨神兵が東京都あたりに現れたら…なんて、脳内で勝手に巨神兵を首都に召喚して大混乱を起こす人々を、俺は頭の中で描いていた。

「な、なあ…あんたどうかしたのか…?」

俺の脳内で巨神兵にデイダラボッチがキャメルクラッチをしかけようとしていた時、現実ではウルトラマン並のヒーローが登場していた。あの巨神兵に声かけたよ…すげぇ…あんた勇者だよ。名前知らないけど。
取り合えず生徒A君が声をかけると、巨神兵が微かに身じろぎした。

「…の……る…」
「え?なんて?」
「お菓子の…匂いがする……」

その瞬間、俺は一切の身じろぎはおろか、その場から動くことすらできなくなった。
周りでは集まった生徒たちが「お菓子…?」「あ、ほんとだ。甘いにおいする」と、きょろきょろあたりを見回していた。
そして、全員の視線が、俺が抱えているマフィンの袋に集まるまで、時間はかからなかった。
ヤ バ イ…!
何で顎で巨神兵のいる方指してんの生徒B…!隣の生徒Cは何でさわやかな笑顔で親指立ててんの!?なんか「生きろ」って心のテレパシーで言われた気がするんだけど!!
このまま動かないと、全員の目が殺気立ちそうな気がしたので、俺は仕方なく巨神兵へと接近した。

「あ、の……」
「ん〜?」
「マ、マフィンありますけど食べま」
「食べる」

ヒィッ!言い終わる前に袋掴んできやがった。力強っ!てか、手もデケェぇぇえ…!
おびえる俺になど目もくれず、巨神兵はむくりと起きあがると、バリバリとさっきラッピングしたばかりの袋を破って、中のマフィンを食べ始めた。食うの早っ!!

「ちょーうまい。何コレ、手作り?」
「あ、えっと…今日家庭科の調理実習で…」
「ふーん。そんなのあんだー。じゃあ、アンタが作ったの?」
「まあ…」

同じ班の男子はふざけて全然協力してくんなかったし…。女子は焼き上がったマフィンにどんなデコレーションつけるかの相談に忙しくて、肝心のマフィンをいつまでたっても作ろうとしないし…。痺れを切らして作ったよ、マフィン。班の奴らちゃっかり自分の評価にしてたけどな!!

「ふーん…ねぇ、いくつ?初等部?」
「今年14歳におなりだ巨神兵」
「巨神兵?」
「…………!」

しまった。怒りでつい心のあだ名が…。
やばい…口からかめはめ波吐かれるかも…。でも、俺が無言でいると、巨神兵は興味を失ったのか、また一人でぼそぼそと話しだした。

「ふーん。中等部かぁ…ならまさ子ちんも許してくれるかなー」
「?」
「うん。この子にきーめた」

俺の脳内では電気鼠がモンスターボールの中から勢いよく飛び出してくる映像が流れ始めていた。
俺の相棒…ヒトカゲだったな…育てすぎて何回も反抗期むかえたけど…。
そんなことを考えていたら、いきなり俺の体が宙に浮かんだ。……えっ?

「………えっ?」
「うっわ、軽っ。わたあめじゃん。ちゃんと食べてる?」
「………えっ?」
「じゃあ、しゅっぱつしんこー」
「………えっ?」

次の瞬間、俺は千の風になったかと思いました。
ぎゃぁぁああああああああああ!!
高ぇぇぇえええええええええ!!速ぇぇぇえええええええええ!!怖ぇぇぇえええええええ!!
なんで地面があんな遠くにあんの!?俺この速度でココから落ちたら死ぬ!?死ぬよね!?

「お、おろ、お、お、おろ」
「おろ?」
「おろっ、おろしっ、おろしてぇぇぇえええ!!」
「えー?あと少しでつくし、だめー」
「みぎゃーーーー!」

それから俺は、心の中で必死に念仏を唱えてやり過ごした。

 

 

「遅ぇぞ紫原………って…肩になに引っ付けてんだお前…」
「敦、今までどこに行ってたんだい?」
「あ、室ちーん。俺、この子に決めたー」
「ごめん、敦…順を追って説明してくれるかな…。でも、とりあえず、その子を下ろしてあげたほうがいいね…おびえてるよ?」
「一体何したんじゃ紫原」
「俺なんもしてねーし。ここまで運んできただけだし」

また体が宙に浮く感覚を覚えて目を開けると、足が地面についていた。やった…!ただいま地上!おかえり現実!

「なんじゃい。ずいぶんちっこいのぉ」
「それで、お前はなんで紫原に連れてこられたアルか?」

振り向いたらそこは、巨人の国でした。

「ぎゃぁぁああああ!!巨神兵リターンズぅぅううううう!!」

増えてるー!なんかめっちゃ巨神兵増えてるー!何この巨人!どうすればいいの!?戦えばいいの!?弱点は首の後ろ!?そこ攻撃すれば倒せる!?

「……おい、本当に何したんじゃ、紫原」
「だから何もしてねーし。しつこいとそのアゴ捻り潰すよ?」
「なんでアゴ!?」
「えっと…とりあえず、君の名前を教えてくれるかな?」

巨神兵たちにかわって、人当たりの良さそうなお兄さんがしゃがんで俺に声をかけてくれた。あ…この人もデカイけど、あっちの3人ほど威圧感はない…。

「観野優人…中等部の2年です。その…校門前にそこの巨…紫色の人が倒れてて、マフィンあげたらなぜかココまで運ばれてきました。あの…ここどこですか…?」
「ここは高等部の体育館だよ。見ての通り俺たちはバスケ部の部員で、君を連れてきた紫の人は、紫原敦、俺は氷室辰也。ちなみにさっき君に声をかけたのは、主将の岡村先輩と留学生の劉、向こうにいるのが福井先輩だ」
「………留学生をのぞいて日本人ですか?」
「俺は帰国子女だけど…日本人だよ」

若者の日本人離れが起きている…。確かに日本人の平均身長は年々高くなってるって聞くけど…流石にここの人達は規格外過ぎるだろ。

「ホントになんで連れてきたんだよ、紫原」

さっきの氷室先輩の紹介で言われていた福井先輩が、俺を連れてきた理由を尋ねてくれた。そうだよ、俺親切心でマフィン与えただけだったのに、何でこんな巨人の国に拉致されなくちゃいけないの。

「んー。この子なら大丈夫かなって」
「何がだよ!?」
「この部のマネージャー」
「「……………………………は?」」

俺と巨神兵のチームメイトたちの声が重なった。

「だって、この部のマネージャーこの間まさ子ちんに強制退部させられちゃったじゃーん。代わりに一年がマネの仕事こなしてるけど、正直前ほど機能してないし」
「そう言ったってしょーかねぇだろうよ。前のマネは写真部に金で買われてたんだぜ?」
「だから、中等部なら平気じゃん。写真部と関わることないし、あの時間帯に帰ろうとしてたってことは特定の部活には所属してないんだろうし」
「バッカ!中等部にも写真部はあんだろ!!」
「…………そうなの?」
「……部活勧誘であったかな…そんなの…」
「えー?」
「一体何がしたいアルかお前…」

えーっと、話を要約すると、この巨神兵は俺を高等部のバスケ部のマネージャーにしたいってこと?

「敦…なんでこの子をマネージャーにしようと思ったんだい?」
「この子の作ったマフィン超美味かったから」
「それが理由かよ!?」

上級生なんてこと忘れて俺は思わずつっこんだ。しかも即答したよ今。今までのゆるい喋り方から一変して超ハキハキ喋ったよ。

「結局食いもんか…」
「そんな理由でマネにできるわけないじゃろうが」
「え〜?いいじゃん。この子にしようよ〜」
「うーん…でも敦、今でも高等部の女子生徒からマネージャー希望の入部届けが届いているんだよ?それを差し置いてこの子を選んだら、上級生と下級生の女の子同士の間に軋轢が生じるんじゃないかな?」

………爽やかな笑顔で、なんか聞き捨てならないことイワレタヨ?今。
上級生と下級生の?………女の子同士………?

「……男です」
「え?」
「俺は男です…っていうか、男子生徒の制服着ている時点でわかるでしょうが!!」
「……あ、ほんとアル。ズボンアル」
「わしらからはつむじしか見えんかったから、下はすっかり見落としてたわい」
「いやいやいや、ボーイッシュな女の子じゃね?スカートはきたくなくて、男子生徒の制服着てるとか」
「うるさい!この学生証が目に入らぬかーーーーーっ!!」

俺が付きだした学生証には、性別の所に、きっちりと「男」と記載されていた。

「………驚いた…本当に男の子だ……あっ、いや、敦に担がれてきたからその…小柄に見えて…顔も中性的だったから…」
「いいですよ…どーせ女顔で童顔であなたたちから見ればチビですから…」
「………その………本当にごめん…」

ちくしょう…さっきからなんなんだこの人達は。厄日か今日は。それとも今日のおは朝占いで最下位の上、今日はなるべく早く帰った方が吉、と言われたのにもかかわらず、こんな所で道草くっている俺に対するおは朝の呪いか。
心の中でやさぐれていると、いきなり誰かが背後からのしかかってきた。

「男の子なら問題ないよね〜。同じ男の写真盗撮したりしないだろうしー」
「ちょっ…重っ…!カビゴンかあんたは!!」
「ふふふー。のしかかりー」
「ぎゃぁぁあ!これ以上はホントムリ!!」
「こら、敦!」
「おい、一体何の騒ぎだ貴様ら!!」
「監督!」

どうやらこのバスケ部の監督さんが来たらしい。のしかかり攻撃を俺にかけていた紫色のカビゴンも、いったん攻撃の手を止めてくれた。体はがっちりホールドされたままだったけど。

「あ、まさ子ちーん。新しいマネの子連れてきたよ〜」
「は?新しいマネって………優人…?」
「雅子さん!」

カビゴンが言ってたまさ子ちんって、雅子さんのことだったのか!和尚の行きつけの居酒屋の常連さんで、俺が和尚を連れ戻しに行くとよく遭遇していた。しかも雅子さんは元ヤンで、母さんと律音伯母さんとも知り合い。

「お前監督と知り合いなのか!?」
「俺の母さんと保護者の知り合いデス」
「この学校に通っているとは柳元から聞いていたが…そういえば、彩音さんと律音さんは元気か?」
「超元気です」

今も月に二回くらいのペースでハイテンションな電話がかかってきます。そう言うと、相変わらずお元気そうで何よりだと苦笑を返された。

「しかし、マネージャーっていうのは一体どういうことだ?」
「それは、俺のことがっちり捕獲してるこの人に聞いてもらわないと…」
「ねーまさ子ちんいいでしょ?この子にしようよ、マネージャー」
「確かに優人なら信用できるが……」
「さっきから、盗撮とか盗みとか言ってますけど、そんなに前のマネージャーの人がひどかったんですか?」
「ああ、人気のあるバスケ部員の盗撮を始め、仕舞には私物まで盗んで売っていたんだ。だから、強制的に辞めてもらった」

そういえば、クラスの女の子が何人か高等部の人の写真持ってキャーキャー騒いでたけど…もしかしてあれも隠し撮りだったのかな。だとしたら、かなりの数ばらまかれたんだ…。

「はぁ…そういうことなら、警備兼マネージャーしてもいいですけど…」

雅子さんは、和尚が居酒屋に現れると、いつも俺に電話くれるし…。たまに焼き鳥おごってくれるし。その恩を返せるなら。

「やったー。よろしくねー」
「こんなちびっ子に警備任せて大丈夫アルか?」
「馬鹿、お前らより優人は数倍強いぞ」
「「え」」
「優人」

雅子さんは、持っていたバインダーを構え、俺に言った。

「蹴ってみろ」

俺の蹴りがバインダーの真ん中を直撃し、ボードは簡単に真っ二つに折れた。…ちょっと強すぎたかな…。予定では、くの字に曲げる程度にしようと思ったんだけど…。

「こいつの母親は元暴走族の総長で、今は刑事だ。長男も喧嘩では負けなしだし、次男は剣道で全国大会の常連。そんな化け物一家の末っ子だぞ、この子は。幼いころから護身術と喧嘩の戦法は叩き込まれている。余程腕に自信のある奴でもこの子を倒すのは難しいだろうな」

いまだ呆然とするバスケ部の人達に、俺は戸惑いながらも挨拶した。

「えーと……今日からよろしくおねがいします…?」

とりあえず、今日からマネとしてがんばります。


+++++++

衝動的に書き上げた作品。

設定的なもの→

▼追記

拍手レス

・ジンさん≫リナリー「ほんと、優人ばっかり次々トラブルに巻き込まれるんだから!こっちは気が気じゃないのよ!」

優人「俺だって巻き込まれたくないよ。平和と平穏をこよなく愛してるよ…」

アレン「でも、不運と不穏にこよなく愛されるんですよね」

優人「うわーん!アレンだって本誌では逃走中ならぬ、逃亡中のくせにー!!」

アレン「それでも優人の不運っぷりにはかないません」

ラビ「もし幸運値なんてもんがあったとしたら、優人きっとこのメンバーの中で最下位さ」

優人「うるせぇ!絶対この中の誰かが俺の幸運吸収してんだ!!バキューム並の吸引力で!!」

アレン「そしておそらくその吸引力は変わらない」

ラビ「ダイ●ン!?」

混合夢更新

今回は嵐戦から雨戦に入るまでの少しの間の小話のような感じで書かせて頂きました。その為、さらっと短くまとめています。まあ、次には元に戻ると思いますけどね!
前後編でちゃんと終わってくれるかな…この話…。