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sing sing sing

――――…ある日ののどかな午後。
教団の廊下のある一角では暗雲が立ち込めていた。
仁王立ちする神田と六花の前には、正座する陽菜とアレンとクロウリーの姿が。横を通り過ぎる団員たちは、何事だとちらちら盗み見をしながらも、巻き込まれたくないのか、足早に通り過ぎていく。

「……で?」
「クロウリーに教団案内をしてました」
「迷いました」
「………で?」
「とりあえずひたすら歩きました」
「お腹すきました」
「「………………で?」」
「「前方に六花と神田が見えたので泣きつきマシタ……!」」

ゴロゴロと雷鳴を鳴り響かせていた暗雲から、ついに雷が下りてきた。

「こンのぉ…バカタレ共が!!迷子常習犯三人組で団体行動とか集団自殺以外のなにものでもねーだろ!!」
「どっか行く時は近くの大人に行く場所と帰る時間教えてから行けって何っっべん言ったらわかるんだ陽菜!!」

アレンと陽菜は身を縮めて震え上がる。自分よりも明らかに脅えている二人に、クロウリーは勇気を振り絞っていった。

「り、六花!わ、我輩が陽菜とアレンに頼んだんである!だ、だからそんなに…二人を怒って…ほしくないである…」

クロウリーの勇気がしぼむと同時に声も小さくなり、最後は蚊の鳴くような声になってしまった。
しかし、自分たちより年上のクロウリーが二人を庇ってしまったので、なんとなく怒りにくく、六花と神田は溜め息をついた。

「まあ…マジで遭難しなくてよかったけどよ…今度からラビとかセトも巻き込んで行動しろよ、お前ら」
「つーか、俺らが通らなかったら本気で遭難してただろ。ここ人通り少ねぇのに…」
「あの…二人はその人通りの少ない場所でなにしてたんですか?」

思わず不意をつかれた六花と神田は、二人揃ってきょとんとした顔になった。
しかし、すぐに真顔になって六花が言う。ちなみに六花が真顔になって言うことは、8割方まともな話じゃない。

「そりゃお前アレだろー。こんな人気のない通りで男女がすることと言ったら…逢引だ」
「息するように嘘ついてんじゃねぇよ残雪…!」
「オイオイ、照れんなよハニー。俺とお前の仲じゃねぇか」
「誰がハニーだ。お前なんかバニーだろ!この万年色情魔!!」

ウサギは英語でラビットだよ。陽菜はそう言いたかったが、神田の顔が怒りで般若のようになっていたので、怖くて口にすることはできなかった。

「くくくっ、まあ、冗談はさておき、あたしとユウはちょっと野暮用でこの先の武器庫行ってたんだよ」
「武器庫に?」
「ああ。新作が入ったって言うから、見に行ってたんだ」
「おや、そこで何やってるんだい?」
「……なんで正座してんさ、三人は」

六花達の後方からやってきたのは、セトとラビだった。

「いや、ちょっとお説教してたのよ。つーか、お前らはどったの?」
「珍しい組み合わせであるな」
「いや、実は最近暇を見てはラビにドラムを教えているんだよ」

5人はそれぞれ驚きを露わにした。初耳だ。

「前々からドラムとかに興味はあったんだけどさ、身近に演奏できる人居なくて誰にも教われなかったんさ」

そしたらセトがドラムならやったことあるっていうからラッキーだったさー。
そんなお気楽なラビの言葉に、セトは苦笑する。

「私は基本クラシックだから、ドラムは学生時代少しかじった程度なんだけどねぇ…まあ、基礎ぐらいなら教えられるかなと思ってね」
「へぇ…つーことは、この近くの部屋使ってやってんのか?」
「ああ。防音の部屋ではないが、なんというか…楽器を押し込んだような部屋がすぐそこにあるんだよ。幸いこの辺は人通りも少ないし、ちょうど良くってね」
「セト!その部屋にピアノもある!?」

セトの影響でクラシックが好きで、その中でも特に好きなピアノを習っている陽菜には、その部屋の存在はとても魅力的な情報だったようだ。目をキラキラさせてセトの服を握りしめた。

「おお!あるとも!部屋中楽器でごった返している場所だからね!」
「私も行きたい!行っていい?」
「もちろんさー陽菜。姉御たちも来るさ?確か日本の楽器っぽいものもあったけど」
「ふーん。じゃあ、行ってみっかな。お前も来いよ、ユウ。どうせ暇だろ?」
「チッ…」
「アレンとクロウリーも来いよ。陽菜の生演奏聞けるかもしれないぜ?」
「そうですね…僕らも行きましょうか、クロウリー」
「うむ!」

こうして7人はその『楽器でごった返した部屋』に行くことになった。

 


――――…どうしてセトが楽器を収納している部屋でなく、楽器でごった返した部屋と言ったのか、それは部屋に入った瞬間に皆自ずと察した。何にもなかった部屋に、楽器をあるだけ押し込めた、溢れんばかりの楽器たちがひしめく部屋。

「もの凄い圧迫感だな…」
「でも、保存状態はそれほど悪くないんだよ、これが」
「そーいや、アレンとクロちゃんはなんか楽器できんさ?」
「僕はトランペットや笛ならピエロの時少し…」
「我輩はピアノやチェロ…それに、トロンボーンを…」

お城に住んでいただけあり、クロウリーはなかなかの教育を受けていたようだ。

「わぁ!本当にピアノある!!」

お目当てのピアノが目に飛び込んで来るなり、陽菜はさっそく弾きはじめた。
セトとラビもさっさとドラムの前に行ってしまった。
残った4人はピアノとドラムの音を耳にしながら、近くの楽器を手に取ったり、見て楽しんでいた。

「すげーな、この部屋…三味線と琴…うわ、尺八発見」
「あっちには龍笛と笙もあったぞ…でも、やっぱ滅多に使われないせいか、他の楽器より、保存状態よくねぇな」

神田が試しに琴の弦を一本弾いてみると、びろぉぉ…んと、ゴムを弾いた時と同じような音しか出なかった。これには六花も顔をしかめた。

「二人はどんな楽器を演奏してたんですか?」
「んー…主に三味線とか琴だな…あたしがユウに教えたんだよなぁ…三味線なんて、遊郭じゃお座敷でよく演奏される楽器だし、小遣い稼ぎにはうってつけでさ、でも、ユウちゃんが演奏してっと、客が遊女そっちのけでユウちゃんにお熱上げちまってさぁ…あっはっは、何度かクビになったことあったよな、ユウ」
「テメェが働かずにぷーたらしてっから俺が稼ぐしかなかったんだろうがぁぁぁぁあああ!!」

この時アレンは神田にもの凄い既視感を覚えた。
ちなみに遊郭で神田に惚れて付きまとうようになった客は、全員残雪が闇に葬っている。

「しっかし、こんだけ楽器があるとなると…おっ!」

お目当てのものを見つけたらしい六花は、にんまりと笑った。

「なぁ!ちょっと合わせねぇ?」

六花の声に、陽菜とラビの演奏の手も止まった。

「へっ?ピアノとドラムで合奏するの?」
「違う違う。ここにいる奴らみんなでだよ。アレンはトランペットできるつったし、クロウリーはトロンボーンだろ?セトは確かサックスできるつってたよな?」
「そのセレクトでいくと…ジャズかい?六花」
「正解」
「楽しそう!」
「でも姉御、肝心のベースがいねぇさ」
「それは、あたしとユウでやる」

そういって六花が掲げたのはエレキベース。神田は嫌そうに顔をしかめたが、六花は見ないふりをしてやり過ごした。

「えっ、神田と六花ってベースできるんですか?」
「三味線に似てっから、試しに弾いてたら出来るようになったんだよ。で、ユウちゃんにも教えた」

六花はさっそくアンプにコードを差し込んで音の調整に入っている。反対意見は聞かないらしい。
セトやラビは六花の性格を心得ているようで、さっそく楽器のチューニングを始めた。神田も抵抗する方が疲れるだけだと、溜め息をつきながらベースを手にした。
それを見てアレンとクロウリーも苦笑しながら自分たちの弾ける楽器のチューニングを始める。

「おーっし、じゃあ試しに「sing sing sing」弾いてみっか」
「いきなりレベル高くないですか六花!」
「待って姉御!俺まだ若葉マークなんだけど!!」
「安心しろ、音外したらそのたびに失笑してやっから」
「「性質悪っ!!」」
「はっはっは。ちょっとくらいはずしたって構わないさ。なにせ、本日結成で本日解散の即席音楽隊だからね!」
「うん!みんなで演奏したらきっと楽しいよ!!」
「よーし、じゃあラビ一発恥かいてこーい」
「恥かくの決定なんさ!?ああもう!こうなりゃヤケさ!!」

まずはラビの軽快なドラムの音から始まった。
続いてクロウリーのトロンボーンが奏でられ、アレンのトランペットがその後に続いた。
そしてセトのサックスでベースの六花と神田も、ピアノの陽菜も一斉に弾きはじめた。

即席の音楽隊は、やはり技術に個人差がありすぎて、しょっちゅう誰かの楽器が音をはずして迷子になっていた。そんな不協和音まじりの演奏なのに、どこか調和は取れていて、あう時は驚くほど綺麗なハーモニーを奏でていた。

「Sing, sing, sing, sing Everybody's got to sing…」

陽菜が歌詞を口ずさみ始めたのをきっかけに、六花もその後に続いた。

「「Sing, sing, sing, sing! Everybody's got to sing! Stick around we'll have it all Music brightens up the day!!」」

かわるがわる演奏の手を止めて歌を歌い、外れた音に皆で笑う。
その日、教団のとある部屋では、音楽と笑い声が絶えなかったという。


Sing, sing, sing!!
(ラビ外しすぎですよ!)
(アレンだってさっきおもいっきし音外したじゃんか!)
(うぅ〜!指がつりそう……!!)
(ぜーぜー…お、お父さんもう肺活量ないんだから…そう連続して演奏はできないよ…)
(お前まだ30だろ!!)
(そうやって都合の良いように『もう30だ』とか『まだ30だ』とか使い分けて言わないでほしいね!!)
(肺の…空気が…)
(ちょっ、クロちゃん――――!!)
 

++++++++
坂道のアポロン見ていて久しぶりにジャズを聞きたくなった今日この頃。
ジャズの曲の中では一番好きです、sing sing sing。
映画のスウィングガールズでも演奏されていましたよね。

リクエスト小説更新

今回はシェリーさんのリクエストです。
もうちょっとアリアとのからみというよりアークとのからみになってしまったような感がいなめなくて申し訳ありません…orz
この二人の立場も複雑だよなーと思いながら書き上げてたらこのような話になりました。
少しでも楽しんで読んでいただけたら幸いです。

拍手レス

・レイさん≫アリア「拍手ありがとうございます、レイさん」

優人「同じDグレのファンの方…ってことは、他にもこのサイト見てくれているお客さんがいるんだね…」

六花「有り難いもんだよなぁ…」

アリア「とりあえず、拝んでおきましょうか」

優人「いや、お坊さんを目の前にしたお年寄りじゃないんだから」

六花「バカヤローお客様は!?」

アリア「神様です!!」

優人「ユウ兄!お願いちょっと来て!!」



・薫さん≫緑「拍手ありがとうございます、薫さん!!い、一生ファン!?な、なんだか凄くありがたいやら、申し訳ないやらで心の中がぐるぐるです(笑)もし余裕が出てきたらアンケートとかも取って見たいんですよねぇ…どれくらいの年齢の方が、どの作品を好きなのか、とか案外面白い結果が出そうでいつかやってみたいなとか考えています」
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